第41話 測られる距離
要塞奪還から四日。
東側外縁、防衛任務。
帝国の小規模侵攻。
偵察を兼ねた圧力。
アルテミスが出る。
白い機体が地を滑る。
発光ラインが淡く揺れ、粉塵を裂く。
接続値50%。
共有、安定。
「前方、ガンズ六」
フィーナの声は落ち着いている。
「了解」
レイの返答も静かだ。
残響が流れ込む。
――薄い。
フィーナはほんのわずかに眉を寄せる。
重くない。
押し潰されない。
戦場なのに、静かだ。
一機目を撃破。
胸部バルカンで武装を砕き、
両腕の超振動ブレードが装甲を裂く。
二機目。
三機目。
残響は確かにある。
だが、遠い。
“軽い”
違和感。
それでも動きは鈍らない。
むしろ、鋭い。
アルテミスは突破口を作り、第2部隊が展開する。
優勢。
そのとき。
色が走る。
桃色。
橙色。
GRASP-γ1《クインス》。
GRASP-γ2《キングス》。
二機は要塞外縁の瓦礫を滑走しながら、アルテミスに接近する。
だが、深くは入らない。
距離を測るように。
「右だ」
レイの声。
フィーナは即座に反応。
クインスの短刃が空を裂く。
直後、ブレードテイルが伸びる。
だがキングスの銃剣が弾き、軌道を逸らす。
連携。
しかし、決定打を狙わない。
撃つ。
かわす。
削る。
それ以上、踏み込まない。
クインスが正面から仕掛ける。
刃と刃がぶつかる。
火花。
フィーナは踏み込む。
押し返す。
だが追撃に入る寸前、キングスの射線が割り込む。
「左」
レイ。
体が自然に滑る。
銃弾が装甲をかすめる。
深追いしない。
二機は、常に“少し足りない”距離で引く。
観察。
記録。
測定。
戦況が共和国優勢に傾いた瞬間。
クインスとキングスは同時に後退。
追撃可能。
だがレイは言う。
「追う必要はない」
判断は合理的。
アルテミスは前線を維持し、帝国機は撤退した。
戦闘終了。
⸻
帰投。
整備ドック。
ハッチが開く。
フィーナが立ち上がる瞬間、わずかにふらつく。
レイの手が、即座に腰を支える。
早い。
近い。
必要以上に。
「…平気だよ?」
フィーナが言う。
レイは手を離す。
数秒遅れて。
「ああ」
短い声。
だがその目は、フィーナから離れない。
戦場でも。
降りた後も。
常に視界の中心にいる。
守る。
守る。
守る。
レイの中で、その衝動が強くなっている。
自覚はない。
ただ、そうするのが当然のように。
フィーナはその腕の感触を思い出す。
安心する。
でも。
少しだけ、息が詰まる。
残響は薄い。
怖くない。
なのに。
何かが、濃い。
⸻
その夜。
要塞内仮設整備区画。
ユユはアルテミスの戦闘ログを再生していた。
波形。
共有安定率。
負荷分散。
数値上、異常なし。
完璧に近い。
だが。
レイ側の波形。
ごくわずかに。
一瞬だけ。
フィーナの揺れに対して、鋭く跳ね上がる部分がある。
平均値は問題ない。
暴走もない。
崩れもない。
だが。
「……?」
ユユはログを巻き戻す。
もう一度。
同じ箇所。
跳ねる。
守るように。
覆い被さるように。
一瞬だけ、負荷の比重が偏る。
すぐ戻る。
数字は正常範囲内。
報告対象にはならない。
けれど。
「気のせい……?」
小さく呟く。
画面の波形は、何も語らない。
要塞の外で、風が鳴る。
その音が、ほんの少しだけ不吉に聞こえた。




