第36話 境界線の白
帝国と共和国の境界。
灰色の城壁が地平を断ち切る。
奪われ続けた要塞基地。
共和国が一度も完全奪還できなかった場所。
今日、その攻略が始まる。
第1部隊から第6部隊まで総動員。
その中央に立つのは――
残響共有一体型REV。
白い装甲が朝の光を受け、静かに輝いている。
⸻
滑走開始。
地面を擦る振動が、機体を通して伝わる。
「第1部隊、前進」
フィーナの声は澄んでいる。
後部接続席。
レイが波形を合わせる。
共有値、上昇。
30。
40。
50。
安定。
重いはずの残響が、薄い膜に包まれているように感じる。
うるさくない。
怖くない。
「行く」
白い機体が加速する。
⸻
敵前線。
GRASP部隊が迎撃に出る。
砲火が交差する。
アルテミスの腰部が展開。
圧縮レールキャノンが火を噴いた。
轟音。
要塞外壁の防衛砲台を一撃で貫通。
爆ぜる鉄塊。
「突破口、右側面!」
第2部隊が雪崩れ込む。
続くゼルガードが突撃。
フィーナが両腕を振る。
内蔵超振動ブレードが伸びる。
白い残光。
一閃。
二機、三機。
切断。
レイが補助操縦を重ねる。
背部から有線式ブレードテイルが射出される。
滑るように飛び、敵機の脚部へ突き刺さる。
転倒。
胸部バルカンが武装を削り取る。
守る動きと、制圧する動き。
瞬時に切り替わる。
「動きが……二つあるみたいだ」
第3部隊の隊員が息を呑む。
「一機だよな、あれ……?」
門が崩れる。
共和国軍が初めて明確な優勢を掴む。
灰色の壁が、白に押される。
⸻
重い。
それでも。
怖くない。
レイがいる。
包まれている。
自分の動きと、レイの補助が混ざり合う。
境界が曖昧になる。
だが、今はそれでいい。
今は勝つ。
⸻
その時。
レイの視線が僅かに動いた。
「右側面、熱源」
フィーナも気づく。
正面でも、内部でもない。
要塞外縁、崖沿い。
砂煙を裂く二つの軌跡。
高速滑走。
戦場に似つかわしくない、淡い色。
――薄紅。
その隣。
夕焼けを焼き付けたような――橙。
二機は崖を滑るように現れた。
共和国側の通信がざわつく。
「新型……?」
アルテミスがゆっくりと向きを変える。
距離はまだ遠い。
交戦圏外。
だが。
視線が合う。
薄紅が軽く旋回する。
橙が静かに構える。
名乗りも、通信もない。
ただ、こちらを見ている。
その橙が、わずかに前へ出た。
戦場の温度が下がる。
フィーナの胸が、かすかにざわつく。
レイが静かに言う。
「……問題ない」
だが。
アルテミスのモニターに、微かな揺らぎが走った。
白と薄紅。
白と橙。
共和国は優勢のはずだった。
それでも。
初めて、アルテミスが“見られている”と感じた。
その感覚だけが、残った。




