第35話 奪還作戦
共和国軍本部、地下ブリーフィングルーム。
巨大な戦域モニターに映し出されるのは、東部国境線。
その中央。
帝国領へと食い込むように築かれた巨大構造物。
「――東部境界要塞」
低い声が室内に響く。
フィーナは最前列に座っていた。
隣にはユユ。
円卓の周囲には、第1から第6部隊の代表者たちが並ぶ。
空気は重い。
この要塞の名を聞けば、誰もが顔を曇らせる。
共和国が幾度も奪還を試み、
そのたびに退けられた場所。
帝国側から見れば“盾”。
共和国側から見れば“喉元に刺さった棘”。
「正面突破は不可能」
説明が続く。
「防衛砲台、重装GRASP配備数は推定三十以上。地下格納区画の詳細は不明」
「滑走侵入ルートは三本。いずれも狭隘」
モニターに赤いラインが走る。
要塞は山肌と一体化している。
高低差。
狭い進入口。
上部からの一斉砲撃。
攻める側にとって、最悪の地形だ。
「しかし」
声がわずかに強くなる。
「今回は状況が違う」
画面が切り替わる。
白い機体。
鋭利なシルエット。
発光ラインはイエロー。
残響共有一体型REV
《アルテミス》。
室内の視線が一斉にフィーナへ向く。
フィーナは背筋を伸ばした。
逃げない。
もう、逃げない。
「アルテミスを先鋒とし、第1部隊が突破口を形成」
「第2、第3部隊が側面制圧」
「第4~第6部隊は侵入後の内部掃討」
モニターに作戦図が展開される。
楔のように突き刺さる白い矢印。
その中心に、アルテミス。
「敵戦力は未知数」
「だが、突破力は我々が上回る」
ざわめき。
緊張。
それでも。
今回は違う。
これまでとは。
「アルテミスは単機で戦線を押し上げられる」
言い切る。
それが前提だ。
それが軸だ。
フィーナは静かに口を開く。
「第1部隊は先行します」
声は揺れていない。
「防衛砲台を制圧し、進入路を確保します」
「第2部隊は三分後に侵入を」
冷静。
姫ではなく、隊長の声。
ユユは横目でフィーナを見る。
波形は安定している。
覚悟もある。
だが。
心の奥までは見えない。
会議は続く。
補給線。
撤退基準。
共有接続時の最大負荷。
すべてが整理されていく。
最後に。
「今回の作戦は象徴的意味も持つ」
重い声。
「共和国が奪われた土地を、取り戻す」
「一度も成功していない場所だ」
「だからこそ、成功させる」
静寂。
フィーナは拳を握る。
アルテミス。
二人で一機。
突破口を作る。
一騎当千。
その言葉が、頭をよぎる。
隣でユユが小さく囁く。
「無理しないでよ」
フィーナは視線を前に向けたまま答える。
「共有してるから、大丈夫」
迷いなく。
その言葉は、もう自然だった。
ユユは一瞬だけ目を細める。
共有しているから。
それが、前提になっている。
――それでいいのか。
問いは飲み込む。
今は作戦だ。
理屈より、勝利。
ブリーフィング終了の合図。
椅子が引かれ、各部隊が立ち上がる。
大規模作戦。
共和国総動員。
その中心に立つのは、白い機体。
そして。
フィーナは思う。
一人じゃない。
だから、怖くない。
そう思えたことに、
ほんの少しだけ安堵する。
気づかない。
その安堵が、
もう条件付きであることに。
要塞は動かない。
帝国も退かない。
境界線は、今もそこにある。
そして。
アルテミスは、初めて本当の意味で
“要塞を相手にする”。




