第34話 静かな夜、少しだけ
王城の私室。
窓の外は夜。
灯りは落としてある。
フィーナはベッドに横たわっていた。
天井を見上げる。
静かだ。
残響は、遠い。
あの戦場の重さも、あの夜のうるささも、今はない。
目を閉じる。
深呼吸。
――大丈夫。
一人でも、眠れる。
そう思う。
実際、眠れるようになった。
単独接続も10%まで戻った。
共有すれば、もっといける。
強くなった。
そう思っている。
でも。
無意識に、右手が胸元へ伸びる。
銀の首飾り。
昼間、何気なくつけたそれを、指先でそっと握る。
温度はもう、自分のものだ。
それでも。
「……レイ」
小さく、呼んでしまう。
誰もいない部屋。
返事はない。
けれど。
少しだけ、胸の奥が落ち着く。
――いる気がする。
おかしい。
分かっている。
同じ城内でもない。
今はきっと、倉庫側の特別区画。
それでも。
いる気がする。
フィーナは薄く笑う。
「いいよね……?」
強くなったはずなのに。
一人で立てるようになったはずなのに。
安心の理由が、まだ彼なのだ。
首飾りを握ったまま、目を閉じる。
鼓動は、静か。
でも。
その静けさの中心に、確かにレイがいる。
ゆっくりと、眠りに落ちる。
⸻
同じ頃。
REV倉庫側、特別区画。
レイの部屋。
照明は落ちている。
レイはベッドに横たわり、天井を見ていた。
眠れないわけではない。
ただ、目を閉じる前に思考が整理されないだけだ。
胸元に、銀の首飾り。
指で、無意識に強く握る。
残響は、完全には消えていない。
単独で20%。
戦える。
問題はない。
そう判断している。
だが。
わずかに、ざわつく。
静かなはずの夜に、微かなノイズ。
目を閉じる。
フィーナの顔を思い浮かべる。
その瞬間。
波形が整う。
ざわつきが、均される。
呼吸が、安定する。
レイはそれを「当然」と処理する。
共有しているから。
精神的に連結しているから。
合理的だ。
そう結論づける。
首飾りを握る力が、ほんの少しだけ強くなる。
「……問題ない」
小さく呟く。
自分に言い聞かせるように。
そのまま、眠りへ落ちる。
銀を握ったまま。
⸻
開発棟。
ユユは一人、モニターを見ていた。
昼間の共有ログ。
アルテミスの予備波形。
単独接続時のフィーナ。
単独接続時のレイ。
そして共有時。
グラフは安定している。
むしろ、理想的だ。
共有時の方が、二人とも精神波形が整っている。
数値上は、完璧に近い。
ユユは腕を組む。
「……綺麗すぎる」
呟く。
理論上、問題はない。
異常もない。
暴走もない。
なのに。
共有時の波形が、単独時より“明らかに落ち着いている”。
普通なら喜ぶべきだ。
成功だ。
設計は正しい。
でも。
「まぁ、いっか……今は」
小さく息を吐く。
画面を閉じる。
二人は眠れている。
戦えている。
壊れていない。
それで十分だ。
そう、言い聞かせる。
ユユは立ち上がる。
照明を落とす。
暗闇の中で、最後にモニターの残光が消える。
波形は静かだった。
静かすぎるほどに。
⸻
それぞれの夜。
フィーナは、レイを思いながら眠り。
レイは、フィーナを思いながら眠る。
互いに知らない。
その静けさが、
互いを前提にしていることを。
まだ壊れてはいない。
でも。
静けさは、
少しだけ偏っていた。




