第32話 腐れ縁
帝国・東部駐屯地外縁。
簡易都市区画。
共和国の中央広場に似た構造。
だが空気は違う。
建物は灰色。
装飾は最低限。
軍人が中央を歩き、民間人は自然と端へ避ける。
立場は隠されていない。
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甘味屋台の前。
「ん〜、甘っ。最高だにゃあ」
セナは大きなパフェを抱えている。
色が暴力的に派手。
隣でシンはカレーを睨む。
「辛味が足りねぇ。肉も硬ぇ。雑だろ」
「細かっ」
セナが笑う。
「味覚うるさい男はモテないよ?」
「黙ってろバカ」
「黙りませーん」
二人とも帝国第4部隊所属。
GRASP-06《ブレイバー》接続者。
DC3rd。
兵器ではなく兵士として作られた世代。
感情はある。
倫理は薄い。
通りの向こうのショーウィンドウ。
金の細いネックレスが並ぶ。
セナの目が止まる。
「うわ、かわいー」
シンは一瞥。
「邪魔だろ」
「かわいいじゃん」
「用途がねぇ」
「飾りだよ飾り」
「お前金ねぇだろ」
セナがにやり。
「買ってよ、相方ぁ」
シンは無視してカレーを食べる。
「自分で買え」
「冷たー」
軽口。
本気ではない。
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その時。
背後から舌打ち。
「……ちっ、DCかよ」
若い帝国兵が二人を見る。
露骨な嫌悪。
「兵士様は楽でいいよな。感情いらねぇんだろ?」
空気が変わる。
セナはパフェを持ったまま首を傾げる。
「え、なに?喧嘩売ってる?」
シンはゆっくり振り向く。
「あ?」
兵士が鼻で笑う。
「作られもんが偉そうに歩いてんじゃねぇよ」
一歩近づく。
「人間みてえな顔してよ」
静かに。
一瞬。
セナが言う。
「やめときなよー」
だが止める気はない。
シンの拳が動いた。
殴らない。
掴む。
腕を捻り、重心を崩し、地面に落とす。
最短。
最小。
完璧。
兵士が呻く。
「ぐっ……!」
シンは見下ろす。
「弱ぇなら黙ってろ」
周囲がざわつく。
数人が武器に手をかけかける。
セナが肩をすくめる。
「はいはいはい、解散解散ー」
パフェを食べながら言う。
「ウチらに喧嘩売るとこうなるよー?」
シンが腕を離す。
兵士は悔しげに睨む。
「覚えてろ……」
「覚えてねぇよ」
シンは吐き捨てる。
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二人はその場を離れる。
少し歩いてから、セナが笑う。
「短気だねぇ」
「先に言ったのは向こうだろ」
「まあそーだけど」
パフェを最後まで食べる。
「怒ってる?」
「別に」
少し間。
「……慣れてる」
セナは横目で見る。
研究所時代。
同ロット。
シンは訓練で一人壊した。
セナは何度もサボって怒鳴られた。
それでも、今ここにいる。
「相方」
「あ?」
「強いね、あたしたち」
「当然だろ」
即答。
セナは笑う。
「じゃあさ」
「邪魔なやつ、全部削ろうか」
シンは歩幅を変えない。
「必要ならな」
冷たい。
だが隣にいる。
腐れ縁。
帝国の街は夕方になっても柔らかくならない。
光はある。
温度は薄い。
二人は並んで歩く。
誰にも譲らず。
誰にも寄りかからず。
まだ、そう信じている。




