第29話 強すぎる光
数日後。
REV開発棟。
白い機体が、静かに照明を反射している。
REVR-IV。
一回り大きいフレーム。
鋭利な装甲。
白い外装に走る、細いイエローの発光ライン。
コックピットは一つ。
その内部に、前後二つの接続席。
前席――メイン操縦、フィーナ。
後席――補助制御、レイ。
ユユが端末を操作しながら言う。
「共有テスト。上限50%。
段階的に上げる」
フィーナは深呼吸する。
背後に、気配。
振り向けば見える距離。
それだけで、少し落ち着く。
レイの声が届く。
「問題ない」
その言葉に、頷いた。
接続開始。
⸻
残響共有、開始。
20%。
軽い。
アルトリリィとナハトレグのときと似ている。
だが、違う。
距離がない。
波形が、近い。
30%。
40%。
残響が流れ込む。
撃たれた声。
断ち切られた命。
重い。
だが。
背中から、静かな青が広がる。
レイ。
“俺がいる”
言葉ではない。
圧のような、包容。
フィーナの胸に落ちる。
安心。
50%。
安定。
ユユがモニターを見る。
「……問題なし」
波形は揺れない。
負荷偏差もない。
理想的な安定。
フィーナは目を閉じる。
残響は聞こえる。
でも。
軽い。
いや――
自分に落ちてこない。
レイが、受け止めている。
それが、はっきり分かる。
包まれている。
守られている。
守られすぎている。
ほんの一瞬。
自分の輪郭が、薄くなる感覚。
「……レイ」
小さく呼ぶ。
「どうした」
「重くない?」
即答。
「問題ない」
数値も正常。
ログも正常。
レイの波形も安定している。
なら。
この違和感は、何?
“失いたくない”
“俺が抱えればいい”
混ざる、無意識。
フィーナは小さく息を飲む。
でも。
怖くはない。
むしろ、心地いい。
それが、少し怖い。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせる。
50%。
安定。
解除。
⸻
アルテミスのハッチが開く。
フィーナは立ち上がる。
震えはない。
呼吸も安定している。
ユユが言う。
「どう?」
「平気」
本当だ。
単独10%より、ずっと安定している。
レイも静かに降りる。
「問題はない」
ユユはログを見つめる。
異常なし。
歪みなし。
――理想的すぎる。
「今日はここまで」
ユユは短く告げる。
⸻
開発棟の休憩室。
薄い夕陽が、窓から差し込む。
簡素なソファ。
自販機の音。
静かだ。
フィーナは紙コップを持ったまま、座る。
レイは向かいに立っていたが、少し迷って隣に座る。
距離は、近い。
「アルテミス、すごいね」
フィーナが言う。
「ああ」
「また、共有できるね」
レイは頷く。
「ああ」
少し、考える。
「……さっき」
フィーナが横を見る。
「なに?」
「軽くなったのは、俺の影響か」
真面目な問い。
フィーナは少し黙る。
「どういう意味?」
「守りたいと思った」
「失いたくないと思った」
「それが強く出た」
「抱えすぎている可能性は、ある」
フィーナの胸が、きゅっと締まる。
違和感の正体。
それだ。
でも。
それでも。
「……嫌じゃなかったよ」
小さく笑う。
「レイに包まれてるの」
本音。
レイは静かに頷く。
「なら、問題ない」
即答。
迷いはない。
フィーナは、ほんの少しだけ目を伏せる。
本当に?
問題ない?
でも。
レイは苦しんでいない。
数値も安定している。
なら。
考えなくていい。
「……ね」
フィーナが言う。
「これからも、共有しよ?」
レイは、迷わない。
「ああ」
その「ああ」は、強い。
ほとんど誓いのように。
休憩室は静かだ。
うるさくない。
安心する。
その安心の中で、
フィーナは気づかない。
レイの“守る”が、
“俺がいればいい”に、
傾いていることに。
そして、
自分がそれを、
受け入れてしまったことに。
50%。
安定。
崩壊は、静かに進んでいる。




