第28話 二人の為の機体
REV開発棟。
まだ正式運用前の区画。
遮光カーテン越しに差す光が、白い機体を淡く照らしている。
そこに立つのは――
REVR-IV
白を基調とした装甲。
鋭く引き締まった輪郭。
走る発光ラインはイエロカラー。
アルトリリィより、一回り大きい。
フィーナは、無言で見上げていた。
「……白い」
ぽつりと漏れる。
レイは横に立つ。
「アルトリリィとは、骨格が違うな」
「二人分の出力を前提としている」
ユユが腕を組む。
「さすが、気づくの早いね」
一歩、前へ。
「REVR-IV」
「二人接続型。コックピットは一つ」
「接続席は二つ」
フィーナの眉がわずかに動く。
「……二人で、一機?」
驚きは、薄い。
ユユはその反応を見て頷く。
「忘れちゃったの?」
「REV-IV」
その名に、フィーナの記憶が揺れる。
白い機体。
ユユと一緒に接続した。
残響分散機構。
「……あれは、分散だったよね」
フィーナが言う。
「うん」
ユユは淡々と続ける。
「エレジアは残響を二人で割る設計」
「接続値上限を上げるための機体」
「支える思想じゃない。効率の思想」
フィーナは小さく頷く。
分かっている。
あれは“強くなる為”の機体だった。
ユユはアルテミスへ視線を戻す。
「でもこれは違う」
一拍。
「二人の共有を、最初から一機の中でやる設計」
レイは静かに機体を見上げる。
「前後配置か」
「フィーナが前席。俺が後席」
ユユが口角を上げる。
「そ」
「メイン操縦はフィーナ」
「レイは補助と制御補正」
フィーナは、ゆっくりとコックピットを見つめる。
前に自分。
後ろにレイ。
自然と、思う。
振り返ればいる。
レイは思う。
常に、視界の延長にフィーナがいる。
誰も口にはしない。
だが、その距離は明確だった。
「二人の専用機になる」
ユユが言う。
「正式配備はまだ先」
「今は設計段階」
「でも」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「二人の為の機体」
フィーナは、そっと装甲に触れた。
冷たいはずなのに。
どこか、安心する。
「……月みたい」
ぽつりと漏れる。
レイが視線を向ける。
「月?」
フィーナは笑う。
「ううん、なんでもない」
レイは何も言わない。
だが心の中で思う。
私が月なら、照らす光が必要だ。
それが誰かは、言わない。
ユユは二人を見る。
一瞬だけ、真面目な目になる。
(どっちかが壊れたら、もう片方も壊れる)
(このままじゃ、どっちも壊れる未来)
だから設計した。
支える為ではない。
“繋ぎ続ける為”に。
それを言葉にはしない。
「ま、今日は見せるだけ」
ユユが軽く言う。
「まだ動かせないし」
「私はこの子の各部確認もあるから」
「二人は帰りなー」
夕方の光の中、二人は開発棟を後にする。
⸻
帰り道
空は橙色に染まり、石畳に長い影が落ちている。
しばらく無言。
フィーナが、ふと呟いた。
「……また、共有できるね」
アルテミスのことだ。
レイは頷く。
「ああ」
そして、少し考えて。
「……そういえば」
「分からないことがあった」
フィーナが首を傾げる。
「どんなこと?」
レイは真顔で言う。
「あの時の口づけは、なんの意味になるんだ」
フィーナが固まる。
「っ!」
一気に顔が赤くなる。
「そ、それは……」
「えと…共有…」
視線が泳ぐ。
理屈がない。
説明もできない。
「……ううん、違うね」
レイが首を傾げる。
「違う?」
フィーナは小さく息を吐く。
「キスは共有じゃなくて」
少し迷って。
「独占、かな」
「……?」
レイは処理中の顔をする。
「意味とか、私も分かんないけど」
フィーナは照れながら言う。
「好きな人だから、したくなっちゃった」
「それだけ」
レイは数秒考える。
「そういうものか」
「うん」
フィーナが頷くと。
レイが続けた。
「なら」
一拍。
「俺もしよう」
フィーナが固まる。
「へっ?」
「キスを」
真顔。
「…待って待って待って!」
フィーナが両手を振る。
「なぜだ?」
「心の準備とかあるでしょ!」
レイは冷静だ。
「俺はされた」
「そうだけど!」
「なら、待とう」
「準備を頼む」
フィーナは混乱する。
数秒。
深呼吸。
手鏡を取り出し顔の確認。
「……よし」
レイが一歩近づく。
「いいか」
フィーナはぎゅっと目を閉じる。
「う……お願い、します」
触れる。
短く。
静かに。
フィーナが目を開ける前に、レイは少し離れた。
「悪くない」
フィーナの顔が爆発する。
「な、なにその感想!」
レイは淡々と。
「共有とは違うが」
「静かだった」
夕暮れの風が吹く。
二人の距離は、もう曖昧ではない。
⸻
その夜。
レイは自室で思い返す。
鼓動がうるさい。
残響ではない。
自分の音。
「……独占」
意味は、まだ完全に分からない。
だが。
悪くないと思った。
一方、フィーナは私室のベッドに倒れ込む。
枕に顔を埋める。
残響よりも。
戦場よりも。
心臓の音がうるさい。
「……レイからなんて、ずるい」
それでも、笑っていた。




