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第24話 うるさい鼓動

夕方の中央広場。


噴水の水音がやわらかく響く。


昼間より人は少ない。


橙色の光が石畳を染めている。


レイは先に来ていた。


自分で呼び出した。


だが、何を言うかは決めていない。


足音。


振り向く。


フィーナ。


少し息を弾ませている。


目が合う。


どちらも一瞬、言葉が出ない。


フィーナが先に言う。


「……座ろ?」


ベンチを指す。


レイは頷く。


隣に座る。


沈黙。


噴水の音。


夕方の風。


フィーナが小さく言う。


「その……連絡、嬉しかった」


レイは視線を前に向けたまま。


「いや……」


一拍。


「急で悪かった」


「ううん、大丈夫」


フィーナは少し笑う。


「別に用はないんでしょ?」


レイが横を見る。


「なぜ分かる」


「共有してるから」


即答。


レイの目が揺れる。


「分かるのか」


「嘘嘘」


肩をすくめる。


「でも……そうかなって思ったから」


レイは息を吐く。


「……少し、不安だった」


フィーナの胸が締まる。


「フィーナが辛いのは」


「俺のせいかもしれないと」


同じだ。


自分と。


私のせいでレイが。


レイは、自分のせいで私が。


同じ場所に立っている。


それが、あたたかい。


とても、愛おしい。


フィーナは小さく息を吸う。


「……少し、動かないで」


レイがこちらを見る。


次の瞬間。


フィーナが近づく。


唇が触れる。


一瞬。


けれど、確かに。


レイは動かない。


動けない。


離れる。


フィーナは顔を上げたまま、涙目になっている。


頬が赤い。


瞳が揺れている。


逃げない。


でも、震えている。


「ごめんね」


声が少し掠れる。


「甘えてばっかりで」


「無理させて」


一歩も下がらないまま、言う。


「それでも言わせて……」


涙がにじむ。


「私はレイが好き」


静かに落ちる言葉。


レイの思考が止まる。


好き。


意味は分かる。


でも処理が追いつかない。


「それは…」


「意味は分からなくてもいい」


少し笑う。


泣きそうなのに。


「後からでいいよ」


「でも、私はこれで少しは、軽くなった」


正直だった。


不安も。


依存も。


全部込みで。


レイは何も言えない。


胸がうるさい。


残響ではない。


自分の鼓動が、やけに大きい。


しばらく。


二人は並んで座っていた。


空が暗くなる。


風が冷える。


「……寒くなってきたね」


フィーナが言う。


レイは頷く。


「送る」


「ううん、大丈夫」


少し笑う。


立ち上がる。


距離が、少し開く。


別れ際。


視線が交わる。


言葉は出ない。


それでも、確かに何かが変わっている。



レイは自室に戻り、椅子に座る。


静かなはずの部屋。


だが、胸が落ち着かない。


好き。


あの言葉。


あの感触。


思考を整理しようとすると、鼓動が邪魔をする。


残響よりも。


今は自分の心音の方がうるさい。


理解はできない。


だが。


フィーナといるときの静けさを、失いたくない。


それだけは、はっきりしている。



フィーナはその夜、眠れなかった。


ベッドの上。


天井を見つめる。


残響は、ある。


けれど。


それよりもうるさい。


自分の心臓。


唇の感触を思い出すたび、鼓動が跳ねる。


顔が熱い。


布団に顔を埋める。


「……やっちゃった」


小さく呟く。


レイの鼓動よりも。


きっと今は。


自分の方が、死にそうなくらい、うるさい。


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