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第22話 隣という距離

特別区画を出たとき、目的はなかった。


整備もない。

訓練もない。

出撃命令もない。


足は自然と街へ向いていた。


理由は分からない。


ただ、静かな場所を探しているような感覚だった。


中央広場。


噴水の水音。

子どもたちの笑い声。


青いREVの玩具を振り回しながら、少年が走っている。


「それ俺のだって!」


追いかける別の子ども。


その瞬間、足がもつれる。


倒れる。


「危ない」


声が出ていた。


身体が先に動く。


少年の腕を掴み、支える。


軽い。


温かい。


少年はぽかんとレイを見上げる。


「……あ、ありがと」


「気をつけろ」


それだけ言って手を離す。


少年はすぐに笑う。


「お兄ちゃん、強そうだね!」


その無邪気さに、言葉が詰まる。


強い。


それは知っている。


だが。


少年はもう走り出していた。


青い玩具を振り回しながら。


レイは、その背中を少しだけ見つめる。


胸の奥が、わずかに静かだ。



広場を抜け、市場へ。


銀飾りの店の前で足が止まる。


以前、フィーナと立ち止まった場所。


店主が顔を上げる。


「あれ、今日はお一人?」


レイは頷く。


「姫様は?」


「分からない」


店主は鼻で笑う。


「最近、辛そうなんだよね姫様」


レイの視線がわずかに揺れる。


「隠してるつもりみたいだけど、分かるもんだよ」


飾りを磨きながら、続ける。


「あんたが隣にいる時は、楽そうだったもんだ」


レイは何も言わない。


「なぁ、あんた達できてるのかい?」


唐突な問い。


「何がだ」


「ほらあれだよ、付き合ってるのかってことさ」


軽い調子。


だが、目は真面目だ。


レイは考える。


共有はしている。

支えている。

戦えている。


だが。


「……分からない」


正直に言う。


店主はふっと笑う。


「お前さん本当に分かってない顔だね」


「ま、若いんだし」


レイはショーケースの中を見る。


以前、フィーナが選んだ銀飾り。


「壊れやすいか」


唐突な質問。


店主は肩をすくめる。


「壊そうとしなきゃ、そう簡単には壊れないよ」


一拍。


「でも無理させると、曲がっちまうね」


その言葉は、妙に重かった。



市場を抜けたところで、声がかかる。


「レイ」


第1部隊の隊員だった。


以前、不満を口にしていた男。


今は表情が違う。


「この前の任務、助かりました」


「俺の反応が遅れた時」


レイは淡々と答える。


「任務だ」


隊員は首を振る。


「それでもです」


一拍。


「姫様、無理してますよね」


レイは黙る。


「俺たちじゃ、あの人を静かにできない」


悔しさが混じる。


だが責めてはいない。


「だから」


まっすぐに見る。


「ちゃんと、隣にいてあげてください」


頼みではない。


託す、という響き。


レイは小さく頷く。


「ああ」


それは命令ではない。


選択だ。


隊員は軽く頭を下げ、去っていく。



広場に戻る。


さっきの少年が、また転びかける。


今度は自分で踏みとどまった。


立ち上がり、笑う。


レイは気づく。


支えるだけが、隣ではない。


立てるようにすることも、隣かもしれない。


胸の奥が、静かだ。


だが同時に。


少しだけ、会いたいと思った。


それは共有とは違う。


任務とも違う。


ただ。


顔が見たいと思った。


レイは端末を取り出す。


しばらく画面を見つめる。


送るべきか。


迷う。


だが、指が動いた。


《今から少し会えないか》


短い文章。


理由は書かない。


送信。


数秒後。


既読がつく。


レイは、わずかに息を吐く。


胸の奥が、ほんの少しだけ軽くなる。


静かだ。


うるさくない。


それは共有ではない。


ただ。


会いたいと思って、連絡しただけだった。


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