第21話 1つの答え
REV倉庫・特別区画。
夜。
最低限の照明だけが部屋を照らしている。
ベッド。
机。
端末。
簡素な空間。
電子ロックが解除される。
ユユが入ってくる。
レイは椅子に座っていた。
起きている。
ユユは前置きをしない。
「今日の戦闘ログの件」
レイはすぐに理解する。
「単独接続20%」
ユユは端末を展開する。
空中に浮かぶ波形。
戦闘中の神経ログ。
帰投後の脳波推移。
揺れている。
明らかに。
戦闘終了後も、減衰が遅い。
「これ、どういう状態?」
レイは静かに見る。
数値を追う。
「許容範囲内」
即答。
ユユは眉をひそめる。
「どこが」
「動作精度低下なし」
「反応遅延なし」
「作戦成功」
事実を並べる。
兵器としての評価。
ユユは低く言う。
「内部の負荷が問題なの」
「終了後も波形が荒れてる」
レイはわずかに目を伏せる。
「……うるさい」
小さく。
「戦闘中も」
「今も」
ユユの視線が鋭くなる。
「耐えられてるからいいって話じゃない」
レイは冷静に返す。
「耐えられている」
「20%は維持できる」
「単独でも戦える」
誇張ではない。
事実だ。
だからこそ危うい。
ユユは一歩近づく。
「“無理してる”自覚は?」
レイは数秒考える。
「ある」
正直に。
「だが、支障はない」
ユユは即座に返す。
「それ、壊れる人の思考」
沈黙。
レイは視線を上げる。
「俺は兵器だった」
「この程度で崩れない」
「“だった”でしょ」
その一言が落ちる。
レイの瞳が、ほんの僅かに揺れる。
「……人間寄りになったことで」
「揺れが増えている可能性はある」
自己分析。
冷静だ。
「だが、それは弱体化ではない」
ユユは端末を切り替える。
共有時のログ。
単独時のログ。
差は明確だ。
「共有してる時は安定してる」
「単独だと荒れる」
レイは否定しない。
「事実だ」
ユユはまっすぐ言う。
「あなた、共有中に負荷を抱え込んでる可能性がある」
一瞬。
レイの呼吸が止まる。
だが表情は変わらない。
「意図していない」
「データ上は均等だ」
「データ上は、ね」
ユユは静かに続ける。
「共有値65%」
「理論上は二人分」
「でも、あなたの波形の振幅が大きい」
レイは黙る。
理解している。
否定できない。
それでも。
「共有は止めない」
はっきり言う。
「単独より安定する」
「任務成功率が上がる」
「合理的だ」
ユユは目を閉じる。
止める言葉が、足りない。
「今は休んで」
それしか言えない。
「接続テストも実戦も、しばらく停止」
レイは少し考え。
「了承する」
抵抗しない。
それが、怖い。
ユユは端末を閉じる。
「壊れたら許さないから」
レイはぎこちなく笑う。
「壊れない」
その笑顔は、不器用で。
少しだけ無理をしている。
ユユは部屋を出る。
廊下を歩く。
REV開発棟へ向かう。
静かな格納庫。
白い《アルトリリィ》。
青い《ナハトレグ》。
二機が並ぶ。
「……2人は1つ」
小さく呟く。
もし共有で負荷が偏るなら。
機構で分けるんじゃない。
最初から――
偏らない前提で作る。
端末を起動。
新規設計。
フレーム再構築。
LNS経路再設計。
共鳴経路を二重化。
片側過負荷時、自動補正。
負荷流量制御を可変化。
ユユは、迷わない。
「半分ずつ、なんて甘い」
「最初から、均衡させる」
設計名を入力する。
REVR-IV
月の女神。
静かに照らす存在。
「今度は私が守る」
青でも白でもない。
その先へ。
新しい機体が、静かに生まれ始めていた。




