第20話 休めない理由
王城・私室。
朝の光が薄く差し込む。
フィーナはベッドに座ったまま、まだ制服にも着替えていない。
扉が開き、ユユが入ってくる。
いつもの軽い足取りではない。
静かだ。
「フィーナ」
名前を呼ぶ声が、少しだけ硬い。
依存、その言葉の意味。
フィーナは顔を上げる。
「……依存してるって、どういう意味?」
真っ直ぐ見る。
否定の目だ。
「そんなの、違うよ」
ユユは即答しない。
端末を開き、空中に波形を展開する。
「前回の単独戦闘ログ」
グラフが揺れている。
「接続値7%で脳波乱高下」
「戦闘中はアドレナリンで保ってた。でも帰投後に崩壊」
フィーナの視線が逸れる。
「疲れてただけ」
「いつもより残響が濃かっただけ」
「偶然だよ」
ユユの目が鋭くなる。
「偶然で、ここまで落ちない」
「共有65%で安定」
「単独7%で崩壊」
「これは傾向」
淡々としているが、声音は低い。
フィーナが立ち上がる。
「じゃあ何?」
「レイがいないと私は何もできないって言いたいの?」
感情が滲む。
ユユは一歩も引かない。
「現状はそう」
「データがそう言ってる」
フィーナの拳が震える。
「……7%でも戦える」
小さく、でも強く。
「私、やるよ」
ユユの声が強まる。
「無理だよ!」
部屋の空気が震える。
ユユが本気で怒鳴るのは珍しい。
「20%で戦えるから、前線に立てた」
「20%あれば、生存率が跳ね上がる」
「だから国はあなたを出せた!」
一歩、近づく。
「一般兵と同じ接続値じゃ、死ぬ可能性が上がる!」
「それは国が許さない!」
「私も許さない!」
最後の一言は、理屈じゃない。
フィーナの目が揺れる。
「……私だって」
声が震える。
「私だって、戦いたいの」
「守りたいの」
「怖いけど、それでも接続者として前に立つって決めたの」
涙が滲む。
「それを取り上げないでよ」
ユユは息を荒くする。
でも、引かない。
「取り上げてない」
「壊れたまま行くなって言ってるの!」
「今のあなたは……壊れてる」
沈黙。
フィーナの呼吸が止まる。
壊れてる。
その言葉は、刺さる。
ユユは少しだけ声を落とす。
「フィーナ」
「もう一度言う」
「あなたは今、1人じゃ戦えない」
一拍。
「共有がなかったら、今も接続席から出られなかった」
フィーナは俯く。
分かっている。
分かっているから、反論が弱くなる。
「……じゃあ」
掠れた声。
「私は何」
「王女として、立ってるだけ?」
ユユは静かに答える。
「今は、休む人」
「整える人」
「壊れたまま出す方が無責任だからさ」
フィーナの肩が落ちる。
「……これじゃ、お飾りだ」
自嘲。
悔しさ。
納得も、している。
ユユは言い切る。
「だから、今は休んで」
「戻す方法は、考える」
そして、少しだけ声を柔らかくする。
「レイも揺れてる」
フィーナの目が上がる。
「あなたが崩れたら」
「二人とも終わる」
それは脅しではない。
事実。
ユユは踵を返す。
扉の前で止まり、振り向かないまま言う。
「私は二人とも壊したくない」
扉が閉まる。
静寂。
フィーナはその場に立ち尽くす。
依存。
否定した。
でも。
夜、レイの部屋に行った理由は?
一人で眠れなかった。
一人で静かになれなかった。
涙が落ちる。
ぽつりと、零れる。
「……共有したい」
言った瞬間、自分で驚く。
戦うため?
安定するため?
違う。
ただ。
傍にいたい。
それだけ。
フィーナは苦笑する。
「……私、ほんと」
呆れたように、笑う。
依存。
認めたくない。
でも。
手放したくもない。




