第2話 分かんない
共和国中央議事堂。
白い大理石の廊下を、ヒールの音が規則正しく響く。
扉が開く。
円卓。
壁面モニター。
帝国軍の進軍線が赤く表示されている。
「東部国境、三週間以内に小規模衝突の可能性」
「カルネア連邦からの資材搬入は予定通り」
「均衡は保たれております」
均衡。
便利な言葉だと、フィーナは思う。
保たれているのは数字だ。
前線の空気ではない。
フィーナは席に着く。
ルミナリア共和国王女。
そして、REV第1部隊隊長。
両方の肩書きを持ったまま。
「第1部隊の稼働状況は」
視線が向く。
フィーナは答える。
「即応可能です」
「ただし、新型配備直後のため長期戦は推奨しません」
理性的。
淡々と。
隊長としての発言。
「帝国側の新型GRASPに関する情報は」
「詳細不明」
「ただし接続上限は40%超の可能性」
部屋がわずかにざわめく。
「カルネアは?」
別の声。
「交易は継続中です」
「両国に対し、中立を維持」
中立。
また便利な言葉だ。
フィーナは一瞬、窓の外を見る。
春の空。
静かだ。
会議は続く。
資源。
接続値。
損耗率。
戦力比。
誰も“死”とは言わない。
誰も“怖い”とは言わない。
最後に議長が言う。
「現状維持が最善です」
最善。
フィーナは軽く頷く。
王女として。
異論は言わない。
言えない。
会議は終了する。
⸻
夕方。
REV倉庫。
アルトリリィが静かに佇んでいる。
起動していない。
触れてもいない。
フィーナは機体を見上げる。
白い装甲。
きれいだ。
でも、前線に出れば傷だらけになる。
後ろから足音。
ユユ。
工具箱を片手に近づく。
「会議?」
「うん」
短い返事。
ユユは機体を見る。
「均衡、ってやつ?」
フィーナは苦笑する。
「便利だよね、その言葉」
ユユは肩をすくめる。
「壊れてないことにしてるだけだよ」
少しの沈黙。
倉庫は広い。
風が通る。
遠くで整備音が小さく鳴る。
ユユがぽつりと言う。
「いつ終わるんだろうね、戦争」
冗談じゃない。
皮肉でもない。
ただの疑問。
フィーナは少し考える。
王女としてなら、
「必ず終わらせる」と言うべきかもしれない。
隊長としてなら、
「終わらせるために戦う」と言うべきかもしれない。
でも。
「……分かんない」
正直な答え。
ユユは何も言わない。
フィーナも続けない。
倉庫の天井を見上げる。
白い機体。
青い機体。
まだ静かだ。
まだ、壊れていない。
でも。
答えは、どこにもない。
春の風が、格納庫を通り抜ける。
戦争は、今日も終わらない。




