第1話 共有しよ?
春の風が、REV倉庫のシャッターの隙間から吹き込んでくる。
広い格納庫。
整備ドックの中央に並ぶ二機。
白と青。
共和国最新鋭――
REVR-II。
REVR-III。
フィーナは白い機体を見上げていた。
「……やっぱり綺麗」
アルトリリィは白を基調とした滑らかな装甲。
REVの流れを汲みながら、内部構造は完全に新設計。
共鳴前提フレーム。
その隣に立つナハトレグ。
同じ骨格。
だが青。
夜を纏ったような色。
整備ハッチの上から声が降る。
「見た目で満足しないでよ」
ユユだ。
脚をぶらぶらさせながら言う。
「共有前提設計。
最初から二機で一つの思想」
フィーナは笑う。
「分かってるよ」
「ありがとう、ユユ」
ユユは素っ気なく返す。
「設計者として当然」
視線が青い機体へ向く。
「レイ、昨日から触りすぎ」
ナハトレグの足元で、レイが膝をついている。
レゾネイトスーツの上に軽装ジャケット。
工具を持ち、コックピット下部の接続ラインを確認していた。
「共鳴補助ラインに誤差0.3」
淡々と言う。
「昨夜の調整で修正済み」
ユユが答える。
「ちゃんと寝た?」
レイは数秒止まる。
「問題ない」
フィーナがじっと見る。
「ユユと夜中まで話してたでしょ」
レイは視線を上げる。
「設計意図の確認だ」
事実だけを述べる。
フィーナは少しだけ頬を膨らませる。
「私には言ってくれないのに」
ユユが吹き出す。
「いやいやいや、フィーナには分かんない話」
「それとも嫉妬?」
フィーナはすぐ否定する。
「違うから!」
レイは本気で首を傾げる。
「何が違う?」
フィーナは視線を逸らす。
「それは……別に」
数秒。
それから、わざとらしく明るく言う。
「今日は軽く共有シミュレーションしない?」
ユユが即座に反応する。
「いきなり?」
「上限20%同士だし、まだ未登録のREVだよ?」
フィーナは肩をすくめる。
「だからでしょ」
「今の私たちで、どこまでいけるか」
レイは立ち上がる。
青い機体を見る。
それから白い機体を見る。
「共有時、受容量は理論上70超」
「ただし精神負荷は未知数」
理屈。
兵器の思考。
フィーナが一歩近づく。
距離が、自然と縮まる。
「怖い?」
レイは即答しない。
考える。
「……怖い、の定義が曖昧だ」
フィーナは小さく笑う。
「じゃあ、共有しよ?」
軽い声。
でも。
どこか、真剣だ。
レイは彼女を見る。
戦場ではない。
血も煙もない。
ただの倉庫。
春の光。
白と青。
静かだ。
彼女の近くは、静かだ。
「構わない」
短く答える。
フィーナの胸が少しだけ跳ねる。
「うん」
ユユが呆れたように言う。
「はいはい、じゃあ私は外から見るからね」
「二人とも、無理はしないようにー」
二機が起動準備に入る。
白いアルトリリィ。
青いナハトレグ。
レゾネイトスーツの接続ラインが淡く光る。
フィーナが最後にレイを見る。
「昨日みたいに黙って無理しないでよ?」
レイは一瞬だけ止まる。
「……意図的ではない」
フィーナはムッとする。
「そういうの…」
そして、少しだけ笑う。
「ちゃんと共有してよ?」
起動音が重なる。
LNSライン接続。
数値がゆっくり上昇する。
20%。
20%。
リンク待機。
二つの波形が、近づく。
触れる。
重なる。
倉庫の空気がわずかに震える。
その瞬間。
レイは思う。
うるさくない。
むしろ、静かだ。
フィーナも目を閉じる。
重い。
でも、溢れない。
「……聞こえる?」
フィーナが小さく言う。
「聞こえる」
レイが答える。
「お前の波形が」
それは残響ではない。
ただの、存在。
ユユがモニターを見ながら呟く。
「ほんとに兄弟機だね」
「いや、カップリング機?」
フィーナが真っ赤になる。
「ち、違う!」
レイは真顔で聞く。
「何が違う?」
倉庫に笑いが落ちる。
春の光が、二機を照らす。
まだ100%じゃない。
20%。
それでも。
共有は、始まっている。
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邪神山阿波男です。
「残響兵器」の第二部となります。
第一部の主人公はルクとレイの双子でした。
第二部の主人公はフィーネリア(フィーナ)になります。
彼女の活躍にご期待下さいませ。




