第18話 問題ない
共和国北部、防衛ライン。
フィーナは王都にいる。
外交会談。
予算承認。
カルネアとの交易調整。
戦場には出られない。
その代わりに――
第1部隊が出る。
アルトリリィは格納。
ナハトレグも待機。
今日は量産型《REV-VI エルナイト》での防衛任務。
レイ、接続値20%。
単独接続。
残響共有なし。
⸻
接続開始。
残響が流れ込む。
――撃て
――助けて
――やめろ
濃い。
重い。
うるさい。
レイは息を整える。
問題ない。
兵器だった。
50%も耐えた。
20%だ。
問題ない。
滑走開始。
敵小隊接触。
中距離火線。
銃撃。
正確。
反応速度は落ちていない。
動きは鈍らない。
帝国GRASPが一機、二機と崩れる。
そのたび。
残響が流れ込む。
うるさい。
昔は、雑音だった。
ただの情報。
今は違う。
声として聞こえる。
叫びとして残る。
うるさい。
「問題ない」
無意識に呟く。
誰も聞いていない。
戦闘は短時間で終結。
防衛成功。
損害軽微。
作戦成功。
⸻
帰投。
ハッチが開く。
レイは立ち上がる。
足は震えていない。
視界も正常。
問題ない。
倉庫でユユが待っている。
「おかえり」
軽い声。
だが目は観測者だ。
レイが降りる。
「作戦は成功した」
「被害軽微」
淡々と報告。
ユユは頷く。
「うん、見てた」
タブレットを操作する。
脳波ログ展開。
波形。
乱高下。
鋭い振幅。
不安定域を何度も踏んでいる。
ユユの眉が寄る。
「……ちょっと」
レイが見る。
「何だ」
「これ」
端末を見せる。
「かなり揺れてる」
レイは数秒、画面を見る。
事実は理解する。
だが。
「問題ない」
即答。
ユユの視線が鋭くなる。
「“問題ない”の基準が壊れてるんだよ」
レイは少しだけ笑う。
不器用に。
「作戦は成功した」
「機体損傷もない」
「俺も立っている」
「問題はない」
その笑顔。
以前より柔らかい。
人間らしい。
だからこそ。
ユユの胸が締めつけられる。
「……」
言葉が出ない。
これは兵器の耐久ではない。
人間の我慢だ。
レイは歩き出す。
「休めば回復する」
背中は真っ直ぐ。
揺れていない。
だが。
ユユの端末には、はっきり残っている。
20%。
単独。
限界域、接触。
何度も。
ユユは唇を噛む。
これは。
共有機構の副作用。
65%。
あのとき。
レイが多く抱えていた可能性。
それを、単独戦で証明してしまった。
自分が設計した。
残響共有機構。
人間だから起こる現象。
でも。
設計したのは自分だ。
フィーナも。
レイも。
こうなってしまったのは。
「……私のせいだ」
小さく呟く。
すぐに首を振る。
落ち込む暇はない。
技術者だ。
感情に沈むな。
次に活かせ。
波形を保存する。
解析対象フォルダへ。
「止める方法を考えろ」
自分に言い聞かせる。
レイは倉庫奥へ消える。
歩き方は変わらない。
だが。
ユユには分かる。
あれは“問題ない”ではない。
“止まれない”だ。
静かな倉庫に、残響はない。
でも。
何かが、確実に軋み始めている。




