第16話 傍にいる
REV倉庫。
朝の光はまだ弱い。
整備ドックの中央に並ぶ二機。
白い《アルトリリィ》。
青い《ナハトレグ》。
その前に、レイが立っていた。
ユユが工具箱を閉じる。
「……で?」
「どういうつもり?」
レイは迷わない。
「残響共有シミュレーションを行いたい」
ユユは眉をひそめる。
「今?」
「フィーナの単独接続が7%で崩れたの、忘れてないよね?」
「共有は負荷が跳ね上がる可能性もある」
レイは静かに言う。
「だからだ」
一拍。
「一人で耐えさせる必要はない」
その言葉に、ユユは視線を細める。
成長している。
理屈ではなく、選択として言っている。
背後で、フィーナが立っている。
少しだけ不安そうに。
「……私も、やってみたい」
小さな声。
「このままじゃ、嫌」
ユユは二人を見る。
「もし崩れたら?」
レイは即答する。
「支える」
ユユは深く息を吐いた。
「……無茶しないでよ」
「初期上限20%。共有時は制御優先」
「暴走したら即切断」
レイは頷く。
フィーナも、頷く。
⸻
レゾネイトスーツが淡く光る。
接続開始。
残響共有、開始。
数値が上がる。
20%。
20%。
リンク。
重なり。
触れる。
瞬間。
フィーナの視界が揺れる。
――重い。
あの日の戦場。
一人だったとき。
濃い残響。
うるさい。
こわい。
やめて。
胸が締めつけられる。
逃げたい。
だが。
包まれる。
静かな青。
レイ。
“俺は傍にいる”
声ではない。
波形。
温度。
呼吸。
フィーナは深く息を吸う。
まだ聞こえる。
残響は消えていない。
だが。
一人じゃない。
「……大丈夫」
小さく呟く。
数値が上がる。
40。
50。
60。
ユユがモニターを見る。
「安定してる……?」
65%。
通常理論値を超えている。
だが、崩れない。
フィーナは目を閉じる。
こわい。
うるさい。
でも。
レイがいる。
手を伸ばすような感覚。
掴む。
共有する。
“ここにいる”
レイの波形が近い。
近すぎるくらい。
レイもまた、感じている。
フィーナの揺れ。
恐怖。
不安。
だがそれを抱えることを、拒まない。
むしろ。
強く握る。
“俺がいればいい”
その思考が、無意識に混ざる。
65%。
安定。
ユユが小さく息を吐く。
「……おかしい」
「上がってる」
解除。
静寂。
コックピットが開く。
フィーナはゆっくりと顔を上げる。
震えていない。
呼吸も整っている。
「……平気」
自分でも信じられないように言う。
レイが頷く。
「問題ない」
ユユが二人を見る。
「……なんで上がるの」
理論外。
説明不能。
フィーナがレイを見る。
さっきまで怖かったはずなのに。
今は、静かだ。
レイが言う。
「共有すれば、耐えられる」
当たり前のように。
フィーナは微笑む。
「うん」
そして。
ほんの少しだけ。
胸が締めつけられる。
もし。
レイがいなかったら?
考えない。
考えないようにする。
レイはアルトリリィを見る。
それからフィーナを見る。
「今後も共有を継続したい」
自然に出る言葉。
「必要だ」
ユユは黙る。
必要。
それは、戦術か。
それとも。
レイの視線はフィーナから離れない。
静かだ。
うるさくない。
この状態を、失いたくない。
フィーナは気づかない。
レイの中で。
“共有したい”が、
“離れたくない”に変わり始めていることに。
65%。
それは成功値ではない。
依存の数値だった。




