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第15話 ひとりの音

アルトリリィのハッチが開いたまま。


倉庫は静かだ。


フィーナはまだ、接続席の中で震えている。


ユユが短く言う。


「レイ」


振り向かない。


「私はREVの整備しておくから」


一拍。


「フィーナをお願い」


レイは頷く。


コックピットに上がる。


「フィーナ」


返事はない。


「フィーナ」


三度目で、ゆっくり顔が上がる。


涙で濡れた瞳。


焦点が揺れている。


レイの顔を認識する。


その瞬間。


堰が切れた。


フィーナは身を乗り出し、レイに縋る。


「レイ……」


震える声。


「うるさいの……」


「こわいの……すごく」


胸に押しつけられる額。


子どものように。


「だから、お願い……」


掠れる。


「傍に……傍に居て……お願いだから」


レイは迷わない。


「……ああ」


ただ、それだけ。


抱き締めはしない。


だが離れない。


触れられる距離にいる。


それだけで、呼吸が少しずつ整っていく。



その夜。


フィーナはレイの特別区画の部屋で休んだ。


ベッドに横になっても、すぐには眠れない。


目を閉じるたび、残響が蘇る。


「フィーナ」


レイが呼ぶ。


静かに。


一定の間隔で。


「俺はここにいる」


何を言えばいいのか分からない。


だから事実だけを言う。


「傍にいる」


その繰り返し。


やがて。


フィーナの呼吸が深くなる。


震えが止まる。


指先の力が抜ける。


眠った。


レイはしばらく動かなかった。


彼女の呼吸が完全に安定するまで。



翌朝。


テストルーム。


ユユの表情は技術者だ。


「今の単独負荷限界を出す」


フィーナは黙って頷く。


接続開始。


5%。


問題なし。


6%。


呼吸が浅くなる。


7%。


脳波が乱れる。


モニターが赤く点滅。


「切断」


強制遮断。


フィーナは接続席で息を荒げる。


20%だった。


かつては。


今は、7%。


ユユは淡々と言う。


「今のあなたの単独負荷限界はこの辺」


「共有に慣れすぎた」


フィーナは目を伏せる。


理解している。


言われなくても。


「でも……」


小さく言う。


「レイと共有すれば……」


ユユは首を振る。


「それはね」


優しくない声音。


「レイが残響を多く抱える可能性もあるってことだよ?」


沈黙。


レイは何も言わない。


ただ立っている。


フィーナの視界が滲む。


自分は、守られている側になってしまったのか。



夜。


REV倉庫。


灯りは落ちている。


アルトリリィの足元。


フィーナは一人で座っている。


泣いている。


声を殺して。


「一人じゃ……」


「もう……」


情けない。


隊長なのに。


王女なのに。


戦えない。


足音。


レイが近づく。


その前に。


ユユが立ち塞がる。


「今は」


小さく言う。


「一人で向き合う時間も必要」


レイはフィーナを見る。


震えている。


泣いている。


「……俺は」


ユユを見る。


「フィーナの傍にいる」


静かだが、揺らがない。


ユユは目を閉じる。


止めたい。


けれど。


泣いている姿を、ただ遠くで見ているのも違う。


「……過保護」


小さく呟く。


一歩退く。


レイはゆっくり歩く。


フィーナの隣に座る。


何も言わない。


触れない。


ただ、そこにいる。


しばらくして。


フィーナが小さく呟く。


「……来てくれた」


レイは答える。


「傍にいる」


それだけ。


残響は、まだある。


だが。


その隣は、少しだけ静かだった。


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