第14話 共有のない戦場
共和国領内・北部通信基地。
奪還作戦。
第1部隊、第2部隊、第3部隊の合同出撃。
REV倉庫。
アルトリリィの前に立つフィーナ。
白い装甲に朝光が反射する。
隣に並ぶのは――青ではない。
量産型REV-II。
レイはその機体の前にいる。
ユユが申し訳なさそうに言う。
「ナハトレグ、脚部内部に亀裂見つけた」
「修理優先。今回は出せない」
フィーナは一瞬だけ沈黙する。
「……そっか」
共有はない。
今日は、繋がらない。
レイが静かに言う。
「問題ない」
「単独接続20%。作戦遂行に支障はない」
理論上は。
フィーナは頷く。
「うん。いけるよ」
そう言った。
胸の奥が、少しだけ重いまま。
⸻
戦域到達。
通信基地は帝国のGRASP部隊に制圧されている。
GRASP-08《ゼルガード》。
滑走音が地面を削る。
「第2、第3部隊は側面突破」
「第1部隊、正面牽制」
フィーナの声は冷静だ。
アルトリリィ、接続20%。
残響が流れ込む。
その瞬間。
違和感。
重い。
いつも重い。
だが、今日は――濃い。
一機、踏み込む。
超電動刃、抜刀。
斬撃。
ゼルガードの装甲を断ち切る。
撃破。
――残響。
爆ぜる。
濃い。
重い。
視界が白く揺れる。
呼吸が乱れる。
アルトリリィがふらつく。
「……っ」
支えがない。
共有がない。
一人で、全部聞いている。
横からメイルが機体を押し支える。
「フィーナ」
レイの声。
短い。
それだけで、ほんのわずか現実に戻る。
「……大丈夫」
大丈夫ではない。
第二波。
ゼルガード二機。
第1部隊のエルナイトが応戦する。
「隊長、後方!」
フィーナは反応しようとする。
だが遅れる。
残響が、思考を奪う。
メイルが間に割り込む。
射撃。
一機撃破。
もう一機をアルトリリィが斬る。
だが動きは鈍い。
「第1部隊、フォローに入ります!」
隊員たちが自然に包囲する。
守る形。
本来、守るのは自分のはずなのに。
作戦は成功する。
第2部隊が突破。
第3部隊が通信棟を奪還。
「帝国軍部隊、全機撤退確認!」
「作戦完了!」
勝利。
だが。
アルトリリィのコックピットの中。
残響が消えない。
うるさい。
一人分のはずなのに。
重すぎる。
⸻
帰投。
ハッチは開かない。
フィーナは動けない。
接続席の中。
両腕で自分を抱き締めるように震えている。
「こわい」
小さな声。
「つらい」
「うるさい……」
倉庫内。
ユユが気づく。
「第1部隊、今日は解散」
「いや、しかし……」
「いいから」
隊員たちは迷うが、従う。
レイだけを残して。
ユユが外部操作を開始する。
「強制開放いくよ」
ロック解除。
ハッチがゆっくりと開く。
そこに――
うずくまるフィーナ。
涙が止まらない。
「うるさい……」
「一人は、やだ……」
レイは躊躇なくコックピットに上がる。
肩に触れる。
「フィーナ」
その声。
ほんの少しだけ、呼吸が整う。
だが震えは止まらない。
ユユは外から見ている。
理解している。
これは一時的な不調ではない。
共有に慣れたことで。
一人で残響を受け止める感覚が、弱くなっている。
甘さの代償。
フィーナは――
もう。
一人では、戦えない。
倉庫は静かだ。
だが。
彼女の中だけが、うるさい。




