第10話 静かな連携
共和国前線、補給ルート第七区画。
荒れた平原。
滑走痕が幾重にも刻まれている。
敵は帝国前線部隊。
GRASP-08《ゼルガード》を主軸とした中距離制圧編成。
目的は殲滅ではない。
「補給部隊の撤退確認後、即時離脱」
フィーナの声が第1部隊全体回線に流れる。
白いアルトリリィが前に立つ。
「接続値、各機5%。無理はしないで」
エルナイト六機が応答する。
その中の一人が、わずかに視線を横へ向ける。
青いナハトレグ。
レイの機体。
“共有機”。
知ってはいる。
理解もしている。
だが――
本当にそんなに違うのか。
無意識に、意識してしまう。
「……残響共有開始」
フィーナの声。
白と青の機体のLNS波形が重なる。
20%。
20%。
共有上限40%。
ゼルガードの連装銃が火を噴く。
地面を削る弾丸の線。
エルナイトが散開する。
だが一機、ほんのわずかに判断が遅れる。
理由は単純。
横目で見ていた。
アルトリリィとナハトレグの動きを。
その瞬間。
ゼルガードが滑走角度を変え、銃口を向ける。
反応が、半拍遅い。
「――!」
その時、青い影が割り込む。
ナハトレグ。
専用銃二丁、同時射撃。
連装銃ユニットを撃ち抜く。
続けて滑走。
機体を盾に位置をずらす。
「後ろだ」
レイの短い通信。
エルナイトが我に返る。
振動剣でゼルガードの脚部を切断。
転倒。
フィーナがすぐに詰める。
アルトリリィ、超電動刃二刀。
一閃。
沈黙。
残響が、重く押し寄せる。
フィーナの胸が軋む。
重い。
苦しい。
だが――
隣に、ある。
レイの波形。
共有。
同じ残響を、二人で聞く。
「……耐えられる」
小さく呟く。
ナハトレグが並ぶ。
距離は離れない。
「補給部隊、撤退完了」
後方から通信。
「全機、離脱」
フィーナの声は冷静だ。
アルトリリィとナハトレグが先導する。
殲滅ではない。
引く戦い。
だがゼルガード三機が既に沈んでいる。
エルナイトの一人が、息を整えながら呟く。
「……今の」
返答はない。
滑走の音だけが続く。
⸻
帰投。
REV倉庫。
ハッチが開く。
エルナイトの接続者が降りる。
さきほど救われた隊員が、レイを見る。
数秒。
何か言いかけて、やめる。
「……悪かった」
それだけ言う。
レイは首を傾げる。
「何がだ」
「いや……」
言葉が見つからない。
フィーナが間に入る。
「今日はみんなよく動いてたよ」
嘘ではない。
隊員は頷く。
完全には納得していない。
だが。
否定もできない。
⸻
上階。
ユユがモニターを閉じる。
「やっぱりね」
軽く息を吐く。
共有は特別ではない。
もう前提だ。
ただ――
周りが追いつくには、少し時間がいる。
⸻
整備ドックの下。
フィーナがレイを見る。
「さっき、助けてくれてありがと」
「合理的判断だ」
即答。
フィーナは笑う。
「それでも、ありがと」
レイは数秒沈黙する。
そして。
「視線が乱れていた」
フィーナは小さく息を吐く。
「多分私たちを見ていた」
少しだけ、遠くを見る。
共有は、強い。
でも。
少しだけ、孤独だ。
レイが隣に立つ。
距離は自然。
「うるさいか?」
フィーナは首を振る。
「ううん」
一拍。
「静かだよ」
倉庫の天井灯が白と青を照らす。
共有はもう、証明ではない。
ただそこにあるもの。
そして周囲は、まだそれを見ている。
静かに。




