蘇芳丸⑤ ー史書ー
若の視点に戻ります。
大樹の弔儀が終わり、自分と胡桃は書物庫でまたいつもの日課の作業をこなす。
古い紙を捲り、しっかりと一枚一枚に目を通す。
一族の歴史書は同じ失態を繰り返さない為の知恵の書だ。
「しかし……読めば読むほど、酷いな……」
「本当ですね……存じませんでした」
「うちの一族は……結構やらかしているな」
私と胡桃は二人同時に溜息を吐いた。
「実力に溺れ、派手に掻き回す様相は危険だな。随分と方々で無駄に怨みを買っている」
「その後始末は、こうして次代に降りかかってくるのですね……」
『知られてしまったら、全てを滅せば良い』
浅緋の里の忍びは……確かに強い。
そして、力が強い者が至る、驕った短絡的な思考……物事のその先に何が起こるか、まるで考えもしない。
復讐の連鎖という……負の遺産だ。
戦乱の世で綺麗事を言うつもりはないし、必要とあれば容赦なく命を奪い、奪われるのは極自然な理だ。
それでも、できれば無益な殺生は避けたい。
ぺらりとまた一枚捲り……ふと、見知った名前が目に入る。
「……じいとばあも、なかなか無頼漢だったんだな」
「若気の至りも度が過ぎると痛々しいですね」
じいさんは、城で男色嗜好の城主に囲われかけ、城主を殺害。
追っ手も悉く切り殺した。
ばあさんは、くのいちとして侵入した先の城主を誑かし、私事の感情で傾国を企てたようだ。
……他にも色々な事を起こしていそうだな。
書の次の項を捲るのが恐ろしい。
たとえ血が繋がらなくとも、里の皆は家族だ。
昨日の友が、今日の敵。
騙し騙され疑心暗鬼に陥る戦国世相の中、一族ただただ信じ合い、団結し生きてきた。
……だから口惜しい。
働けども生活が楽にならない、抜け出せない泥沼。
戦国の世に終わりが見えず……泰平を生きることは到底叶わぬ願いだろう。
「たとえ忍びだとしても、こんな世の中だからこそ……皆が天寿を全うし、幸せに生きて欲しいと願うのは甘い……かな?」
「甘いですが、私は嫌いではないですよ」
そう胡桃が柔らかく微笑んだ。
ただ願うは、里の皆の幸福……そう思い、そっと書を閉じた。
◇◇◇◇
大樹が死んでからの二年、蘇芳丸がどれほどの思いで鍛錬を積んできたのか、嫌と言う程見知っている。
それでもまだ時期尚早……お前を死に急がせるわけにはいかぬのだ。
これは私の……里長代理としての命令である。




