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忍リクルート  作者: 枝久
六、
46/89

正直② ー世間知らずー

今回は前回部分に重なる蘇芳丸視点の話です。

 今日も朝から若の説教をくらうのか……折角、念願の汎様との手合わせだぁ! と心躍ったのに……あぁ気が重いなぁ……。


 ……一体どれに対しての叱責だろうか? 

この前の吉伏城の件は蒸し返されないとして……洗い場の桶を壊した事か? 

胡瓜(きゅうり)を盗み食いしたことか? 

捕まえた蛙を鋼太郎の服に入れて揶揄(からか)ったことか? 

それとも……うーん、心当たりが多すぎる。


 仕方ない。

大人しく叱られるとしよう……そう、思っていたのに……。



 あ……あの若が……この俺に頭を下げるだとぉぉぉ⁉︎⁉︎


 あり得ないっ! あってはならないっ‼︎


 周りを見回し、目撃者がいないことを確認。

汎様か胡桃兄に見られでもしたら、俺は何かしらの刑に処されてしまう‼︎

逆さ吊り? 生き埋め? 水責め? 飯抜き?




 だが、一通り若の話を聞き終えた時……俺はなんだか胸のつかえが、すぅっと下りた気がした。


 ここ二年分の霧が晴れた……そんな気持ちだ。


 心優しい小柄な少年は、その優しさ故にずっと悩み戦っていたのか……俺のことで……。


 『散々、俺を阿呆呼ばわりしてきたお前の方が阿呆だ!』と声を大にして言ってやりたい……が、とりあえず今はやめておこう。うん。


 若は俺の主なのだから……。




「蘇芳」


 若が名を呼ぶ。


 俺の頭をそっと両手で掴み、目の中をずいっと覗きこんできた……大きな黒い瞳。


「ふむ……昨日、手から送り込んだ分でこの程度の残氣、か。……幹兵衛の言う通りだと……目、鼻、耳、口……やはり口か……」


 ぶつぶつと若が独り言を呟く。


 残氣の影響で今朝もばあちゃんを当てられたんだな……本当は自力で当てられなきゃならんのだが……。

鍛錬で今後どこまでいけるか……やるしかない。


「蘇芳。ちょっと口開けろ」

「?」


 若に言われるがまま、俺はぱかっと口を開く。



 ………………



 一瞬……何が起こったのか、分からなかった……。


 息が漏れぬよう塞ぐ形で……若の口が俺の口を覆ったのだ‼︎

そして、身体の中に送り込まれたのは……若の氣⁉︎


「⁉︎⁉︎」


「皮膚で覆われていない部位から体内へと氣を送るのが良いと幹兵衛が前に言っていてな……口同士が最も効率的かと思ったのだ」


 けろりとした顔で若が答える。


「これで父上と戦ってみろ……そして勝ってみせよ!」


 ………………


 いや……今、頭ん中……それどこんじゃない……。


 汎様との手合わせのことが、すこーーんと頭から抜け落ちてしまった。


「ん? どうした? 蘇芳……顔が真っ赤だぞ?」

「ど……どうしたも、こうしたも……」


 おいっ‼︎


 な、な、何でお前はそんな平気な顔をしているんだ⁉︎


 せ、せ、せ、接吻(せっぷん)だぞ⁉︎

い、いくら男同士とはいえ、そんな……。


 おいおいおいおい、分かっているのか⁇



 ………………



 はっ!

そうか……こいつは本当に分かっていないのだ‼︎


 忍びたる者、敵を籠絡(ろうらく)する手腕も必要、鍛錬の中でそういった教えもしっかり受けている……俺たちは、ばあちゃんからみっちりと教えられたんだったな。


 だが……若はそういう(たぐ)いのことを……果たして教わっているのだろうか?

汎様も胡桃兄も、若に対して蝶よ花よと大切に育ててきた。


 だから……もしや……一切何も、その手の事柄を知らないのではないか?


 親鳥が雛に餌をやる感覚で、俺に唇を重ねてきたのだろう。

まさか……若がこんな面で世間知らずだとは……。


 ………………


 ど、ど、どうする?

これを他の者にされても困るぞ?

でも、何て言って説けばいいんだ⁉︎



 がしゃーーん!

からんからんからん……


「はっ‼︎」


 振り向くと、割れた湯呑みと床で跳ねるお盆……そして、放心状態の……胡桃兄‼︎


 絶対に知られてはいけない二人のうちの一人‼︎


 ぞわっ‼︎


 本能が(ざわ)つく。


 ……これは、やばい……と。


 胡桃が過去最大の咆哮(ほうこう)を上げる‼︎


「おのれ、蘇芳ーーーー‼︎‼︎‼︎」

「何で俺のせいなんだよーーーー⁉︎」

「待て待て、胡桃‼︎」


 俺を締め殺す勢いの胡桃兄を若が慌てて制す‼︎


「あらま〜〜!」


 後ろからひょっこりと、にやつく梅丸も現れた。

……さらに嫌な予感。


「胡桃が若にちゃあんと教えていないから、こんなことになるんじゃ〜〜ん、ねぇ若?」

「⁇⁇」


 にやにやした顔を若に向けている。


 ……梅丸……お前どの辺りから見ていた?


 くのいち衆から無駄に余計な知識を吹き込まれている耳年増(みみどしま)が、そっと若に耳打ちする。


「梅! 止めろぉぉぉぉっ‼︎」


 止めようとしたが、胡桃に捕まっている俺の手は梅丸に届かず……。


「口唇を重ねるってことは接吻って言って……でね……だから……男女でも男同士でも ……ってことで、……なの!」



 ………………



 ぼっ!


 梅丸の話を聴き終えた瞬間、耳まで真っ赤になった若が、ぎぎぎっと首を捻り、俺に向けて言葉を放つ。


「や、や、やっぱり……返せーーーー‼︎‼︎」

「何をだよーーーー⁉︎」


 氣か? 記憶か? 初めての経験か?

時を戻したいって? 

そりゃ、無理だーー‼︎

無茶苦茶言うなよぉぉぉぉっ‼︎‼︎


 縁側は混沌とした状況に陥ったのだった……。




 ……ちなみに後日、若は、ばあちゃんからそっち方面の個人指導を丁寧に受けたらしい……と梅丸から教えてもらった。


 めでたしめでたし?

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