拾われ子①
ちゅん、ちゅん、ちゅん……
あぁ、雀の鳴き声が聞こえる。
遊んでいるのか、何やら仲良く楽しげ……。
なんだ……もう夜が明けたか。
「くるっくーー!」
あぁ、捏も仲間に入っておるのか。
「うわぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
………………
朝から大きな声で騒がしい、鳥達が逃げるではないか。
「な、何やってんだよ、若‼︎」
蘇芳丸が隣の布団でなにやら喚いてくる。
「何って、隣の布団で寝ただけだ」
「……いや、だから、何でだよ!」
顔を合わせたくないと朝餉も食べずにどこかへ行かれてしまうのも、それを態々探しに行くのも面倒。
昨夜のうちに、梅丸と寝床をこっそり交換して置いたのだ。
そろりと逃げようとする蘇芳丸の着物の裾をがしっと掴む。
「昨日はお疲れ」
「……お、おう」
労いの言葉に、嫌味一つ返してこない。
しかも私と目を合わせようともしない。
何故だ? 『朧』のせいか?
蘇芳丸がそっと手を伸ばしてくる。
「若……」
ぺたぺたと私の首を執拗に触り、ほっと溜息を吐く。
「私の首に何か用か?」
「いや……えっと……すまん」
ぱっと両手を下ろす。
あぁ……そうか。
謝罪の言葉で、察した。
『朧』の幻の中で、蘇芳丸は私を殺めたのだな。
「そうか……私を仕留めて少しは気が晴れたか?」
少年の顔がさぁっと青ざめる。
忍びたる者、感情を顔に出してはいけないと教えたはずだぞ?
「私に仕えるのはさぞ嫌だろう? お前はさっさと里を出……」
言いかけた私の肩を蘇芳丸が強く掴む。
「……蘇芳⁇」
「若は……腹立たしい。それでも、お前を護るんだよ、俺は……」
「⁇」
真逆な事を言いおって……一体何が言いたいのやら?
私には蘇芳丸の意図がよく分からない。
そっと、彼を引き剥がし、告げる。
「父上からの伝言。『覚悟を決めろ』だそうだ。」
「っ……それは……」
これは、蘇芳丸に全てを委ねている。
それは少し……狡いな、父上。
だだだだだだだだっ!
「ん?」
その時、奥の方から、随分と喧しい足音。
忍びがこんな足音を立てるとは……珍しいな、こんなに取り乱すなんて……。
ばたーーん‼︎
「お早う、胡桃」
「若ーーっ‼︎ これは何事ですかーー⁉︎」
いつも冷静な胡桃が大声で部屋に飛び入ってきた。
その小脇には、すやすやと眠る梅丸が抱えられている……まだ夢の中だな?
「これ……とは梅のことか?」
「そうです! 若のお部屋に梅丸が寝ているではないですか! ということは……若は昨日……」
「ここで寝た」
「蘇芳と⁉︎ なんと、羨まし……じゃなくて、何でその様な……」
布団を畳みながら、答える。
「蘇芳が朝、逃げ出したら面倒だったからだ」
ちらりと見遣る。
「……ほら、梅……起きろ」
蘇芳丸が仏頂面で、話を逸らした。
「ふわぁぁっ……あぁ、おはよう。ん? 何? 皆して……」
ようやく梅丸が起き、私と視線が合う。
「そうだ、若! 今度、術教えてくれよ!」
「別に構わんが……どうしたんだ、急に?」
う、梅丸が人に頼み事だと⁉︎
特に、私へ申し出てきた事なんて未だかつてない。
「実力つけて……もっともっと強くなって……何処でもやっていける忍びになるんだよ。……そしたら俺が、里を追い出されても生きていけるだろ?」
そう言って、少し寂しげに笑う。
「な、何言ってんだよ、梅!」
蘇芳丸が梅丸の両肩を掴み、揺する。
「蘇芳、考えてみなよ? あと半年でなんて……無理だろ?」
肩にかけられた手を払い除け、淡々と答える。
「俺らの中で、一番完成された幹兵衛があっさり見つかったんだぞ? 俺も……。お前と鉢はまんまと術に嵌まって……鋼太郎ですら、足止め出来なかった」
俯き、固く拳を握っている。
「それは……まだ半年ある‼︎ それまでに俺は……」
「俺達は元服出来ないよ……。若が認めてはくれない」
「梅……」
浅慮だった……蘇芳丸を諦めさせることばかり気を取られていたが、梅丸も拾い子。
忍びになる以外、生きる道が無いと思い込んでいる。
里を出る、それが本心で望むならば止めはしない、だが自棄になるなら……きちんと、伝えねばならない。
さて、どうやって説くか……。
「若……ちょっと宜しいですか? この二人を暫し、私に預けて頂いても……」
「胡桃?」
冷静な参謀に戻った青年が静かに提案する。
……適任だな。
「では……お願い致す」
「はい」
私に柔らかな微笑みを向ける胡桃の後ろで、二人は心底嫌そうな顔を浮かべていた。
二人とも……物凄くはっきり顔に出ておるぞ?
まぁ、よいか。
「胡桃、後は頼んだ」
そう言い置き、私は静かに部屋を出て行った。