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忍リクルート  作者: 枝久
四、
26/89

拾われ子①

 ちゅん、ちゅん、ちゅん……


 あぁ、雀の鳴き声が聞こえる。

遊んでいるのか、何やら仲良く楽しげ……。

なんだ……もう夜が明けたか。


「くるっくーー!」


 あぁ、(つくね)も仲間に入っておるのか。


「うわぁぁぁぁぁぁっ‼︎」


 ………………


 朝から大きな声で騒がしい、鳥達が逃げるではないか。


「な、何やってんだよ、若‼︎」


 蘇芳丸が隣の布団でなにやら喚いてくる。


「何って、隣の布団で寝ただけだ」

「……いや、だから、何でだよ!」


 顔を合わせたくないと朝餉(あさげ)も食べずにどこかへ行かれてしまうのも、それを(わざ)々探しに行くのも面倒。

昨夜のうちに、梅丸と寝床をこっそり交換して置いたのだ。


 そろりと逃げようとする蘇芳丸の着物の裾をがしっと掴む。


「昨日はお疲れ」

「……お、おう」


 (ねぎら)いの言葉に、嫌味一つ返してこない。

しかも私と目を合わせようともしない。

何故だ? 『朧』のせいか?


 蘇芳丸がそっと手を伸ばしてくる。


「若……」


 ぺたぺたと私の首を執拗(しつよう)に触り、ほっと溜息を吐く。


「私の首に何か用か?」

「いや……えっと……すまん」


 ぱっと両手を下ろす。


 あぁ……そうか。

謝罪の言葉で、察した。


 『朧』の幻の中で、蘇芳丸は私を(あや)めたのだな。


「そうか……私を仕留めて少しは気が晴れたか?」


 少年の顔がさぁっと青ざめる。

忍びたる者、感情を顔に出してはいけないと教えたはずだぞ?


「私に仕えるのはさぞ嫌だろう? お前はさっさと里を出……」


 言いかけた私の肩を蘇芳丸が強く掴む。


「……蘇芳⁇」

「若は……腹立たしい。それでも、お前を護るんだよ、俺は……」

「⁇」


 真逆な事を言いおって……一体何が言いたいのやら?

私には蘇芳丸の意図がよく分からない。


 そっと、彼を引き剥がし、告げる。


「父上からの伝言。『覚悟を決めろ』だそうだ。」

「っ……それは……」


これは、蘇芳丸に全てを(ゆだ)ねている。

それは少し……(ずる)いな、父上。



 だだだだだだだだっ!


「ん?」


 その時、奥の方から、随分と(やかま)しい足音。

忍びがこんな足音を立てるとは……珍しいな、こんなに取り乱すなんて……。


 ばたーーん‼︎


「お早う、胡桃」

「若ーーっ‼︎ これは何事ですかーー⁉︎」


 いつも冷静な胡桃が大声で部屋に飛び入ってきた。

その小脇には、すやすやと眠る梅丸が抱えられている……まだ夢の中だな?


「これ……とは梅のことか?」

「そうです! 若のお部屋に梅丸が寝ているではないですか! ということは……若は昨日……」

「ここで寝た」

「蘇芳と⁉︎  なんと、羨まし……じゃなくて、何でその様な……」


 布団を畳みながら、答える。


「蘇芳が朝、逃げ出したら面倒だったからだ」


 ちらりと見遣る。


「……ほら、梅……起きろ」


 蘇芳丸が仏頂面で、話を逸らした。


「ふわぁぁっ……あぁ、おはよう。ん? 何? 皆して……」


 ようやく梅丸が起き、私と視線が合う。


「そうだ、若! 今度、術教えてくれよ!」

「別に構わんが……どうしたんだ、急に?」


 う、梅丸が人に頼み事だと⁉︎

特に、私へ申し出てきた事なんて未だかつてない。


「実力つけて……もっともっと強くなって……何処でもやっていける忍びになるんだよ。……そしたら俺が、里を追い出されても生きていけるだろ?」


 そう言って、少し寂しげに笑う。


「な、何言ってんだよ、梅!」


 蘇芳丸が梅丸の両肩を掴み、揺する。


「蘇芳、考えてみなよ? あと半年でなんて……無理だろ?」


 肩にかけられた手を払い除け、淡々と答える。


「俺らの中で、一番完成された幹兵衛があっさり見つかったんだぞ? 俺も……。お前と鉢はまんまと術に()まって……鋼太郎ですら、足止め出来なかった」


 (うつむ)き、固く拳を握っている。


「それは……まだ半年ある‼︎ それまでに俺は……」

「俺達は元服出来ないよ……。若が認めてはくれない」

「梅……」


 浅慮(あさはか)だった……蘇芳丸を諦めさせることばかり気を取られていたが、梅丸も拾い子。

忍びになる以外、生きる道が無いと思い込んでいる。


 里を出る、それが本心で望むならば止めはしない、だが自棄(やけ)になるなら……きちんと、伝えねばならない。


 さて、どうやって説くか……。


「若……ちょっと宜しいですか? この二人を(しば)し、私に預けて頂いても……」

「胡桃?」


 冷静な参謀に戻った青年が静かに提案する。


 ……適任だな。


「では……お願い致す」

「はい」


 私に柔らかな微笑みを向ける胡桃の後ろで、二人は心底嫌そうな顔を浮かべていた。


 二人とも……物凄くはっきり顔に出ておるぞ?

まぁ、よいか。


「胡桃、後は頼んだ」


 そう言い置き、私は静かに部屋を出て行った。

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