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忍リクルート  作者: 枝久
一、

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忍びの里② ー囲炉裏端ー

 屋敷の囲炉裏(いろり)を前に、上座と下座に向かい合わせで座る。

自分の隣には胡桃、対面には鉢ノ助、鋼太郎、幹兵衛。

屋敷に戻ってきていた梅丸(うめまる)も部屋に呼んだ。


 女子(おなご)見間違(みまご)う容姿の梅丸も二年前に里に来た拾われ子だ。

顔が幼く、背も高くない上、正確な年齢もわからないが……とりあえず呼んでいる辰ノ組の中に入れてある。


 五人衆の中では最初に研修任務に出した。

もうすでに、くのいち連中の花鳥(かちょう)衆と一緒に諜報活動をこなしている。


 辰年生まれに梅丸を加え、五人で組ませ辰ノ組とした。

同い年の自分も幼い頃には、梅丸以外の四人とは共に遊んだ仲だ。

集団での活動で任務にあたる為、信用し合えると踏んだ。


 全員の顔を見渡し、尋ねる。


「誰か蘇芳丸(すおうまる)は見てないか?」


 この場にいない五人目の名を上げるが、皆、無言で首を横に振る。


「はぁ……仕方ない、探し……あぁ、来たか」


 すっと視線を障子にやる。


 どすどすどすどすどすっ!


 廊下奥の土間から忍びらしからぬ足音が響き、障子が大きな音を立てて開かれた!


 ばたーーんっ!


「呼び出しって……何か用か?」


 不機嫌を隠すことのない、不遜(ふそん)な少年がそこに立っていた。


「座れ。蘇芳」

「……」


 返事もせずに、彼はどすんっと梅丸の隣に腰を下ろした。



 十四年前、赤子で拾われ屋敷に迎えられた蘇芳丸は、自分とまるで双子の兄弟のように育った。

生まれ持った才覚に里の教えを加えたら、化け物じみた強さを持つ少年へと成長を遂げた。

……能力だけの値を見たら、胡桃を追い越し、里長に次ぐほどである。


 ……だから不満なのだろう。


 睦月(むつき)の元服まであと半年。

なのに、いまだ研修任務にも出してもらえず……。

他の四人は失敗はあれど、すでに経験済み。

全ての采配(さいはい)は里長代理である自分の一存で決められているから、納得いっていないのだろう。



 蘇芳丸が鋭い瞳で睨みをきかす。

あぁ、横で胡桃の顔が険しくなっているな……。


 胡桃は、私に害無す者へ過剰な攻撃性を見せる。

兄として、従者として、私のことを守ろうとしてくれているのはわかる。

ただ……いつも冷静なのに、私が絡む事柄には沸点が低く、すぐ切れてしまうのは玉に(きず)だな。


 手でそっと胡桃を制し、ちらりと蘇芳丸を一瞥(いちべつ)してから、手元の竹の皮でできた(ふみ)に視線を動かし、始める。


「報告が上がってきてるな……まずは、鉢ノ助」

「はっ!」

「この前の任務で森の一部を爆破で予想以上に吹き飛ばしたそうだな? 木が消し飛び、隠れるところがなくて困った……と、苦情だな」

「も、申し訳ございません」


「次、鋼太郎は……敵の気配で驚きのあまり苦無を飛ばして三人を瞬殺してしまった……か。対象を消してしまい、情報集めに苦労した……と、これも苦情だな」

「す、す、すみません!」


「次、幹兵衛。侵入先で眠り薬を焚いたが、風向きを見誤り、敵も仲間も眠らせた……、仲間は起こし活動再開できたが次は無いぞ……っと、またこれも苦情だな」

「以後、気をつけ、ます」


 読み上げていくたびに、胡桃のこめかみに青筋がぴきぴきと増えていく。

美しい顔は平静を装っているから、却って恐ろしい。

……ただ、この場で基本的に彼は無言を貫く。

そういう立場である。


「えーと、梅丸は……くのいちから。対象から情報を引き出そうとした際、梅丸に目が釘付けで自分の方を向かず諜報に苦労した……と。……これは苦情というか嫉妬というか……」

「えーー? 可愛くてすみませーーん!」


 がくっ!


 眉間をつまみ、私は思わず項垂(うなだ)れてしまった。

あぁ……あと半年で元服……果たして、間に合うのだろうか?


 静まりかえった囲炉裏端に蝉の鳴き声が五月蝿(うるさ)い程によく響いてくる。


 私が口を開きかけた時……


「なんだ、お前らだって大したことねぇじゃん!」


 はんっと鼻を鳴らして、蘇芳丸が笑う。


「……お前が言うな」

視線を下に向けたまま、私はぼそっと呟いた。


 がっ!


 瞬間、蘇芳丸の右手が飛んできて、私の顔を鷲掴(わしづか)む!


「ふざけんじゃねぇぞ! 何の嫌がらせだ⁉︎」

「っ!」


痛てて……。

速すぎて、反応出来なかった……。


「若っ!」


 咄嗟に、胡桃が蘇芳丸の手を引き剥がそうとするが、びくともしない。


「ちっ! 蘇芳、離せっ!」


 胡桃が低い声を上げ、ようやく私の顔から手が離れた。


 がばっ! どさっ‼︎


 胡桃が(またた)く間に、蘇芳丸を組み敷く!


「ありがとう、胡桃」


 自分の頬を(さす)る。

肉の少ない顔だが、少々凹んでる……きっと指の痕がくっきりとついているんだろうな。


 蘇芳丸は右腕を背中で捕らえられ、床に押さえ込まれた体勢で、鋭く私を睨み上げてくる。


 ふうっと溜息を吐いてから、蘇芳丸に向けて言葉を放つ。


「嫌がらせではなく、今の蘇芳では……駄目だ」


 私の言葉で、鋭い瞳をかっと見開く!


「何でだっ⁉︎ 強さも速さも今この里にいる大抵のやつには負けねぇ! 一体何が駄目なんだよっ⁉︎ 」

「蘇芳……」


 私と蘇芳丸、互いに真っ直ぐな視線がぶつかる。


「蘇芳は……忍べないから……」


 そして、私は続ける。


「だから……駄目なんだよ」




 忍びとは隠密行動を生業(なりわい)とする。

敵の情報を奪い、逃げ、隠れ、敵に捕まることなく、生きて情報を持ち帰らなければならない。

敵と直接対峙することもあるが、倒すよりもその場を切り抜けることが求められる。


 存在を気づかれずに任務遂行できる者こそが忍びとしては最も優秀なのである。


 物語で語られる忍者は、それはそれは派手で、華やかで、心踊る。

……笑えるほど、現実とは大違いだ。


 貧しく、身分も低く、使い捨てにされる命だ。



 胡桃を促し、蘇芳丸を座り直させた。


「なぁ蘇芳……強いだけでは忍びにはなれないんだよ」


 真正面に向き合い、自分より背丈の高い蘇芳丸をじっと見上げる。


「お前は強いよ。そして……それを隠せないほど存在が強すぎるんだよ。気配を消せない忍びは……死ぬ」


 拳で蘇芳丸の胸をとんっと軽く叩いた。


「……」


 それ以上、誰も口を開かなかった。


 外からは、待ち侘びていた雨音がざあっと響き出していた。

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