参上
「あ」
猫実さんがさっき、巧が来た方角を見る。
道の向こうに引き寄せられる。そこに引力があるかのように。街路樹の木漏れ日がきらびやかな、まだら模様を作って彼女を照らす。
すらりとした長身に、長い髪。目を見張るような美人。夜桜先輩である。
高そうな革バッグを提げて街路樹の並びに見とれている。
ワンピース、でいいのだろうか。上下が繋がった淡いピンク色のふわりとした半袖と、スカートを履いている。シンプルでも、映える。かかとの高いサンダルもバッグと色が揃ってておしゃれだ。
巧が見惚れているうちに、猫実さんが手を振る。気がついた先輩も長い手を上にあげて応じる。
そういえば、二人とも地元が同じなのにどうして一緒に来なかったのだろうか。
巧は、不思議な距離感に少し首をかしげる。二人だけの阿吽の呼吸といったものだろうか。他人がいくら考えても分からない。
「おはよう、待った?」
そう先輩に聞かれた途端、今までの雑談を思い返して恥ずかしくなった。巧は、とりあえず、「そんなに待ってません」
と答える。耳に関することじゃなくても気を使わせたくないと思うのはもう、癖だ。
しかし、猫実さんがいたずらっぽく
「30分も待ってましたよ」といって暴露してしまった。
「ふふ、張り切りすぎだぞ」
先輩が肩にかかった髪をかきあげる。その途端にいい香りがする。
限りなく透明なガラスを一枚通して見るような感覚に陥る。自分の存在を忘れてしまい、反論する気がなくなる。
先輩が猫実さんと話し始める。巧には内容がわからない。三人になってしまうとなかなかついていくのが難しい。
「キュウが来るからね」
やっと、先輩の声を拾う。
「ええ、キュウちゃん、変わってるかなあ」
「変わってたらそれはちょっと見てみたいけど、あいつは現在進行系で『変わってる』かならあ」
そういって二人は笑う。見てるだけでも楽しいけど一緒に笑えないのが寂しい。
「あの、キュウちゃんってどんな人です?」
口を出す順番を見計らって聞いた。
「どんな人って、、、。」
外でも、先輩の考えるポーズは変わらない。
「実際に会ったほうが早いかなあ」
そう言って巧の方を見て微笑む。それに対してどうやって返したらいいか、分からなくて困る。
そこで猫実さんが付け加える。
「いろいろ逸話があって、『肌色のパンツ事件』とか、」
妙に色めかしい事件だ。
「あっ、あと、『夜桜家の一族事件』とか!」
猫実さんは、何かを思い出した感覚が楽しいようにニコニコしている。巧は突拍子もない固有名詞に翻弄されまくりである。
「『夜桜家』はやめろ」
先輩がいう。
なんか穏やかじゃない事件みたいだ。
巧は、深追いしたら身の危険が迫るのを感じ、さっき聞いた単語を記憶から抹消しようと努力した。
この人たちの過去やばいな。
才女の集まりなはずだがネジが1本外れている。
巧が、疎外感を一層強めたところで目の前に紅い車が止まった。
「おっ」「あっ」
夜桜先輩と猫実さんが、嬉しそうに声を上げる。来たみたいだ。
助手席のドアが開く。
「よっ」
掛け声とともに人影は白い白衣に身を包んで道路に降り立った。
三人の方を見ると不敵に笑って
「ひっさしぶりー」
と言った。
巧は初めてじゃない。前に学校の図書館で一回会った。空気を読まないバッドガール。
白衣の下には、夏だというのに黒い高級そうなスーツ。一転して、スカートからのぞく足はいかにも挑発的である。
「きゅうちゃああん」
猫実さんが壊れたように駆け寄って抱きつく。抱きつかれた方はよろけながらも笑う。
「元気でした?」
抱きついたと思ったら両手をとりながら見つめ合っている。
「うん、私は元気だった。一瞬アメリカで死にかけたけどな」
「はあ?」
夜桜先輩が聞き返す。神経を逆なでしないでくれる?みたいな心の声が聞こえる。
「夜桜も変わらないなあ」
キュウちゃんと呼ばれた彼女は、止まらずベラベラと話し続ける。なんだか先輩が呼び捨てされてるのが新鮮に感じる。
「うん、キュウは、、、大人になったよ」
「えへへへつ、そう言われるためにメイク、がんばったんだぜっ」
「可愛い。」夜桜先輩が率直に言い切る。
「う、待っ、ちょっとやめろそれは」
あの、美しい微笑みは女性にも効くのだろうか。褒められてとても嬉しそうだ。
「キュウちゃん、かわいいです」
猫実さんもだめ押しをする。
「お前らあああ」
感極まってキュウちゃんは猫実さんと夜桜先輩を腕で抱きかかえて泣いてしまった。
激しいなあこの人、、、。
さらなる疎外感に打ちひしがれながら巧は、なんか小説のネタになりそうだと思った。
成田究、彼女を含めてやっと全員が揃った。




