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A

 しばらくすると、赤い小さな車から見慣れたスーツ姿の若者がでてきた。

 子知不こしらずあきら。アタシが研究室に入ってから、紆余曲折あり、笑いあり(主にアタシの)、涙あり(主にアキラくんの)、初めてゲットしたかわいい部下だ。ちなみに27歳だ。

 つーか、アタシが18って気付いた時のあの複雑な感情が入り混じった微妙な顔は今思い出しても笑えるなあ。ごちゃ混ぜになってピカソの絵みたいになってたもんなあ。

「年下上司っていう、レベルじゃねぇ」


 そんな究の、一瞬で過ぎ行く心の動きなど彼には察する余地はない。

 いかにも舐められそうな仕草で、車の中から手を振ってくる。

 その背景のキラッキラの世界に見とれながら、

「アキラくん、待った?」

 と軽口を叩く。もちろん待たせたことは承知である。

「待ちましたよ!なにやってたんすか!」

 憤慨している。あんま怖くない。

「まあまあ怒るな、これだからモテないんだよ君は。」

「む、、、」

 すぐ言葉に詰まる。はあ、男はみんなこうだ。脳の造りから口ではもう女に勝てないんだと思う。

 そしてチラリとこちらを見てからすぐ視線をそらす。

 あ、今。

 アタシにちょっと、見とれた?よね!

 途端に嬉しくなる。まずは身近なモルモットで効果が実証できた。

 ぱかっと、助手席のドアを開けて乗り込む。

 ふわりとまだ新しい車の香りがする。うん、この車はそこそこ気に入ってる。これでもアキラくんは研究室の副室長だからな。(ちなみに室長はアタシだ)高いの買ったんだろうな。

 そこそこ座りこごちがいいシートにほおを当てて、景色を見る。ゆっくりと車が走り出す。アキラくんが好きな女性ボーカルのバンドが車内に響く。

 自然と心が沸き立つ。街路樹の緑も、空の青も、パステルカラーの都会の色合いも全て綺麗だ。ふと、窓に反射した、最高潮の自分の顔を見て嬉しくてたまらない気持ちになる。

 たまらない気持ちになる。メイク頑張ったなあ自分。

「なあ、アキラくん。」

 ちょっと間を取る。

 でも、なにも答えない。黙って運転に集中してる。

「生きてるって素晴らしいね」

「、、、なにを急に?」

 そんなありきたりな、レスポンスなんて余裕で想像できるんだよ。

「やっぱりなんでもない」

 感情についてこれない、鈍いアキラくんを突き放して、目を閉じる。

「ええーーー?」

 わずかに体にかかかる、加速度。

 久しぶりだ。何もかも、こんな風に高揚して、それでも穏やかな澄み切った気持ちになるのも。

 ああ、早く会いたい。

 人生最高の今日が始まる。


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