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小さな非日常

 昼休みの教室。もう高3になるとみんな落ち着いてくる。中には教科書を読みながら試験勉強を、している輩までいる。しかしその一方で、机をくっつけて仲良く弁当を食べる女子生徒もいる。

 夜桜は、見慣れた光景をよそに、立ち上がる。

 さっきの現代文の授業面白かったな。

 誰も共感してくれないだろう感想を脳内で呟く。

 キュウなら、どう読むだろう。あの評論。

 勉強。そんな大それたことをしてるとは思わない。内容を楽しんでいるだけだ。

 早く会いたいなあ。そんなことを考えて思い直す。

 これじゃあまるで恋してるみたいだ。

「それは違うだろ、、、」

 ゾッとするような低音で、呟く。一人ニヤつく。

 スライド式の教室のドアを開けて、賑わう廊下に出る。弁当を買いに行く。

 前を向くと、見慣れた二人組が駆け寄ってくるのを見つけた。

「ほらやっぱり、早くきてよかったでしょう」

 よく通る声とポニーテール。そして。

 なんか得体の知れない感じの、男子。こうして見ると本当に耳が悪いとか感じさせないな。

 というか、捕まった。

 お助け部の二人である。息を乱して駆け寄ってくる姿がかわいい。いや、よく見たら息を乱してるのは巧だけだ。

「先輩、お出かけですか?」

 眩しいぐらいの笑顔でネコが笑う。全然疲れてないのが、末恐ろしい。

「ちょっとな」

 一人になりたいところなんだ。

 そう言おうとしたのに、何故か、出て来なかった。一瞬背筋に冷気が走った。なんて事を言おうとしてたんだろう。

気がつくと言い訳をするように笑っていた。なんだか後輩二人が揃った姿に、または笑顔に、愛らしさに。それとも全部にか。

 予定を壊してくる彼女らに、飛び込んでみたくなった。

「どうして私に会いにきたの?」

 巧の方を見るが、膝に手をついてゼーハーと息をしている。

 この、体力のなさはなんなんだ?

 代わりに、ネコが答えてくれた。

「先輩と、一緒にご飯を食べたいと思ったんですが。いいですか?」

 今度は、ちょっと恥じらいながら。

 感情の起伏が激しいのは、中学生の頃からだ。どこに、そんなエネルギーがあるのだろう。

「もちろんいいよ」

 そう言って気がつく。私はこれを探してたんだ。

 時間の流れに埋もれてしまうぐらいの小さな、非日常だ。

 心に開いたみたいな穴の原因を見つけて、すこし嬉しくなる。

よし、こうなったら徹底的に味わう。そして、言語化して、概念にする。「寂しくなったら非日常」みたいに。で、それを日記に書いた挙句、小説にも書く。

 キラリと、閃光が脳内に走る。

 思えば、キュウはそんなどうでもいいような大切なことをバカみたいにムキになって掘り返してたな。

 スカートの中身が見えるギリギリの長さを決める方程式とか。

 あれは、そこそこ背が高い私で実験したから、私より背の低い人には見えまくりだった(らしい)。で、結局、

「自分と同じ肌色のパンツを履くことで解決しましたッ!」

 ピンクのメガネの中の瞳をキラッキラに輝かせて私にどうでもいい報告が飛んできた。

 なんか、創作活動同好会にいろんな染料を持ってきて肌色を作るのに試行錯誤してた。あの匂い(臭い?」をまだ思い出せる。

「できたぜえ」

なんだかんだで、完成したパンツの色合いは完璧だった。無駄な色彩に関する知識も、なんだかんだで小説に使えた。

 最初は、注目を浴びたけど、結果はお察し。

「おい成田、放課後指導部に来い」

 怖い先生に怒られたけど、当の本人は笑っていた。

 スカートの校則を彼女が厳しくした。でも肌色のパンツはやめなかった。

「アタシのセクシーすぎる姿が、先生たちもまぶしかったみたいだなっ、おい夜桜?聞いてるかよ」

「うん、聞いてるよ」

 隣で見てる私には、どうだってよかった。そう、本当に。どうだって良かった。どうしたって楽しかったし、どうしたって幸せだった。


「先輩?」

 思い出にふけってると心配そうに声をかけられた。

「ああ、いやちょっとキュウのことを思い出しててね」

 するとネコが昔を思い出すような優しい目つきになって、微笑んだ。時々、年上のわたしよりも悟ったような顔をする。

「早く会いたいですね」

「うん」

 彼女もそう思ってたことにすこし安心する。

 試写会はもうすぐだ。どんな話が聞けるだろう。

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