そう上手くはいかない
「早く、この間みたいに食べちゃいましょう。それから、あれを受けとって、、、」
猫実さんが巧ごしに先輩に声をかける。
「そうだな、急ごう」
らくしなく、焦っている。
あれ、とはなんだろう。とにかく巧も急いで、弁当を書き込む。屋上の景色なんか眺めている暇はない。
「ごちそうさま」
猫実さんが手を合わせる。それを見計らって、夜桜先輩がベンチから立って、声をかけた。
「おーい、終わったぞ」
「はっ、ただいま参ります!」
掛け声とともに、小柄な(さっきの人はどうしたんだろう)男子生徒がベンチの前にやってきた。
なにやら、大量の冊子を持っている。チラリと見えたその表紙を読んでゾッとする。
「今月分の、『よざくらファン』です」
「ありがとう」
こんな時までも、笑顔を崩さずに両手で抱えるほどの冊子を受け取る。夜桜先輩について、こんなに書いても、まだ書くことがあるのか。
「感想お待ちしております。」
最後、チラリと巧の方をにらんでから、立ち去った。やはり、何かと意識されいてるのを感じる。
しかし、大人しいと言っても、表面下でこそこそとされている方が気持ち悪い。どうせならいっそ、アイドルのライブみたいに騒いでもらった方が爽やかでいいかもしれない。
「帰るぞ」
また、さっきのように生徒がつくる道を通る。また恥ずかしさが襲う。
帰り際、「先輩ありがとうございましたっ!」と言う掛け声にピクリと肩を震わせた。
かちゃり。屋上の思いドアを巧は後ろ手で閉じた。夜桜先輩がたくさんの冊子を重そうに抱えている。しばらく無言のまま、向き合う。
「私はこれを、文藝部においてくるから」
「手伝います」
猫実さんが『よざくらファン』を先輩の手から半分ほど受け取る。
「僕も手伝います」
慌てて、巧も階段を降りようとする先輩に駆け寄る。
「ごめんね。付き合わせちゃったりして」
机に、とすん、と冊子を置いて先輩が言った。
埃っぽい文藝部に柔らかな声が響く。
「いえいえ、またいつでも言ってください」
「ありがとう、優しいね。ネコ。」
「はっ?!」
先輩が分かりやすく照れる猫実さんにほおを緩ませる。やっぱり後輩は可愛いんだろうな。さっきの親衛隊を見てから余計、そうだろう。
「前は、こういうのは、キュウが追い払ってくれたんだけどね、、、。」
ぐったりと机によりかかって、髪を耳にかけた。白い肌が、淡く光を反射する。
巧は、なにも言えないでいる。
いつもは、余裕ありげに人生を謳歌している先輩が、こんな風に疲れているのに衝撃を受けた。
完璧な人など一人もいないのだと、そう理解するのに十分な事実だった。
美貌を持つ上の、障害なのだ。そう理解した。持たざるものではなく、持って生まれたゆえの、障害。
「もう昼休み終わっちゃうよ」
どうやら、チャイムがなったらしい。ギリギリ聞こえるか聞こえないかの音量だ。三人で、ぞろぞろと退出する。
地下部室棟から出るとやっぱり突き抜けるような青空が、広がっていた。
猫実さんと別れると、巧は、授業に間に合うように走った。




