屋上
「うっ」
ドアを開けると、青空、そして白いシャツの集団。
ひらけた屋上には、向かい合って、道を作るように生徒がずらりと並んでいた。
これからハリウッドスターが歩くレッドカーペットみたいだ。もちろん、そんなものは敷かれてないが。
なんなんだこの人たちは、、、。
異様な光景に巧は苦笑いをする。そしたら、男子生徒と目が合ってしまった。
絶対、俺の方もなんだこいつ、とか思われてるな。
巧はすっと目をそらす。
これが、親衛隊、、、。ちらほら女子もいるのが、リアルだ。
見られながら、奥に進む。
「今日は静かだな」
空を見上げながら、夜桜先輩が言った。
すこし、場がざわつく。彼女の一挙一動に反応している。
すると、白い夏服の生徒たちが作る道の奥から、爽やかな男子生徒が歩み寄ってきた。短髪で、真面目そうだ。背も高い。巧が見ても男前(古いか?)だ。
「先輩、いつもの席を用意してあります。まずはそこに」
伸ばした手の先にちょこんとベンチが立っている。あそこに案内してくれるみたいだ。
黙って、3人がたくさんの生徒に見守られながらベンチに向かう。
巧はすこし猫実さんを見た。恥ずかしそうに俯いている。巧も気持ちは痛いぐらいよくわかる。しかし、前を歩く先輩の後ろ姿は堂々として、この異様な状況にうろたえる気配は微塵も感じられない。もしかしたら、屋上に入った時点で、そういうスイッチを入れたのかもしれない。
「どうぞおかけください」
名前も知らないその、男子生徒がお辞儀をして立ち去る。夜桜先輩がスカートを抑えながら座る。そういえば、彼女は弁当らしきものを手にしてない。昼食はどうするつもりだろうか。
不安になりながら、巧も猫実さんの隣に座る。こうしてしまえば、大量の親衛隊たちは見えなくなり、のどかな街の景色が青空とともに見渡せた。
文学少年の巧には、何か感じずにはいられない美しさである。しかし、後ろにいるであろう視線を想像するとすこし寒気がする。
「夜桜先輩!」
「うわあ!!」
突然さっきの男子生徒が割り込んできて巧が悲鳴をあげる。
そんな巧を、無視して彼が話し始めた。
一人、大声を上げてしまった恥ずかしさに身悶えしながら、巧は頑張って夜桜先輩の様子を見守った。
「こちら、マルミツの幕内でございます。」
立派なデパートの弁当を受け取る夜桜先輩。
「ありがとう」
あまり嬉しそうじゃない。
「お金、、」ごそごそと先輩がスカートのポケットを探る。
「いえいえ、結構でございます!」
代金を受け取るのを拒否する爽やかな男子生徒。
「いいから受け取れ」
先輩が立ち上がって、お金が入っているであろう封筒を強引に男子生徒の制服の胸ポケットに突っ込んだ。
「うわあ!、、、あ、ありがとうございます、、、」
男子生徒が突然の接触にらしくなくうろたえる。なんか可愛いなぁ。巧はそう思ってしまう。がすぐに思い直す。
普段、先輩にこんなことされてる自分ってこんな感じなのか?
またもや、恥ずかしくなってしまう。せっかくの食欲が消えかける。
「大丈夫ですか?」
なぜか猫実さんに心配される。
「うん、大丈夫です、、」巧は答える。
「まあ、私も慣れませんけど、、、。先輩の言う通り静かですね、今回は。前はなんか応援団みたいに叫んでたのに。」
どうしちゃったんだろう、猫実さんが顎に手を当てて考える。こんな時にも知らない誰かの心配をするとは、さすがだと思う。
「巧のおかげだ。」
きっぱりと夜桜先輩が言う。
「えっ!」
「私が、男子を連れてきたから警戒してるのだろう。もしかしたら恋人か、とか勝手に想像されてるかもしれない。」
「だからかあ」
ポンと、手のひらを叩いて猫実さんが納得する。いや、それって、、、。
「と言うことで、食べようか」
「はい」
夜桜先輩が幕内弁当を開け始める。
巧も母が作った弁当を食べようとして、止まる。
「あのー、僕、勝手に一番恨みを買う役やらされてません?」
沈黙。
「いい景色だ。」
先輩がのどかな景色を見ながら言った。




