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書けるよ

「和風ファンタジーです」

 猫実さんがもじもじしながら夜桜先輩に考えて来たアイデアを紹介する。一つの机に三人が向き合って座る。この気遣いが巧はすごく嬉しい。一対一じゃなくても会話できる。それに、耳が悪いということをみんながわかってくれているのがとても気が楽だ。

 猫実さんがノートを開いた。巧は目を見張った。

 夜桜先輩が小さく感嘆の声をあげる。

 ノートいっぱいに鉛筆で大きなイラストが描かれていた。

 大きな鳥居が、大量の描き込まれた線で異様な存在感を放っていた。鳥居といってもおどろおどろしい感じはしない。それは周りに描かれた金魚や鯉といった和風の魚が華やかな雰囲気を出しているからだ。鳥居は水中にあるというより、水面から足を出しているようだ。厳島神社がモデルだろうか。

 しばらくは、巧はその絵に見惚れていた。惹きつけられるような力があった。

 何度も何度も描き直したような跡が、猫実さんらしい。

「上手ですね。」

 彼女の意見を聞きたくて、そう声をかけた。

「いやあ、そんなことないですよお」

 案の定、照れる猫実さん。

「時間かかったでしょ」

「えっ、ええ、まあ」夜桜先輩に、声をかけられてカクカクと緊張気味に猫実さんが、頷く。目がキラキラしている。嬉しい時は本当に目を輝かせる人なのだ。先輩の前だと、いつもより女々しい。

 巧はもっと近づいて絵を見る。よく見ると説明書きが文字が書いてある。

「空は、夕暮れどきの深い色で、、、なるほど。」

「鳥居の大きさは、100メートルぐらい。でかいな」夜桜先輩も、一緒になって絵を覗き込む。

「いや、ちょっと!音読しないでください!わたしが今から説明しますからっ」

「すいません」

 謝りながらも、あわてる猫実さんがすこし可愛いと思ってしまう巧だった。


「こほん」

 まさに気をとりなおして、という感じで猫実さんが空咳をした。言動がわかりやすい人だ。漫画かアニメから出て来たんではなかろうか。

「あ、なに笑ってるんですか。巧さん」

「いや、猫実さんの咳が面白かったんでつい」

「そこが、ネコの可愛いところだ。」

 なんの恥じらいもなく、夜桜先輩が言った。

「す、進めます」

 直截的すぎる物言いに赤くなりながらも、何とか猫実さんは話を続けた。

 夢で見た光景なのだという。

 あたり一面、膝のあたりまで水が張られていた。空を遮るものはなく、無限の滑らかな夕暮れの空を見渡せた。お祭りの屋台が道の両脇にたくさん並んでいた。明かりが水に反射して、幻想的だ。

 そして、その道の先には、遠近感を壊されるほどの巨大な鳥居が立っていたようだ。水はかなり先の方まで、海のように広がっている。

 遠くの方は鏡のように空の色を写している。足元には、金魚や鯉が赤に、金色に群れをなして優雅に泳いでいる。

 夜になると満天の星が見える。宇宙の中に立っている。広く、澄んだ世界の真ん中に、ポツリと立っていた。1人でも寂しさはなく、お母さんのお腹の中のようにただ満たされていた。

「美しい景色でした。」

 巧は、すらすらと流れるような解説に夢中になっていた。ワクワクした。そんな世界に行って見たいと思った。

 いつもは饒舌な夜桜先輩もすぐに言葉を発することはなかった。

「タイトルは、未定ですけど、かけたらいいなあって思います。」

 最後は打って変わって自信をなくしてしまう。やっぱり小説を書くのが怖いのかな。

 いたたまれなくなった。気がついたら、立ち上がっていた。

 言葉には、思いには人を動かす力があるのだ。まさかその瞬間を我が身で体験するとは。

「書けるよ」

「え」

 呆然と、猫実さんが突然立ち上がった巧を見上げる。

「猫実さんなら絶対書ける。」

 その、眩しいぐらいの眼光に負けないように巧は言った。

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