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久々に文芸部

 数えたら、7枚。2800字か。

 例の『新宿』を持って登校。

 月曜日が始まった。つまらなくもない授業を受け終わると気持ちは緩んで、心地よい達成感に包まれる。何事もまあまあと受け入れられるようになったのは、難聴のおかげかもしれない。

 それがいいのか悪いのかはわからないけど、、、。

 まずは猫実さんに断ってから、夜桜先輩に作文を見せに行こう。

 巧は、お助け部の部室へ向かう。

「こんにちは」おそるおそるドアを開く。緊張する。先週の失敗をどうしても引きずってしまう。

「あ、こんにちは」

 猫実さんは当然のように先着している。特段何もないように巧に応ずる。少しそれで巧も安心した。

「あの猫実さん」

 と声をかける。

「今から、夜桜先輩に文章を見てもらおうと思うんだけど少し文芸部に行ってもいいですか」

 すると猫実さんも何か面白いのか不敵に笑みを浮かべた。ポニーテールと相まって何かクールな感じだ。

「ちょうど私もアイデアを見てもらおうとしてて」

 机の上に広げていたノートの表紙を掲げる。

 緑色のノートにはアイデア帳18と、書かれていた。

 そういえば、猫実さんは中学生からずっと、物語を考えているんだ。

 その数字に対抗心が芽生える。いつも頼ってばかりの彼女にこんな気持ちを抱くのは久しぶりだ。


「これでよし」

 留守番代わりに猫実さんが、小さい郵便受けのようなものをドアの下半分の鉄の部分に取り付けた。どうやら磁石が背中についているのだろう。

 もし用がある人が来たら、これに相談を書いた紙を入れれば、お助け部が閉まってても大丈夫というわけだ。

「キュウちゃんが作ってくれたんです」

 猫実さんがポストを取り付けながらしゃがんだ姿勢で言った。巧は横顔を見ていた。

 あの、映画の人か。と思い出す。多才な人のようだ。

 巧はまじまじと赤い可愛らしいポストを見る。


「巧さん、『フォーエバー』どうでしたか」

 すこし文芸部まで歩く。

「普通に面白かったです。主人公が、僕とすこし似てるなと思って」

 率直に感想をいう。彼女に対しては、自分の意見をはっきり言うことが一番いいと思っている。

「それは、どんなところが」

 ハキハキと猫実さんが相槌を打つ。

 のどかな放課後だ。この間、新宿で話した時よりも雑音がなくて話しやすい。

「えーと」

 それでも巧は言い淀む。やっぱり直接口にしづらいテーマだ。なんだか、悲劇のヒロイン気取ってるみたいで。

「どっちも、目に見えない障害じゃないですか。そこが共感できたのは良かったなと思います。」

 猫実さんがまた少し身構えるのを巧は感じた。気を遣ってくれているのだろう。

「なるほど」

 そう答えて猫実さんは顎に手を当てがった。表情が豊かだ。真剣に考える姿を見て、巧も思いつくことがあった。

 猫実さんの「書けない」っていうのもある種の見えない辛さなのではないか。

 むしろ、あの主人公の体質は、障害というより、どんな人にもある弱点とか、苦手なことを表しているのかもしれない。たまたま、自分が障害を持っていただけで、もっと普遍的なテーマをあつかっているはずだ。

「深いですねぇ。ますますかゆくなっちゃいました」

 猫実さんが、こちらを向いて、わなわなとは両手の指を震わせる。

「は?か、かゆい?」

 巧は初め、聞き間違いだと思った。まさに自分の耳を疑った。いや、最初から信じてない、、、。

「ええ、小説を書きたくなっちゃうっていう意味です。」猫実さんが空中に人差し指で字を描く。

「あ、ゆい、か!」

 巧は軽くアハ体験をする。そしてすぐさまメモ帳を学ランのポケットから取り出して歩きながらメモを取る。

「これは、小説に使える。語呂もいいですし」

 そういうと猫実さんはコロコロと笑った。

「初めて聞いたわたしと同じこと言ってる」

「ええ?!」

 戸惑いながらも巧も笑った。ふと心が軽くなるような気がする。

「キュウちゃんが考えた言葉ですよ。書ゆい。」

 2人は話しながら薄暗い地下部室棟に降りて行く。

「すごいな、そのキュウちゃんていう人。」

「ええ、試写会で会えます。きっと。」

 巧は世の中には面白いことを考える人がたくさんいるなあとづくづく思い知らされた、

 いきなり試写会で打ち解けられるかどうかは不安だが。なんせ、極度の人見知りだ。

「それにしても、やっぱり下手なりに作り側を、体験するとから小説とか映画が何倍も面白くなりますよね。凄さがわかるというか。対抗心がわくというか。」

 巧は猫実さんにわかって欲しくて、思わず身振り手振りで力説してしまう。こんな時まで一生懸命である。

「わたしも、です」

 猫実さんはキラキラと輝く目で返す。それだけで嬉しい。

「巧さんもかゆくなっちゃったんですよねっ!」

「うん、まあ」

 そう言えなくもない。

 巧は手に持った薄い原稿用紙の束を見る。

 会話が中途半端なのか切りがいいのかわからないぐらいのところで文藝部についた。

 今日は2人。でも緊張は全くないと言ったら嘘になるか。やっぱり美人ならではの迫力があって怖い。

 ノックしようと手を出したら、猫実さんが「せんぱーい」と言って呼び出してしまった。親密度の違いを思い知らされる。

 右腕のやり場に困る。

 思わぬ出鼻の折られ方をした。

 ガチャリと、ドアが開いて夜桜先輩と目が合う。

「どうした、ガッツポーズして」

「いや、なんでもないです」

 さっそく顔が熱くなる。やりづらい。



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