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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第二話『ある伝説の書』‐⑤

「うむゅ?」「なんなの?」

 眠っていたはずのミーナとミアンたちが目を覚ます。二体ふたりのうちでも、特にまぁるいお目目をこちらに向けているのが化け猫ミアン。

「ど、どうしたのにゃ。そのお菓子たちは?」

「本当本当。さっきまでなかったはずなのに」

 ミーナは鼻をくんくんとさせ始めた。

「でもミアン。このにおいは」

 ミアンも鼻をひくひくさせている。

「これは……、間違いにゃい。ご主人さまにゃよ!」

 ばたばたばたっ! ぱたぱたぱた!

 あわただしく、小屋の外にある調理場へと向かうミアンたち。それをぽけぇっ、と見つめていたオレっちに、カスミが声をかける。

「さみしいの?」

(こいつ、一体なにをいってやがる)

「どういう意味だよ」

「だって、ついさっきまであの子たち、アタシたちのそばにいたじゃない。それが、あっという間に消えちゃったのよ」

「別に。いなくなって、ほっとしているよ」

「またまたぁ。強がりいっちゃってぇ。ネイルにとられてくやしいんじゃないの?」

「そんなわけねぇだろう」

 そのあとも冷やかすように声をかけてくるカスミ。オレっちは相手にすることもなく、お菓子をもくもくと食べつづける。

「ちぇっ。なぁんかつまらないわね」

 カスミも再びお菓子を口にし始めた。時折、ちらちらっと、ミアンらが乗っていた自分の肩に目を向けては、ためいきをついている。

(そうか。オレっちがさみしがっているってカスミが感じたのは、とりもなおさず、カスミ自身が、あいつらがいなくなったことで、さみしくなっているからなのかもな)

 ふとそんなことを思った。


 ネイルが調理場から戻ってきた。手にしている大皿には色とりどりの焼き菓子が山盛りに。

「さぁ、これもどうぞ。焼きたてのほやほやですよ」

「あれっ。ネイル、ミーナちゃんたちは?」

 カスミは調理場へ行ったきり戻ってこない霊体らを気にしている。

「ミアンさんたちなら、この皿と同じように盛ってあるお菓子たちを制覇せいはすべく、必死になって食らいついています」

「へぇ。どれどれ」

 カスミは大急ぎで小屋の外に出る。

「ソラ。カスミさんってなんにでも興味を持つ人なんですね」

 そうじゃなくて、と、カスミの心情を話してみようかとも思ったが、なんか面倒くさい。

「ひまなんだよ」と一言ですませた。

 どがっ!

(あ、あのあまぁ!)

 油断をしていた。素早く立ち去ったため、姿は見ていない。だが間違いない。カスミだ。カスミのやつがオレっちにりを食らわせた。


 しばらくしてからカスミが戻ってきた。顔には何故かおどろきの表情が。

「すごいわよ、ミーナちゃんとミアンちゃん。お皿のお菓子が次から次へと消えていくの。特にすごいのがミーナちゃん。お菓子に食らいつく速さがはんぱじゃないわ。ミアンちゃんの数倍ぐらい上をいっているもの」

「カスミ。それであいつらは?」

「重なるようにぶっ倒れてているわ。それがね。幸せそうな寝顔なのよ」

 ふふっ、とカスミは思いだしように、口元に笑みを浮かべた。

「カスミさん」

 ネイルが口をはさんできた。

「実は僕も興味があったから試してみたんですよ」

「なにを?」

 ネイルの『試す』という言葉が心の琴線きんせんれたみたいだ。カスミは期待するような目で、話のつづきをうながしている。

「二つのお皿にお菓子を山積みにしておきましてね。お二体ふたりの前に差しだしたんです。もちろん、両方とも同量です。同時に食べさせたら、どっちが早くたいらげるかなぁ、と思いまして」

「へぇ。面白いことをやったね」

 ハイネがネイルの話に食らいついた。

「それでそれで。どうなったの?」

 カスミも目をきらきらとさせている。

「もの好きだな、お前も」

 これはオレっち。興味なさそうにいいつつ、しっかりと耳をすませている。

「みなさん。だいぶ関心を持たれたみたいですね」

 みなさん、という割には、ネイルのほほ笑みはこちらに向けられている。

(ちえっ。オレっちの演技力がゼロっていいたいのかよ。それとも心を読まれたか? なんといっても呪術師だからな)

 オレっちがあれやこれやと考えている間に、ネイルの口から期待した言葉がもれてきた。

「もったいをつけずにいいますとね。お二体ふたりは同時に完食しました」

「えっ。同時だったの」

 カスミが目を丸くしている。

「そうなんです。一口で食べる量は当然のことながら、ミアンさんの方が多い。ところが、食べる速さはミーナさんの方が上、というか、すさまじい速さで食べていました。それが理由ですね。終わってみれば、仲よく引きわけ、となったのは」

「ふぅぅん。そんなにがつがつと食べていたんだぁ。

 ミーナって、イオラの木に咲く花の妖精だろう? 村の守護神ともいわれている木の精霊が造りだした妖精にしちゃあ、結構食い意地が張っているんだな」

(まぁ、別にかまわねぇけどな。それに、なんか身近でほっとするような気もするし)

 そんな感想を抱いているオレっちに、

「さぁ、それはどうでしょうか?」とネイルは意味ありげな言葉を。『違うのか?』とオレっちが口を出すよりも早く、

「なにか思いあたることでも」とハイネが。つづいてカスミも、

「おなかがものすごくすいていたとか?」と尋ねた。

(二人とも。お願いだから、オレっちが発言する機会を奪わねぇでくれ)

「で、どうなんだ?」と質問をしめくくる意味で、重々しくいってみる。

 ネイルは目をつむって考えこむような仕草をした。だがそれも束の間、なにか思い浮かんだらしく、『ふふっ』と口元から笑みがもれる。

「多分、これは食欲とは関係ないと思いますよ。そうじゃなくってミーナさんの心が」

 ここまでは口にしたものの、

「……いや、これは僕の勝手な想像です。気にしないでください」と、ネイルは言葉をつづけるのをやめてしまった。もちろん、おれっちらは納得できるはずもない。

「『気にしないでくれ』っていわれてもなぁ」とオレっちの言葉に、

「そうよね」とカスミも同意し、

「想像でいいからいいなよ」とハイネも言葉をそえる。

 重ねて三人でつめよるも、結局この件に関してやつは、なにもいわなかった。ただオレっちは、あることが心に残っていた。それは、ネイルが『多分』といった言葉の前。彼は、『ふふっ』とほほ笑んでいた。あのほほ笑みから伝わってきたのは決してあざけりなどではない。なんていうか、……そう。愛しげな思いだったのだ。それがどういう意味を持つのか。親友であるのにもかかわらず、やつの心を理解することはできなかった。それを悲しいことだとと思ったのは、……考えすぎだろうか。


 焼き菓子を食べながら、オレっちらは、おしゃべりに花を咲かせていた。

「本当に美味いや。なぁ、ネイル」

「なんです? ソラ」

「お前さ。職業選択、あやまったんじゃねぇのか?」

 オレっちがそういうと、ハイネも同調して、

「そうだよ。これだけのものが造れるんだし、今からでも」と転職をうながしている。そしたら、カスミまでもが、

「あたし、お菓子職人の知りあいがいるの。なんだったら紹介してあげる」といいだした。

(さてさて。ネイルの反応は?)

「ははは。ありがとう。考えておきますよ」

 口ではそういうものの、全然乗り気じゃないのが伝わってくる。どうやら、呪医を天職と心得ているらしい。

(まぁ、判っていたけどな)


「これも悪くはないわね」

 食べやすいせいか、エリカが焼き菓子を次々と口に入れている。そのかたわらでレイコも、かりっ、と小さくかじった。

「うん、美味しい」

(あの仕草が可愛いんだよなぁ)

 そう思っていたら、やたらとさわがしい声が聞こえてくる。

「うわぁん! これなら、いくらでも食べれちゃうぅ!」

 予想たがわずマリエだ。あまりにも感動したのか、ネイルの元へやってきた。

「ねぇ、すんごく美味しいんだけどぉ。どうやったら、こんなに菓子の生地がふわんふわんに造れるのぉ、教えてちょうだいいん」

「そうですね。泡立て器にこもってなかなか落ちないくらい、素材を泡立てるのが『こつ』かもしれません」

(ネイル……。ご苦労なこった。マリエのやつに、まともな答えを返してやがる)

「うっそぉ。そんなにぃ。それじゃあ、腕の力がいっぱいいるんじゃなぁぁい?」

「いえ。泡立てるのに最適な器具さえ使っていれば、腕の力は人並みで十分。ですが、それよりももっと大事なものが必要です」

「うへぇっ。もっと大事なもの? 教えて教えてぇ!」

(なんか聞いていてうざくなってきやがった。ネイルの野郎も相手になんぞしなきゃいいのに)

 そう思った矢先のこと。目の前で信じられないできごとが。

「マリエさん」

 がしっ。

 なんと! ネイルはマリエの両手を自分の両手ではさんだ。

「ひっ!」

 マリエは小さな悲鳴をあげた。足が、がくがくとふるえてきたと思ったら、それが全身へと拡がっていく。マリエは引きつったような顔でネイルを見ている。

「『愛』です。美味しいものを食べさせてあげたいという『まごころ』です。それが泡立てを完成させる原動力となります。そうやってできた、しっかりとした泡こそが生地にふくらみを与え、やわらかさをもたせるのです」

「…………」


 オレっちは自分の目を疑った。

「おい、見ろよ、マリエが」

 ハイネもおどろいたようにつぶやく。

「信じられない……。あのマリエ君が」


『黙りこくっている!』

 オレっちとハイネは同時に叫んだ。


 女子三人組も、ネイルとマリエに目を向けていたらしい。批評らしきものを口にしている。

「たいしたもんだわ。よくもまぁ、みんなが見ている前であんな歯の浮くような台詞を」

(エリカのやつ、あきれるというよりかは、むしろ感心していやがる)

「あの、一見恥知らず的なところが、彼の持ち味なのよ」

(カスミ。それはほめているのか? それともけなしているのか?)

「ネイル……。わたしも両手をはさんでほしい」

(レイコ。お前、あたま大丈夫か?)


 ネイルが両手を離すと、マリエは床にくずれおちそうになる。

「マリエさん!」

 あわてたようにネイルはマリエをだきしめる。どうやら気を失っているようだ。やつは両手で彼女を抱えると、ベッドまで歩いていって最下段に寝かせた。


「見た? 今の? よくやるわねぇ」

(うらやましいような顔をしているが、自分もされたいのか? エリカ)

「マリエったら、お姫さまだっこされていた……」

(カスミ。うらやましそうな顔をするな。こっちに火の粉が降りかかちゃたまらねぇや)

「わたしも……されたい」

(レイコ。お前、とにかく一回病院へ行った方がいい)


 カスミの目が。ちらっ、ちらっ、とこちらをのぞく。『あたしにもやって』といいたそうな表情。オレっちは静かに首を横にふる。とたんに、カスミは、むっ、とした表情を浮かべる。相手をするのも面倒なので、オレっちは気がつかないふりをした。


「うむゅ?」「なんなの?」

 眠っていたはずのミーナとミアンが目を覚ます。二体ふたりのうちでも、特にまぁるいお目目をこちらに向けているのが化け猫ミアン。

「ど、どうしたのにゃ。そのお菓子たちは?」

「本当本当。さっきまでなかったはずなのに」

 ミーナは鼻をくんくんとさせ始めた。

「でもミアン。このにおいは」

 ミアンも鼻をひくひくさせている。

「これは……、間違いにゃい。ご主人さまにゃよぉ!」

「あっ。待ってぇ、ミアン」

 ばたばたばたっ! ぱたぱたぱた!

 あわただしく小屋の外にある調理場へと向かうミアンたち。それをぽけぇっ、と見つめていたオレっちに、カスミが声をかける。

「さみしいんでしょう?」

(こいつ、一体なにをいってやがる)

「どういう意味だよ」

「だって、ついさっきまであの子たち、あたしたちのそばにいたじゃない。それが、あっという間に消えちゃったのよ」

「別に。いなくなってほっとしているよ」

「またまたぁ。強がりいっちゃってぇ。ネイルにとられてくやしいんじゃないの?」

「そんなわけねぇだろう」

 そのあとも冷やかすように声をかけてくるカスミ。オレっちは相手にすることもなく、お菓子をもくもくと食べつづける。

「ちぇっ。なぁんかつまらないわね」

 カスミも再びお菓子を口にし始めた。時折、ちらちらっと、ミアンらが乗っていた自分の肩に目をやっては、ためいきをついている。

(そうか。オレっちがさみしがっているってカスミが感じたのは、とりもなおさず、カスミ自身が、あいつらがいなくなったことで、さみしくなっているからなのか)

 ふとそんなことを思った。


 ネイルが調理場から戻ってきた。手にしている大皿には色とりどりの焼き菓子が山盛りに。

「さぁ、これもどうぞ。焼きたてのほやほやですよ」

「あれっ。ネイル、ミーナちゃんたちは?」

 カスミは調理場へ行ったきり戻ってこない霊体らを気にしている。

「クリーム菓子を食べているんじゃないの?」

 ハイネがそういうと、ネイルは、『あれっぽっち、ぺろっ、と食べてしまいましたよ』と前置きしたあと、

「もっとなにかほしい、ってせがまれたので、これと同じぐらいにお菓子を盛ったお皿を差しだしたんです。ミアンさんたちは今、そのお菓子たちをたいらげようと必死になって食らいついています」と、あいつらのとどまるところを知らない食欲をじまんげに話している。

「へぇ。どれどれ」

 カスミは大急ぎで小屋の外に出る。

「ソラ。カスミさんってなんにでも興味を持つ人なんですね」

 そうじゃなくて、と、カスミの心情を話してみようかとも思ったが、なんか面倒くさい。

「ひまなんだよ」と一言ですませた。

 どがっ! ばたん!

 オレっちは思わず引っくりかえった。

(あ、あのあまぁ!)

 油断をしていた。素早く立ち去ったため、姿そのものは見ていない。だが間違いない。カスミだ。カスミのやつがオレっちの横っつらにりを食らわせた。

(忘れていたぜ。あいつもじごく耳だったことを)

「大丈夫かい?」「大丈夫ですか?」

 目の前にはオレっちをあわれむ親友二人の姿があった。


 しばらくしてからカスミが戻ってきた。

「お前、さっきは!」

 いきり立つオレっち。だが、カスミの関心は既に先の方へと向けられていた。顔におどろきの表情を浮かべながら話を始める。

「すごいわよ、ミーナちゃんとミアンちゃん。お皿の焼き菓子が次から次へと消えていくの。特にすごいのがミーナちゃん。お菓子に食らいつく速さがはんぱじゃないわ。ミアンちゃんの数倍ぐらい上をいっているもの」

(ふぅ。だめだ、こいつ。さっき自分がやった行為を完全に過去のことにしちまってやがる)

 となると、いつまでもこだわっているのは男らしくない、というか野暮というもの。あきらめて話をあわせるしかなかった。

「カスミ。それであいつらは?」

「重なるようにぶっ倒れてているわ。それがね。本当、幸せそうな寝顔なのよ」

 ふふっ、とカスミは思いだしたように、口元に笑みを浮かべている。

「カスミさん」

 ネイルが口をはさんできた。

「実は僕も興味があったから試してみたんですよ」

「なにを?」

 ネイルの『試す』という言葉が心の琴線きんせんれたみたいだ。カスミは期待するような目で、話のつづきをうながしている。

「二つのお皿にお菓子を山積みにしておきましてね。お二体ふたりの前に差しだしたんです。もちろん、両方とも同量です。同時に食べさせたら、どっちが早くたいらげるかなぁ、と思いまして」

「へぇ。面白いことをやったね」

 ハイネがネイルの話に食らいついた。

「それでそれで。どうなったの?」

 カスミも目をきらきらとさせている。

「もの好きだな、お前も」

 これはオレっち。興味なさそうにいいつつ、しっかりと耳をすませている。

「みなさん。だいぶ関心を持たれたみたいですね」

 みなさん、という割には、ネイルのほほ笑みはこちらに向けられている。

(ちえっ。オレっちの演技力がゼロっていいたいのかよ。それとも心を読まれたか? なんといっても呪術師だからな)

 オレっちがあれやこれやと考えている間に、ネイルの口から期待した言葉がもれてきた。

「もったいをつけずにいいますとね。お二体ふたりは同時に完食しました」

「えっ。同時だったの」

 カスミが目を丸くしている。

「そうなんです。一口で食べる量は当然のことながら、ミアンさんの方が多い。ところが、食べる速さはミーナさんの方が上、というか、すさまじい速さで食べていました。それが理由ですね。終わってみれば、仲よく引きわけ、となったのは」

「ふぅぅん。そんなにがつがつと食べていたんだぁ。

 ミーナって、イオラの木に咲く花の妖精だろう? 村の守護神ともいわれている木の精霊が造りだした妖精にしちゃあ、結構食い意地が張っているんだな」

(まぁ、別にかまわねぇけどな。それに、なんか身近でほっとするような気もするし)

 そんな感想を抱いているオレっちに、

「さぁ、それはどうでしょうか?」とネイルは意味ありげな言葉を。『違うのか?』とオレっちが口を出すよりも早く、

「なにか思いあたることでも」とハイネが。つづいてカスミも、

「おなかがものすごくすいていたとか?」と尋ねた。

(二人とも。お願いだから、オレっちが発言する機会を奪わねぇでくれ)

「で、どうなんだ?」と質問をしめくくる形で重々しくいってみる。

 ネイルは目をつむって考えこむような仕草をした。だがそれもつかの間、なにか思いうかんだらしく、『ふふっ』と口元から笑みがもれる。

「多分、これは食欲とは関係ないと思いますよ。そうじゃなくってミーナさんの心が」

 ここまでは口にしたものの、

「……いや、これは僕の勝手な想像です。気にしないでください」と、ネイルは言葉をつづけるのをやめてしまった。もちろん、オレっちらは納得できるはずもない。

「『気にしないでくれ』っていわれてもなぁ」とオレっちの言葉に、

「そうよね」とカスミも同意し、

「想像でいいからいいなよ」とハイネも言葉をそえる。

 重ねて三人でつめよるも、結局、やつはこの件に関してなにもいわなかった。ただオレっちは、あることが心に残っていた。それは、『多分』といった言葉の前。やつは、『ふふっ』とほほ笑んでいた。あのほほ笑みから伝わってきたのは決してあざけりなんかじゃない。なんていうか、……そう。愛しげな思いだったのだ。それがどういう意味を持つのか。親友であるのにもかかわらず、やつの心を理解することはできなかった。それを悲しいことだとと思ったのは……考えすぎだろうか。


 焼き菓子を食べながら、オレっちらは、おしゃべりに花を咲かせていた。

「本当にうまいや。なぁ、ネイル」

「なんです? ソラ」

「お前さ。職業選択、あやまったんじゃねぇのか?」

 オレっちがそういうと、ハイネも同調して、

「そうだよ。これだけのものが造れるんだし、今からでも」と転職をうながしている。そしたらカスミまでもが、

「あたし、お菓子職人の知りあいがいるの。なんだったら紹介してあげる」といいだした。

(さてさて。ネイルの反応は?)

「ははは。ありがとう。考えておきますよ」

 口ではそういうものの、全然乗り気じゃないのが伝わってくる。どうやら、呪医を天職と心得ているらしい。

(まぁ、判っていたけどな)


「これも悪くはないわね」

 食べやすいせいか、エリカが焼き菓子を次々と口に入れている。そのかたわらでレイコも、かりっ、と小さくかじった。

「うん、おいしい」

(あの仕草が可愛いんだよなぁ)

 そう思っていたら、やたらとさわがしい声が聞こえてくる。

「うわぁん! これなんら、いくらでも食べれちゃうぅ!」

 予想たがわずマリエだ。あまりにも感動したのか、ネイルの元へやってきた。

「ねぇ、すんごくおいしいんだけどぉ。どうやったら、こんなに菓子の生地がふわんふわんに造れるのぉ、教えてちょうだいいん」

 マリエの軽薄けいはくともとれる言葉。それとは対照的に、ネイルはまじめな顔で腕を組み、考えこむ仕草をしている。

「そうですね……。泡立て器にこもってなかなか落ちないくらい、素材を泡立てるのが『こつ』かもしれません」

(ネイル……。ご苦労なこった。マリエ相手に、まともな答えを返してやがる)

「うっそぉ。そんなにぃ。それじゃあ、腕の力がいっぱいいるんじゃなぁぁい?」

「いえ。泡立てるのに最適な器具さえ使っていれば、腕の力は人並みで十分。ですが、それよりももっと大事なものが必要です」

「うへぇっ。もっと大事なもの? 教えて教えてぇ!」

(なんか聞いていてうざくなってきやがった。ネイルの野郎も相手になんぞしなきゃいいのに)

 そう思った矢先のこと。目の前で信じられないできごとが。

「マリエさん」

 がしっ。

 なんと! ネイルはマリエの両手を自分の両手ではさんだ。

「ひっ!」

 マリエは小さな悲鳴をあげた。足が、がくがくとふるえてきたと思ったら、それが全身へと拡がっていく。ネイルを見ているその顔には、引きつったような表情が浮かんでいた。そんなマリエにとどめをさすような言葉がネイルの口からつむぎだされる。

「『愛』です。おいしいものを食べさせてあげたいと思う『まごころ』です。それが泡立てを完成させる強い意志を生みます。そうやってできた、しっかりとした泡こそが生地にふくらみを与え、やわらかさをもたせるのです」

「…………」


 オレっちは自分の目を疑った。

「おい、見ろよ、マリエが」

 ハイネもおどろいたようにつぶやく。

「信じられない……。あのマリエ君が」


『黙りこくった!』

 オレっちとハイネは同時に叫んだ。


 女子三人組も、ネイルとマリエに目を向けていたらしい。批評らしきものを口にしている。

「たいしたもんだわぁ。よくもまぁ、みんなが見ている前であんな歯の浮くような台詞を」

(エリカのやつ、あきれるというよりかは、むしろ感心していやがる)

「あの、一見恥知らず的なところが、彼の持ち味なのよ」

(カスミ。それはほめているのか? それともけなしているのか?)

「ネイル……。わたしも両手をはさんでほしい」

(レイコ。お前、あたま大丈夫か?)


 ネイルが両手を離すと、マリエは床にくずれおちそうになる。

「マリエさん!」

 あわてたようにネイルはマリエをだきしめる。どうやら気を失っているようだ。やつは両手で抱えなおすと、ベッドまで歩いていって最下段に寝かせた。


「見た? 今の? よくやるわねぇ」

(うらやましいような顔をしているが、自分もやってほしいのか? エリカ)

「マリエったら、お姫さまだっこされていた……」

(カスミ。それ以上、なにも考えるな。こっちに火の粉が降りかかちゃたまらねぇや)

「わたしも……されたい」

(レイコ。お前、とにかく一回病院へ行った方がいい)


 カスミの目が、ちらっ、ちらっ、とこちらをのぞく。『あたしにもやって』といいたそうな表情。オレっちは静かに首を横にふる。とたんに、カスミは、むっ、とした表情を浮かべる。相手をするのも面倒なので、オレっちは気がつかないふりをした。


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