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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第十二話『すくえたものとうばわれたもの』‐⑤

「たかが、ねぇ。いわせておけば図に乗って、って感じだね。

 まぁ、いいや。ドラスの力がどれほどのものか、その身に教えてあげるよ」

 かぁぁっ!

 目の前にいるガン・ドラスの体色、白銀色が強い光を帯び始めた。やつは後ろへと宙返り。オレっちとのを拡げる。

「これは光波。さっきよりもちょっと強めにしてある。受けられるものなら受けてごらんよ」

「望むところだ」

 オレっちは霊波刀を手に現わす。刃の部分とにぎる部分、ともに同じ光を放っている。

(戦わなければ。そして勝たなければ)

 思いが強ければ強いほど、刀の光も強くなる。刀は霊波から霊刃へと変わる。両手でにぎると、上段のかまえをとった。

「さぁ、いつでも来い!」

「おや。いつのまにか人間の目にもどっているね。

 人間とドラスの戦いかぁ。おもしろいね。行くよぉ!」

 オレっちとガン・ドラスは正面からぶつかりあう。

 しゅわぁん!

「うわぁっ!」

 光波の力にふっ飛ばされた。

 どてっ!

「痛てぇ……」

 じめんにしりもちをついたオレっちに、やつは話しかける。

「どう? 手も足も出せないよね?」

「うるせぇ!」


 それから何度も何度も立ちあがってはたおされ、たおされては立ちあがり、をくり返した。

「まだやるのぉ? しつこいねぇ。それじゃあ女の子にきらわれるだけだよ」

「だから、うるせぇってんだよ!」

 オレっちは両手でにぎった霊刃刀を見つめる。

(霊刃の力じゃとてもじゃねぇが、光波には、たちうちできねぇ。

 だが……絶対に負けるわけにはいかねぇ)

 オレっちは短いながらもこれまで人として生きてきた時間を心の中でたどった。使い手、仲間、そして親友。彼ら彼女らがオレっちに与えてくれたものをひとつひとつ思い返してみた。

(生きとし生けるものとの出会いやふれあい。それが今のオレっちを造った。絶対に手放すもんかぁ!)

 オレっちの思いが心から両手へ、両手から刀へと注がれていく。だが……まだ足りない。

「くそぉっ。だれか力を。オレっちに力をぉ!」

 力を求めてさけぶ中、いつしか、幼なじみの名を呼んでいた。

「……カスミぃ! オレっちに力をぉ!」


 どっくん。どっくん。

 命の高鳴りとともに……だれかがオレっちの心に声をかけた、ような気がした。


『……ソラ。力をあげる。受けとって』


「これは……」

 今までにない強い光が手の中に現われた。

「光刃だ!」

 光波をしのぐとされる光刃が、今、目の前に。

「いくぞぉ!」

 光刃刀を立てて真横にかまえた。とたんに、やつから喜びの声が。

「いいねいいね。それでこそ君だよ。こちらもいくよぉ!」

 たったったったっ!

 ぎゅうん!

 刀を水平にかまえて走るオレっち。真っ正面に飛んでくるがん・ドラス。二つの身体が交差しあう。

 きゅいぃん!

「やったぁ!」

 オレっちは光波の霊圧にふっ飛ばされることなくガン・ドラスを真っ二つに。

 ばぁふっ!

 やつの身体が光の粒となって飛びちり、あとかたもなく消えた。

「ふふふっ」

「なにぃっ」

 笑い声のする方、後ろをふり向けば、そこにガン・ドラスの姿が。

「今回はぼくちんの負けと認めるよ。だけどね。ぼくちんはいつも君の中にいる。君がいつまで人間にこだわっていられるか、ドラスの血にあらがいつづけていられるか、ずぅっと見ているからね」

「勝手にしろ。オレっちは人間でありつづける」

「その言葉、忘れないでよ。じゃあそろそろ、この次元空間を閉じるとするかな」

 どうやら、もどれるみたいだ。

「さよなら、もうひとりのぼくちん、じゃなくて、オレっち」

 やつの声色が変わる。ハイネの声からオレっちの声に。

「じゃあな。あばよ」

 オレっちが無言で立ちつくす中、この言葉を最後にガン・ドラスは姿を消した。


 ――そして……時が動き始めた。周りにある全てのものとともに――


(おっとと、あぶねぇ!)

 オレっちはネイルの顔面に届く寸前、こぶしをとめることができた。やつは身じろぎひとつせずに、それを見ている。

「ソラ。どうやら、いつものソラにもどったようですね」

 疲れた表情ながらも、見なれた笑顔がそこにはあった。

「えっ。……ああ」

(こいつ、オレっちに起きたことを知っているのか。だとしたら、本当に食えねぇやろうだ)

「すみませんでした。僕のせいでカスミさんには気の毒なことをしました」

 頭を深くさげるネイル。ほんの少し前であれば、なぐりかかっていたろう。

 だが……もう今は、

「いいや、お前のせいじゃねぇよ。なんの考えもなくハイネを任せたオレっちがいけなかったんだ」と相手を思いやれるまでに、自分を取りもどしていた。

 ネイルの口からも、オレっちを気づかうような言葉が飛びだす。

「まさか、こんなことになるなんて……夢にも思いませんでしたよ。

 ……ソラ。大丈夫ですか?」

「うん? オレっちがどうかしたか?」

「カスミさんと一番親しかったのは、あなたですからね。つらいんでしょう?」

「……まぁな。でも時間が経てば、また元にもどるさ」

「それならいいんですが……」

「心配性だな、お前は。大丈夫だっていってんだろう? オレっちをもっと信用しなよ」

「……はい」

 平気だよ、みたいな感じでしゃべったものの、内心では、ネイルのやさしい心づかいがうれしかった。

「ところで、ミアンやミーナたちは?」

「ああ。ミアンさんたちなら結界のあった場所で僕たちが来るのを待っています」

「そりゃまたどうして?」

「なんとなく、ですが、いっしょに来ない方がいいような気がしたもので」

(オレっちがあれているのを見すかされていたってわけか。ひょっとするってぇと、オレっちを時のはざ間に送りこんだのはこいつじゃ……まさか、な)


 オレっちのそばには『カスミ』だったものがある。拾いあげなければならないことも判っている。だが、今は目を向けることすらつらい。ネイルと話でもして、気分が落ちつくのを待つことにした。

「しかし、なんだな。今、考えてみると、あれがカスミとの最後の別れになっちまったんだな」「あれって?」

「いやなに。お前にとりついていた死神の鎌に護符を張ってからな。カスミの霊体が飛んできたんだよ。『アタシを受けいれて』ってな」

「そんなことがあったんですか。で、そのあとは?」

「オレっちの身体に吸いこまれるように消えちまった。それだけさ」

 想い出、みたいな感じでしみじみと話した。そしたら、ネイルから思いもよらない言葉が。

「ソラ……。ひょっとすると、カスミさんを元にもどすことができるかもしれませんよ」

「なにぃ!」

 聞きまちがいか、とやつを穴のあくほど見つめる。オレっちの顔が映るネイルのあおい目。その奥にきらりと光るものを見つけた。

(希望の光ってやつだろうか。なら、オレっちにとっても)

「どういうことだ? ネイル」

「その話はひとまずあとにして、とりあえずは……」

 ネイルの言葉をひとことも聞きもらすまいとするオレっち。やがて話が終わり、歩きだそうとしたその時。

「あっ!」

 ばたん!

「お、おい。ネイル!」

 オレっちの一番の親友は……地面にたおれた。

「すみません。なんだか身体が思うように動かなくて……。

 ここに来るまでも、走っているとちゅうで石にけつまずいたり、転んだり、と大変だったんです」「そういやあ、お前、どうしてオレっちがここにいるって判ったんだ?」

「ソラはカスミさんの名前をさけびましたよね。それが霊覚をとおして伝わったんです。強い感情をともなっていたものだから、なにかあったのでは、と感じた方角をたよりに急いできてみたんです」

 霊力を持つ者が放つ心からのさけび。それは意識をせずとも霊覚交信で伝わる。

「よっぽど気が高ぶっていたんだなぁ……。

 カスミのあんな姿を見たんだ。あたりまえといえばあたりまえか」

「ですが……、あれほど足が動かなくなっているとは思いませんでしたよ。おかげでこんなによごれてしまいました」

「ああ……それでか」

 あらためてネイルを目でなめまわした。顔、両手両足、作務衣。全身、土まみれの状態。

(こんなにひどい姿なのに今の今まで気がつかなかったなんて……。

 おかしくなっていたんだなぁ、オレっちは)

「まぁ、無理もねぇや」

 オレっちはうなずく。

「あの結界の中で数日間、閉じこめられていたんだものな。あたりまえだよ」

「やっている僕自身は判りませんでしたけどね」

「それがせめてもの救いだな。あっ。それはそうと」

 ふと思いだしたのでたずねてみることにした。

「なんです?」

「『結界停止』の呪で変なことがあったんだ」

「といいますと?」

「オレっちらが口にした時は確かに発動した。だが、リイゼルがさけんだ時はだめだったんだ。

『言葉以外になにか必要なものが』とかいっていたが、あれって本当なのか?」

「ああ。それなら、ちょっとした細工をしたんですよ。

『ソラたち以外じゃ結界をはずせないように』との思いをこめて」

「へぇ。一体どんな?」

「『愛』です」

 ひとことですませられた。

「愛って……」

(また始まりやがった。発動しない理由は聞きたいが、かといって、愛の話なんぞ聞きたくもねぇしぃ……)

 なやむオレっちの耳元に、これこそが真実といわんばかりの言葉が。

「愛は全てを可能にするのです」

 両手をにぎりしめて目をつむる。あたかも天にいのりをささげるような仕草。

「あのな……」

 多分、あきれ果てたような顔をしていたはず。そんなオレっちに、

『判っています』とネイルは笑顔を見せた。

「『ネイルを助けたい』

 この思いを言葉に乗せないかぎり、発動しません。そのように護玉へ組みこみました」

「なぁるほどな」

(確かにそれならリイゼルじゃ無理だわな。うん。納得した)

 これで『愛』の話とも、おさらばできる。そう楽観していた。だが、まちがいだった。この会話は不幸なことに、やつの心に火をつけてしまったらしい。

「ソラ。お願いがあります」

 いつになくしんけんな目で見つめるネイル。いやな予感がしてならない。

「なんだよ」

「ぼくに愛を分けてください」

 みょうなことをいいだした。

「『愛』? なんのことだ?」

「命ある者が与えてくれる愛。これこそが生きるためになくてはならない心の支え。なのに、今の僕には歩くことさえままならないほど、愛が足らないんです」

「愛が足りないって……」

 愛が足りない、愛が足りない、愛が足りない、…………。

 無数の『愛が足りない』が、オレっちの頭の中をかけめぐる。

「だからソラ。僕に愛をください」

 両手をにぎりしめた姿で、熱い思い? が、ネイルの口から語られつづける。

「無意識のうちにいつも僕に与えてくれる愛以上の愛を。僕を救おうとけんめい動きまわってくれたのと同じぐらいの愛。身も心も温めてくれる強い愛がほしいんです」

 いつになく愛をうったえつづけている。いつになく愛に狂っている。それに対するオレっちの答えは当然、こうなる。

「ええい、やかましい! それに、べたべたとすがりつきやがってぇ」

 ぼかっ! ばたん!

 ネイルの頭をげんこつでなぐった。やつは、あっさりとたおれる。

「めざめたそうそう『愛』を連発するなぁ! 今の言葉だって四つも『愛』を使っていたぞ」

「す、すみません。なにか知りませんが無性に『愛』を使ってみたくなってしまったんです」

「閉じこめられていた反動ってやつか……。

 まぁ、やむをえないっていえば、やむをえないのかもな」

「やっぱり」

 我が意をえた、といわんばかりに、ネイルの顔が喜びのような表情で満たされている。

「ソラは『愛』についてほかのだれよりも理解が深いのですね。

『いくら「愛」をさけんでも受けいれてくれるはず』

 そう期待した僕の目に狂いはなかったみたいです。ほっとしました」

「勝手に決めつけるなぁ! それから勝手にほっとするなぁ!」

「判りますよ、その気持ち。

『いやよいやよも好きのうち』ってさそっているんですね」

「ちがうわっ!」

「ちがうはずないでしょ? ほら、顔が真っ赤ですよ。そんなに照れなくったって」

「照れてなんぞいるもんかぁ! おこっているんだぁ!」

 オレっちは大声を張りあげる。ネイルと話をしていると、ついさっきまであれていた心がまるでうそのよう。いつもの自分に返るには、いつもの日常が一番。そう思わずにはいられないオレっちだった。


(だが……)

 霊力も体力もほとんど残っていないくせに、つき飛ばされてもまたすがりつくネイル。それに対し、なんとかふりはらおうとするオレっち。

(できれば、これが日常になるのだけはえんりょしたい)

 そんな思いを胸に、どなりちらす。

「ええい、放せ! やることがいっぱいあるんだぞ。いいかげんに放しやがれ!」

「いやです。ソラ、もっと愛を!」

 もみあいをつづけているうち、ふと気がつけば、やつの目が異常な光を放っていた。

(やべぇ。こいつ、我を忘れていやがる。本能だけで動いているってやつだな。やっかいなことになりやがった)

 ……とどのつまり、ネイルが動かなくなるまでぶんなぐって決着した。

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