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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第十二話『すくえたものとうばわれたもの』‐①

 第十二話『すくえたものとうばわれたもの』


 オレっちらはネイルのいる広場の手前までたどりつく。

 かきん! かきん!

「な、なんだ?」

 耳ざわりな音が聞こえてきた。

「あれは……」「カスミ、行くわよ」

 カスミとエリカは急にかけだして広場の中に入った。もちろん、ミアンとミーナもいっしょだ。

「どうした?」

 少しおくれてオレっちも入った。なにやら二人、固まっている。

「ソラっち。ちょっとちょっと」

「見てよ、ソラ。ハイネとネイルが戦っている」

 こちらをふり返って、おいでおいで、をしている。オレっちからすれば、彼女らが死角になってネイルたちの姿が見えない状態。

「ネイルは五角光芒の中だろう? 戦う必要なんか」

「百聞は一見にしかず。自分の目で見てみれば?」

 カスミにうながされ、『どれどれ』とオレっちも早足でカスミのとなりに立つ。いうとおりだった。結界の中、二人は激しく打ちあっている。

「本当だ。あいつ、なにやってんだろう? ……おおい、ハイネ!」

 声をかけると、ハイネは手をとめてこちらへ顔を向けた。顔や手を始め、全身が黒ずんだ白。顔の筋も深く黒い。両目の下には大きなくまができてる。そんな顔がにやりと笑った。なんともぶきみこの上ない。

「やべえ。ネイルと同じだ。完全にとりつかれやがった」

 こちらに来たがっているようなそぶりにも見える。だが、ネイルが再び鎌をふりあげたのに気がついて、また戦いにもどった。

 かきん! かきん!

「なぁ、カスミ。なんでこいつら、こんなことをしているんだ?」

「さぁ? エリカはどう思う?」

「さぁ? ミアンっちはどう思う?」

「さぁ? ミーにゃんはどう思うのにゃん?」

「んもう! アタシに聞かないでほしいわん!」

(だめだ、こいつら。頭がみんなオレっちぐらいで。

 ……あっ、そうか。だから、オレっちのそばにいるのか)

 みょうに納得してしまうオレっちだった。


「ふふふっ。わたしが答えてあげるわ」

「青いかぶとのリイゼル!」

 さっき会った時は飛ばされたすぐあとだったせいか、つるっつるの頭を出しっぱなし。でも今はちゃんとかぶっている。

「変ないい方されているわね」

 つかつかつか、とオレっちらの後ろから進みでた。

(ええと……。困ったぞ。こいつはどっちなんだ?)

「どうしたのかしら? わたしをそんなに見つめて」

(とりあえず、と)

「お前、そのかぶとは、はずさないのか?」

「これはわたしの身だしなみ。人前では絶対にはずさないわ」

「絶対……ね」

(……こいつ、さっきのリイゼルじゃねぇ)

「かぶとがなにか?」

「いいや、なんでもない」

「そう」

 リイゼルの目はオレっちから結界の中へと向けられた。

「ふふふっ。ずいぶんとむだなことをやっているわね」

「むだなこと? そりゃあどういう意味だ」

「あなたのもうひとりのお友だちがやっていることよ」

「ハイネのことか」

「ふぅぅん。ハイネっていうの」

 かきん! かきん!

 オレっちがリイゼルとおしゃべりをしている間も、ハイネとネイルはすさまじい打ちあいをつづけている。

「リイゼル。なにが『むだ』なんだ?」

「死神の鎌のいいつたえによればね。

『二つの死神の鎌が出会う時、呪いは解ける』、とのことらしいわ」

 オレっちとリイゼルをのぞく全員が、『あっ!』とさけんで目を大きくした。

「どうしたんだ? お前ら」

 オレっちがたずねると、カスミが言葉を返してきた。

「ほら。この前、ハイネに見せてもらった本。そんな話が、あの本の終わりに補足としてのっていたじゃない」

「自分も今、想いだしたわ」「ウチも、にゃん」「アタシも」

(だっけ? まずいな、オレっちだけが知らないなんて。……よぉし、こうなったら)

「ああ。そういえば、書いてあったような気がするなぁ。あはははっ」

 そう、うそぶいたとたん、敵味方問わず、いっせいに疑いのまなざしがオレっちに集中した。

「ソラ。本当に覚えているの?」

 中でも一番疑っているのが、オレっちの幼なじみ。

「あはははっ。あたりまえじゃないか。あはははっ」

 ぱんぱん、とカスミのせなかをたたく。

(笑ってごまかせ。なんとかなるさ)

 オレっちの笑い声があたりにひびく。何故か、オレっちをのぞく全員が、はぁうぅ、とためいきをもらした。


「説明するわね」

「はい、先生」

 カスミとエリカとミーナとミアンとリイゼル先生のげんこつでおとなしくさせられた。

(ちょっと、おふざけ、しただけだってぇのによぉ。なにしやがるんだ、こいつら)

 不満はあるものの、このままだと全然先に進める見とおしが立たない。ここはがまんのしどころ、と自分自身を説得した。

(えらいなぁ、オレっちは)

「説明するわねっ!」

 ぐい、とオレっちの前に身を乗りだすリイゼル。どうやら、話に集中してもらいたいようだ。

「はい」

 本当はどうでもいいが、しゃべりたがっているからまじめに聞いてやることにした。

(えらいなぁ、オレっちは。なみだが出てくらぁ)


「まぁ、簡単にいえば、だけどね。刃と刃をたたきつけることで生じる共振。これが死神の鎌に宿るそれぞれの霊体をほろぼす力となるのよ」

 リイゼルの言葉に全員が、へぇ、とうなった。

「ってことは、だ。ハイネは別にネイルと戦っているわけじゃないのか」

「共振とやらを造りだしている、ってことなのね」

「死神の鎌を両手でつかめば、とりつかれる。その危険を承知でやっているのね。霊体をほろぼすことができれば、ネイルも自分も助かる。そう思ったんだわ。さすがはハイネっち。だれかさんとはちょっとちがうわねぇ」

(だれかさん? だれだろう? まぁ、いいや)

 オレっち、カスミ、エリカの三人が、なるほど、とうなずく中、不満の声も聞こえてきた。

「ミーにゃん。ウチはにゃんだか、たいくつしてきたのにゃけれども」

「本当本当。説明はいいから、もっと早く話を進めてほしいわん」

(うん。オレっちも同感)

「で、何故、むだかといえば、って話になるんだけど」

(ちぇっ。まだつづくのか)

「この共振の力を生みだす一番の要因はね。霊体本体が目覚めていること。ところが、よ。今は死に体も同然。ということは、なんの効果もえられない。つまり、やるだけむだ、ってわけなの」

「それなら、今、あいつらがやっているのは」

「死神の鎌にとりつかれた人間が二人、殺しあっている。ただ、それだけのことよ」

「なんてこった。それじゃあ、ハイネは」

「そう。なにもしない方が返ってよかったのよ。えるものがなにひとつないのに自分から死神の鎌にとりつかれるなんてね。かわいそうなぎせいしゃ、と呼べないこともないけど、わたしから見ればただのアホ」

「アホ……」「アホね」「アホだわ」「アホにゃん」「アホだわん」

(さっきまで賞賛していたくせに……、まるで手のひらを返したようにアホ呼ばわりしやがって。いやだいやだ。これだから女性型の生きものは)


「さてと。それじゃあ、始めるとしましょうかしら」

「なにをする気だ、リイゼル」

「あなた方が来る前から彼らを見ていたんだけど、決着のつく気配が全然ないってありさま。わたしもひまじゃないのよ。ここらあたりで終わりにさせてもらうわ」

「どうやって?」

「簡単よ。この結界をはずせばいいの。二人も死神の鎌にとりつかれているのよ。どんな結果をもたらしてくれるか。楽しみだわぁ」

「なんてことを。リイゼル。お前なんかの思いどおりにはさせねぇ!」

「だめだめ。なにをしようとしてもむだよ。結界をはずす言葉は知っているし、バニヤの護符もここにちゃんとある。いまさら手おくれよ」

 そういうと、手で自分のむねをおさえた。

「バニヤの護符だとぉ!」

「ふふっ。あなたは地上に落ちたあと、ほんのわずかな間、気を失っていたはずよ。あの時にふところから取りだしたってわけ。ふふっ」

(それじゃあ、あのリイゼルも。……だまされたのか)

 オレっちは思わず自分のふところに手を入れた。

(あれっ!)

 手にふれた瞬間、覚えのある強い力が全身をかけめぐった。

(まちがいない。これは本物だ。しかも、だ。五枚ともちゃんとある。とすると)

 オレっちはアホを承知で想像力を働かせてみる。

(多分、目の前にいるリイゼルがいうとおり、いったんは取られたんだろう。ところが、だ。わずかの間、心を取りもどしたリイゼルがそれを元にもどしてくれた。いや、にせものとこうかんしてくれた。だから、今、ここにあるのにちがいねぇ)

 オレっちは強い味方をえた思いがした。


「結界停止!」

「し、しまったぁ!」

 オレっちがもの思いにふけっている中、結界を解く呪の言葉が聞こえてきた。

(二人とも結界の外へ出ちまう!)

 思わず手に汗が。結界へと目を向けた。

(あれっ?)

 今日は意外なことばかりが起きる。どうしてかは判らないが、五角光芒の結界はこわれていない。

「何故なの? さっきハイネが口にした言葉を使っているのに……」

 勝った、といわんばかりにほこらしげな笑みをうかべていたリイゼルの顔。それが今や、ぼうぜんとした表情へと変わっている。がっくりと地面へひざをつくまでに至った。

「結界停止!」

 リイゼルは何度も何度も同じ言葉をくり返した。でも、結界はこわれない。オレっちは首をかしげてカスミを見る。目に、『あれでいいんだよなぁ』との思いうかべて。カスミもエリカを。エリカもミアンを。ミアンもミーナを。全員そろって、はてな、の顔。

 あきらめたのだろう。リイゼルは結界停止の連呼をやめると、地面に両手をついたまま目をつむった。

「そうか……」

 しばらくしてから聞こえてきたのは、リイゼルのくやしそうな声。

「結界を停止する呪を発動するには、言葉以外になにか必要なものがあるのね。それ以外、考えられないわ。そうなんでしょ? ……はっ!」

 オレっちの仲間を見つめるリイゼル。やっと気がついたらしい。

「ソラっ。ソラはどこにいるの?」

「ここだよ、リイゼル」

 そう。オレっちはリイゼルがぼうぜんとしている間に、気配を殺してやつの後ろにまわっていた。

 がっ!

 言葉につづいて手刀をリイゼルの首にお見まいする。

「うっ……」

 ばたっ。

 リイゼルは前のめりにつっぷした。やつは気を失った。


「やったわね」「お見事」「かっこよかったにゃん」「さすが、だわん」

 ひさしぶりに賞賛の嵐。思わず顔がにやけた。

「まぁ、これくらいは、な」

 多少、けんそん気味につぶやいた。

「ところで、と。どうしてあれで結界の停止ができなかったんだろう?」

 オレっちはあらためてたずねてみた。だが、全員が顔を横にふるだけ。

「でも」とエリカが口を開く。

「ハイネがあそこにいる以上、結界を停止できたのはまちがいないわ。ねぇ、やってみましょうよ。考えるのはそれからでもいいでしょ?」

(考えても判らねぇよ)

 そう思いつつ、

「そうだな。やってみるか」と言葉を返した。

 オレっちらは五角光芒の柱が立ちのぼる結界の前に立つ。

「念のためにいっておくが、これからやるのは結界の停止じゃない。解除だからな」

 判っている、とばかりに、目の前にいるやつらは、そろってうなずいている。

「よぉし。さけぶぞぉ!」

 オレっちのかけ声に、全員が、『おぅ!』とさけぶ。

(やっと……ここまで来たか)

「せぇのぉっ!」

 みんながみんな、それぞれの思いをこめて口にした。

『結界解除!』


 オレっちらの願いはかなった。五角光芒の柱が音もなく消えていく。ネイルたちとオレっちらをへだててていたかきねが消えたしゅんかんだった。

 かきん! かきん!

 争う二人を前に、まだまだこれからだ、との思いを強くした。


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