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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第十一話『おかしな者』‐④


「やぁやぁ。アタシこそは悪名高き『強化カマギラ』だわん!」

「こちらも負けてはいないのにゃよ。地のあくま、『ゴォガム』にゃん!」

「いざ、じんじょうに勝負といきたいわん!」

「望むところ。受けてたつにゃん!」


 オレっちらは草原にこしをおろしていた。後ろにはカマギラだったものの肉片が散乱しているが、まぁ、それは見ないことにしよう。オレっちの右側にはエリカ、左側にはカスミが座っている。両手に花、といえなくもない。ただ三人が三人、普通の人間とはいえない身なのだが。

「なにやってんだ? あいつら?」

 目の前で化け猫と妖精が戦っている。

「なんでもね。さっきの戦いを自分たちなりに演じてみたいんだって」

 エリカが目を輝かせて見いっている。

(こんなのどこがいいんだ。さっぱり判らねぇ)

 オレっちとしては、短いながらもあの戦いの間、別の世界にでも迷いこんだような、そんな気分にさせられていた。あれに勝るものなど、なにひとつありはしない、とも思えるくらいのそうぜつなるながめだったといっていい。それに引きかえ、こちらはどう見てもおままごと。まぁ、お笑い程度にはなるかもしれないが。

「けっ。……ひまなやつらだ」

「でもいい線いっているわよ。たださっきの前口上はちょっとね。あんなのやっていないわ。大体、『地のあくま』ってなによ。ねぇ、ソラっち。ひどいとは思わない?」

 いきなり、だめだしを食らうミーナとミアン。

「形から入る性格なんじゃねぇか。しばいっ気たっぷり、でやっているし」

「でもかわいいわ。ミーナちゃあん。ミアンちゃあん。どっちも勝つのよぉ!」

 もっとひどいのがいた。手をふりまわして盛んにかけ声をあげている。

「カスミ。いっておくがな。本来、勝負に、どっちも勝つ、てぇのはありえねぇぞ」

 一応、注意だけはしておいた。


「エリカ。お前、ハイネといっしょじゃなかったのか?」

「それがねぇ。ふられちゃったのよぉ」

「はっ? ふられた? それって一体」

「自分たちが赤鎌のほこらに行ったことは知っているわよね」

「正確には、『赤い刃の「死神の鎌」をふういんしてあるほこら』、だがな。もちろん、知っているさ。たどりついたのか?」

「ええ。ちゃんとね。護符を張りつけたまま鎌をほこらから出すと、『さぁ、ネイル君のところへ行くか』って歩きだしたの」

「順調みたいだな」

「ええ。ところが、ネイルっちのいる場所まであとわずか、ってところまで来てよ。


『ねぇ、エリカ君。ちょっとたのみがあるんだ。ぼくはこのまま彼のところまで行くつもりだけど、君はソラ君たちを探しにいってくれないか?』

『どうして?』

『実はね。ぼくひとりでやりたいことがあるのさ。君はソラ君たちといっしょに来てくれよ』

『自分がそばにいてはだめなの?』

『うん。その方が助かるんだ』


 とまぁ、こんな会話をしたの。これってどう考えてみても、ふられたとしか思えないわ。

 ねぇ。ソラっちはどう思う? 彼の親友としての意見をぜひ聞きたいの」

「そういわれてもなぁ。

 ただ『死神の鎌』の話を最初に持ちだしたのはハイネ自身だろう。だから、

『自分が調査対象として提案した』ってことに強いこだわりを感じているのかも。

『できうるかぎり自分の手で解決したい』、あるいは、

『起きてしまった災難は全て自分のせい』、なんて思っていてもふしぎじゃねぇ。ああ見えても、責任感は人一倍強いからな」

「すると……」

 エリカの目が輝く。

「つまり、自分(エリカ自身)がふられたからではない。そういいたいのね」

「いや、そこまでは知らん」

(知ってたまるか)


「ところで、エリカ。お前さっき、青いかぶとのやつを『呪術学者リイゼル』とか呼んでいたよな。知りあいなのか?」

「まぁ、知りあいといえば知りあいね。中央病院へよくお見えになるから」

「中央病院へ? ってことはセレンの姉ごも」

「よく知っているわ。もちろん、ネイルっちもね」

「ネイルも? 一体どういう人なんだ?」

「よくは知らないわ。なんでも、生きものと霊体。二つの身体について研究なさっておいでとか。病院へいらっしゃるのも、ちりょうに使う新薬の開発に参加してほしい、とたのまれたからだそうよ」

「お前が敬語を使っているってことは、結構えらい人なのか?」

「だからいっているじゃない。自分はよく知らないんだって。でも、その道では結構、名の知れた人だってことよ。だからセレンの姉き、いえ、院長さんも協力してもらっているらしいの」

「だが、本当にあいつが、なのか?」

「だったら、かぶとをとってみればいいわ。リイゼルさんなら頭を全部そっているから」

「そっている? つまり、ぼうず、ってわけか?」

「当然。全部っていったらそれしかないでしょ?」

「そうか。かみの毛が一本もないのか。でもなんで青いかぶとなんか?」

「これは院長さんから聞いた話よ。手元にたまたま『ぼうし』がない時があってね。それで思いついて造ったらしいの。かぶってみたら気にいっちゃって、それからはずっとあの格好らしいわ」

「変なやつだな。リイゼルって」

「ふふっ。学者とはそういう者だ、って院長さんも話していたわね。

 やさしい上にめんどうみもいいって評判の人なの」

「じゃあ、なんであんなことを」

「そこまでは」

 エリカは頭を横にふる。

「判らないわ。多分、本人に聞かないかぎり、だれにも判らないんじゃないかしら」

「そうか……」

 今回の調査対象である『死神の鎌』の中心人物。なんかそんな気がするが、すんなりとは解決できそうもない。つまり、怪奇特捜組の調査はまだまだつづくというわけだ。

(ふぅ。そろそろ終わりたいな)

 そんなことを切実に思う今日このごろ。


「ふっふっふっ。なかなかやるわん。でもこれでとどめよ、ミアン・ゴォガム。

 それっ。『妖力爆風波(大)』!」

「ふにゃあああ!」


「エリカ、見ろ。ゴォガムがやられたぞ。……にしても、なかなか面白い飛び方だな」

 空の彼方へ、くるくるとまわりながら飛ばされていく。しかも、身体をめいっぱい拡げた姿で横回転。

「こらっ! なにをやっているの。仮にも『自分』を演じているんでしょ? だったらもっと足をふんばってたえなさい! ほら、こうやってこうやれば」

 エリカがつばきを飛ばしてどなっている。あきらかにこうふん状態。演技指導だけじゃなくて実技指導まで始めた。実際に自分が四つんばいになって説明している。

「あのな、そんなに熱くなんなくったって。大体、かんじんのミアンがどこにも……。

 あっ。向こうの方から同じ格好で、くるくるともどって……。

 おおっ! 飛ばされる前の位置に寸分たがわず、すくっ、と立ちやがった」

 思わず引きこまれるオレっち。両脇にいる女の子二人ともども立ちあがった。

「すごいぞ、ミアン」

「やったわね。さすが、『自分』をまねているだけのことはあるわ」

「えらいわ。ミアンちゃん」

 ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。

『それほどでもにゃん』と照れわらいをしているミアン。『やっぱり、アタシのミアンだけのことはあるわん』と感激したかのようにだきつくミーナ。手放しで大喜びしているオレっちら。

 暖かな陽射しの中、なんとも、のほほん、とした平和な姿がそこにはあった。

(まっ。たまには悪くねぇか。こういうのも)


 きゅるきゅるきゅる。

 耳ざわりな音が聞こえてくる。最近、よく見かける生き物が発する音だ。

(これって鳴き声なのだろうか?)

 ぎりぎりぎり。ぎりぎりぎり。

「また来やがったぜ」

 飛んでいるところをみると、リイゼルとやらがいっていた、『飛行型強化カマギラ』か。

「あいつ、オレっちらをミアンのじゅうたんから落としたやつかもしれねぇ」

『強化』の名はだてじゃなかった。異常とも呼べる速さでせまってくる。オレっちらが立ちあがるのとほぼ同時に地面へ着地。前足の鎌をふりおろした。

 がしゃあん! ざくっ!

 間一髪。オレっちらは難をのがれた。身体の大きさからか、ゆれとともに鎌の刃が大地に深くつきささった。

(ふふっ。あれじゃあ、鎌を取りだせるかどうか。……な、なにぃっ!)

 ぐわっ!

 目の前でいとも簡単に地面から引きぬく。見れば、大地に『きれつ』が。

(なんてぇ力だ)

 ざくっ!

 鎌が再びふりおろされたものの、つきささったのはやっぱり大地。身体の大きさのせいか、空ではいくら速くても地上ではゆっくり。これなら楽によけられる。

「カマギラは自分に任せて」

 エリカがうでまくりを始めたものの、『待てよ』とオレっちがとめた。

「飛行型ならオレっちが専門だ。任せてもらおう。カスミもエリカといっしょにいてくれ」

 オレっちの言葉に不満顔のカスミ。

「どうして? アタシも戦いたいわ」

「カスミ。お前は最後の切り札だ。ここはひとまずオレっちがやる。いいな」

「ソラ。それって筆頭補佐としての言葉?」

「もちろんだ」

「そう……。判ったわ。いうとおりにする」

 筆頭補佐と第二補佐の実力はほぼ同じといっていい。それでも決定権は筆頭補佐にある。オレっちがこうだと決めれば、よっぽどのまちがいでもないかぎり、それに従うのが第二補佐であるカスミの務め。

「じゃあな」とオレっちはカスミたちからはなれた。

(やつがカスミたちの方に行っちゃあまずい。とりあえず、こっちに引きつけるか)

「おぉにさん、こちら。手に鳴る方へ」

 相手は人間じゃないから言葉の意味なんて知るはずもない。だが、声を立てたほうが気を引きやすいはず。オレっちは、カマギラがまとをはずすのに期待して、あちらこちらへと動きまわった。

 ぼん! ぼん!

「うぎゃあああ!」

 カマギラはいきなり霊火弾を放った。着弾した勢いで岩がくずれ、断片がはじける。オレっちも否応なくふっとばされた。

(……よかった。なにはともあれ、ぎせい者がオレっちでよかった)

 火の玉はカマギラの両目から放たれたもの。オレっちの心のどこかで、決着を長引かせてはいけない、との警告を発している。

(今のが強化カマギラの霊火弾か。オレっちのよりは小さいが、まともに食らったら大変だ。これ以上、めんどうなことになる前にやっちまおう)

 爆風で上昇をつづける中、オレっちは呪の言葉をつむぐ。

「竜身変化!」

 あおい霊波が身体を包み、そらに張りついた状態になる。オレっちのせなかから放たれた白いかげが空にとうえい、翼竜の形になる。そのかげへ今度はオレっちが吸いこまれるように消えていく。

「ぐっ、ぐっ、ぐおぉぉっ!」

 かげは実体波の身体へと変化する。オレっちは霊翼竜アーガの前身、大翼竜『ドラス』となった。

 ばさっ! ばさっ!

「行けぇ! ガン・ドラス!」

(行くよ、カスミ)

「勝つのよ、ガン・ドラス!」

(勝つよ、エリカ)

「無事にもどってね、ガン・ドラス!」

(ミーナ。お前が一番やさしいな)

「おなかがすいたのにゃ、ガン・ドラスにゃん。にゃにか食べものを取ってきてくれると嬉しいのにゃけれども」

(ミアン。悪いが食料を探しにいくわけじゃねぇ!)

 みんなの応援ミアンはちがうがを受けて、がぜん、やる気になる。文字どおり、上から目線で強化カマギラをやっつけようとした。

 きゅるきゅる。ぎりぎりぎり。

「ぐぉぉっ!(行くぜぇ、カマギラぁ!)」

 強化カマギラ。身体はにぶい銀色でも翅は鎌の刃と同じ緑白色。

(ほぉ、向かってきやがった。霊翼竜を相手に空中戦でいどむ気か!)

 空を制するものの意地にかけて負けるわけにはいかない。

(よぉし。正面からぶつかってやれ)

 霊翼竜は本来、霊体。だけど、実体波が使える。ミアンもそうだが、オレっちらの実体波は細胞レベル以下に至るまで具現化が可能。要するに肉体と同等の身体を持つことができる。カマギラは元々実体を持つ生きものだが、その身体は細長くきゃしゃ。だから霊波なんぞまとわなくても、肉体化したこの身体をぶつけるだけでこなごなになるはず。

「行くぞぉ、カマギラぁ!」

 体当りを強行するオレっち。カマギラまであとわずか、というところで、オレっちはあるものをまのあたりにした。やつのせなかに人がいたのだ。

(『青いかぶと』か。リイゼルだな)

 この瞬間、『すき』を造ってしまった。やつは両手の鎌をふりあげた。

「やばっ!」

 カマギラの鎌は霊波刀と同じ。肉体はおろか、霊体でも切りさく。オレっちはぶつかる寸前でかわした。……そう思っていた。ところが。

 ざくっり。

「な、なんだ!」

 オレっちの横っ腹の一部が切られた。

「一体どうして……。あ、あれは!」

 オレっちの身体を傷つけたもの。それはやつの翅。ふだんは閉じている長く伸びた翅が、ドラスの白い血で染められていた。

「くそっ! 翅も武器になるのか」

 翅が鎌の色と同じなのを気づいていながらなんという不覚。とはいっても、じたんだふんでいるひまはない。カマギラが再び急接近してくる。

 きゅるきゅるぅ! ぼん! ぼん!

 やつはオレっちにつけた傷めがけて両目から霊火弾を。だが、これは予期していたもの。オレっちは、くるっ、と横回転。すばやく身をかわして、やつの正面に向きなおる。

「ぐぉぉっ!」

 いかりのおたけびをあげると、オレっちも口から霊火弾を放つ。向こうも放ってきたが、やつの霊火弾は放った時の大きさのまま。それに対し、こちらはふくらんでいく。

 ずぼわっ!

 オレっちの霊火弾はやつのそれを飲みこみ、飛んでいく。その先にあるのはカマギラ本体。

 だだぁん!

 霊火弾はカマギラとぶつかる。

(終わったな)

 霊火の炎がゆらめく中、そう思っていた。ところが。

 しゅわぁん!

 一瞬にして炎は消えた。オレっちは見た。カマギラのせなかで笑う人の姿を。青いかぶとが飛ばされたその顔を。

(丸ぼうずだ。まちがいない、リイゼルだ。あいつは)

 なんかこちらまで笑いたくなる。そんな感情がこみあげてきた時。

(ううっ。ど、どうして……)

 とつぜん、身体全体にしびれを感じた。いくらも経たないうちに身体の自由が利かなくなってしまった。こうちょく状態、とでも呼ぶべきか。つばさも動かせず、オレっちの身体はぐらりと横にかたむく。

 リイゼルはオレっちを見つめながら笑っている。声は聞こえないものの、動かしている口から、なにをしゃべっているのか? が、はっきりと判った。

「死はとつぜんやってくるわ。だれにでもね」と。

 リイゼルの身体が二重にも三重にも見える。意識がもうろうとしてきた。つばさを動かせなくなったオレっちは、くるくると回転しながら、真っさかさまに落ちていく。

(なにが……いけなかったのだろう。油断か、それとも……おのれの力に対する過信……か。

 ……教えてくれ、カスミ。……教えてくれ、……ネイル)

 うすれゆく意識の中、答えを出すこともできないままオレっちは森の中へとつっこんでいく。


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