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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第十一話『おかしな者』‐②

「だからって……。どうして、死神の鎌、なんてぇ、ぶっそうなものを目覚めさせる必要があるんだよ」

「ちがうわ」

 やつは立てた人さし指を左右にふり、ちっちっちっ、とかいっている。

「あの霊体はね。およそ千年もの間、かの名高いバニヤ老師がお造りになられた護符の力でふういんされていたのよ。目覚める、などといった意志が今もあるのかどうか。仮にあったとしたとしても消えかかっているはず。それをわたしごときが、どうにかできるとでも思っているの?」

「それじゃあ」

「そう。鎌の意志など存在しないも同然。ただ力はまだ残っている。鎌を手にした人間を殺人鬼に変える力がね。わたしがほしがっていた力よ。だから決めたの。鎌を操り人形のように使おうって」

「どうしてそんな力がほしかったんだ? まさか、『これも研究のため』とかいうつもりじゃねぇだろうな」

「もちろん、それもあるわ。でもね。動機としてはもっと深い理由があるの」

「なんだよ。それは」

「うらみよ」

「うらみ? そりゃ一体」

「ネイルにふくしゅうするため。彼はね。わたしから大事なものをうばったの」

「ふくしゅう? うばった? 一体なにを?」

 オレっちはあらためて、やつの身体全身を目でなめまわす。作務衣の上に、呪医と同じような白衣をはおっている。身長はネイルより若干小さく、身体も細め。弱々しい感じがしないでもない。だが、するどい目つきがこの印象をうらぎっている。

「顔は……まぁ、美人といっていいかなぁ。無愛想な感じもするが、セレンの姉ごほど、ひどくはないしぃ」

「ちょっと待て」「えっ!」

 だれかにかたをたたかれ、思わずふり向くオレっち。

 ずぶっ!

「ううっ!」

 思わずよろめく。下に目を向ければ、どてっぱらをえぐるがごとく、かためられたこぶしがつきささっていた。

「な、……なんで」

 顔をあげれば、見知っている顔が正面に。

「……なんでセレンの姉ごがここに」

「かげ口はよろしくない。以後、気をつけるように」

『たおれるまい』とかろうじてふんばっているオレっちの耳元に、院長はそっと口をよせてささやきかけた。

「では、また」

 ぼぉぉっ。

 院長の姿は音もなく消えた。

「な、なんなの。今のは!」

『おかしな者』からさっきまでの高飛車な態度が消え、うろたえてでもいるかのような姿となった。

「なんでもねぇ。知りあいの神霊だよ」

 適当な答えをするオレっち。

「そう……」

 やつは、ほっとしたようなうかべた。

(死神の鎌、なんておそろしげなものを使っているくせに……。こいつ。案外、こわがりなのかもな。今ならどんな質問でも答えてくれるにちがいねぇや)

 弱気を見せたものを攻めたてるのは戦いの常道。オレっちは疑問をぶつけてみた。

「よぉ、『おかしな者』さん。こんなことをいうのは失礼かもしれねぇがよ。どう見たってお前は、ネイルの好みとはちがう気がするんだ。あいつがお前とつきあっていたなんて、とてもじゃないが信じられねぇ」

「一体なにをいっているの。ええと……、聞くのを忘れていたわ。あなたの名前は?」

「そういやあ、名乗っていなかったな。オレっちはソラ。よろしくな」

 オレっちは手を差しだす。だが、やつはその手を見むきもせずに、

「そう。ソラという名なのね」とつぶやいただけ。あきらめて手を引っこめた。

(ちえっ。出した手がむだになっちまった。格好悪いったら、ありゃしねぇ)

 やつはオレっちのせんさいな心情を気にもとめずに話をつづけた。

「ソラ。いつ、わたしがネイルとつきあっていたといったの?」

「ははっ。そうだよな。そんなことあるわけねぇよな」

(やったぁ。聞いたか、ネイル。オレっちの人を見る目にまちがいはねぇ)

 そうじまんしたいところだが……、その親友は今、いない。さみしい思いにかられながらも、『おかしな者』が口にした言葉の中で引っかかっている部分をたずねてみる。

「それじゃあよ。『大事なものをうばった』っていうのは?」

「量産型カマギラよ」

 やつの顔に、くやしさをにじませたような表情がうかびあがる。

「あれはね。わたしがたんせいこめて造りかえ、操ることに成功した芸術作品。本来、カマギラは希生物、つまり、ほんのわずかしか生まれない生き物なの。それを大量に、しかも安定した形で生むことのできる身体に変えられたというのに……。わたしの努力がやっと実を結んだというのに……。

 それをこともあろうにネイルは、『雅羽がう』、などというやばんな呪で、一瞬にして消してしまったのよ! 絶対に許すことはできないわ」

「えっ!」

 オレっちは思わず絶句する。

(不自然なほどたくさんいるとは思ったが……、あれはこいつが増やしたのか)

「……だがあの時、周りにはだれもいなかったぞ。それなのにどうやってお前は知ったんだ?」

「……そう。あなたもあそこにいたの……。

 簡単よ。のらのアーガを操作して、遠くからカマギラを観察していた。ただそれだけのこと」

 じっとオレっちを見つめるやつのまなざし。心なしかきついものへと変わったような気がする。だが、長くはつづかない。ふっ、とため息をついた時には元にもどっていた。

「まぁいいわ。直接、殺りくに手を染めたわけじゃなさそうだし、許してあげる」

 院長の姿を見たあとのうろたえた様子はすでにない。またまたあつかいにくくなった、と思いつつ、話を急いだ。

「そりゃあどうも。ついでに、といっちゃあなんだが、ネイルにとりついている『死神の鎌』。あいつの操作もやめてくれねぇか? あれはお前がやっているんだろう?」

「だめよ。彼は、彼が殺したカマギラたちの霊をとむらう人身御供になってもらうの」

「どうやってさ?」

「社会的にまっさつするわ。とはいっても、『死神の鎌』を使って彼を殺人者に仕立てあげるだけ。あとはだまっていても、おおやけの機関が彼を殺してくれる。そうじゃない?」

 ふふふっ、と、やつは人をこおりつかせるような笑いをうかべる。

(こいつめぇ)

 オレっちはすかさず反論する。

「だがな。『おかしな者』さんよ。ネイルにとりついた『死神の鎌』は、あいつが用意した結界の中。あいつといっしょにいるんだ。外に出すことなんてできやしねぇよ」

 オレっちの言葉に少しはくやしそうな顔をするかと思えば、相変わらずの冷たい笑い顔。

「停止すればいいわ。言葉はすでに知っているもの」

「どうして?」

「あなた方のお仲間さん、みたいな二人連れがネイルのところへやってきたのよ。姿をかくしていたわたしの目の前で声高くしゃべってくれたわ。『結界停止!』ってね」

(ハイネとエリカにちがいねぇ。あいつら、もう来ているのか)

「再び閉じたみたいよ。ふふっ。でも言葉さえ判ればもう関係ないわ。あとでゆっくりと停止して、ネイルを、いえ、殺人鬼を野に放してあげる。ふふふっ。はははっ」

 笑い声が大きくなる。こっちが逆にくやしい思いにかられた。

 だが……、まだ切り札は手元にある。

「残念だがお前さんの思いどおりにはならねぇぜ。今、オレっちにはな。こういうものがあるんだ」

 見つけたバニヤの護符をひらひらさせる。やつは表情を一変、まるでかたきでも見るかのごとく、きっ、とオレっちの手元をにらみつけた。

「だからさ。あきらめるんだな」

 オレっちはそういって護符をふところにしまった。

「なぁ、『おかしな者』さんよぉ。もうこれぐらいでいいだろう。話は聞いてやったんだ。約束を守ってほしいな。早く仲間を返してくれ」

「ええ。いいわよ」

 やつは再び冷たい笑みをうかべて、オレっちの後方へと目をむける。

「姿を現わしなさい。カマギラ」

 どどどどっ!

 地ひびきにおどろいて思わず後ろをふり向く。とつぜん地面がくずれた、と思ったら、そこから巨大な生物が姿を現わした。

「カマギラ……。いや、それにしては大きさも体色もちがうか」

(オレっちなんて一口で食べられてしまいそうだ)

 消炭色の皮ふも、ぶきみといえばぶきみ。無意識のうちに身体がひいてしまう。

「ふふふっ。これも量産型カマギラと同じように、わたしが改造をほどこしたものよ。

 そうね。いうなれば、『歩行型強化カマギラ』ってとこかしら。空を飛ぶ能力は切りすててしまったけど、代りに、地上を踏破する力は、さっきあなた方が空から落ちる前に出あった、『飛行型』の数倍以上。目からは霊火弾も放てるし、表皮も鎌の刃も強化済み。霊山『亜矢華』の霊圧にだってたえうる力があるってわけ。カマギラの姿であってカマギラにあらず。段ちがいの力を秘めているわ」

「こんなものを造ってやがったのか。……おっ、あれは!」

 カマギラの前に、とうめいな大きい玉が、ふわふわっ、とうかんでいる。その中にカスミ、ミーナ、ミアンが閉じこめられていた。

「カスミぃ! 大丈夫かぁ!」

 玉の中にいる全員がオレっちに気がついたみたいだ。内側からたたいている。口を大きく開けているところを見ると、なにかさけんでいるのにちがいない。

(ただ……残念ながら声が届かないから、なにをいっているのかさっぱり判らねぇ)

「『おかしな者』。早くカスミたちを」とさいそくしたものの、

「その前に」とやつは右手を差しだした。

「なんだよ。あくしゅしてくれ、とでもいいたいのか?」

「ふざけないで。ソラ。さっきの護符をよこしなさい」

「なんだとぉ!」

「あれってバニヤの護符でしょ? やっぱり、蔵の中にあったのね」

「それを知っているってことは……、てめぇが燃やしたのか!」

「いまさらどうでもいいでしょ。そんなこと。さぁ、早くよこしなさい。いうことを聞かないつもりなら、玉ごとカマギラに切らせるわよ。そうなれば、中にいるあなたの仲間もおしまい。それでもいいの?」

「くっ!」

 オレっちは上歯と下歯を強くかむ。

「カスミたちを人質にするつもりか。ひきょうだぞ!」

 人さし指を前につきだし、いかりをあらわにするオレっち。それに対し、平然と言葉をつむぐ『おかしな者』。

「わたしの目的はね。あくまでもおおやけの場でのネイルの処刑。だけど、じゃまをするというなら、やみからやみへとほうむるのみ。

 さぁ、どちらを選ぶの? 仲間を見殺しにしてネイルを助けるか。それとも仲間を助けてネイルをあきらめるか。全てはあなた次第よ」

「てめぇ……」

 だが、あとがつづかない。

(くそっ。一体どうすれば)

 迷っているオレっちの心を見すかしているかのごとく、やつは手を前に差しだしながら近づいてくる。

「仲間を見殺しにするつもりなの? ねざめが悪くなるわよ。さぁ、早く護符をわたしなさい」

(……仕方がねぇ)

「判ったよ」

 オレっちはふところから五枚の護符を取りだす。

「だがな。初対面のお前を、おいそれとは信用できねぇ。そこでだ。この護符と仲間。同時こうかんといこうじゃねぇか」

「判ったわ」

 やつはカスミたちが入った玉を移動。オレっちとの間にうかばせる。

「わたしがこの玉を割るのと、あなたがわたしの手に護符を乗せるのとを同時に行なう。それでいいわね」

「ああ、かまわない」

 オレっちとやつはたがいに近づく。やつは玉の横まで来ると、その足をとめた。

「ソラ。では護符を」

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