第十一話『おかしな者』‐①
第十一話『おかしな者』
ひらひらひら。ひらひらひら。
オレっちらは今、じゅうたんになったミアンのせなかに乗っている。気持ちのよい風にほおをなぶられながら、ふと、さっきの会話を想いだしていた。
「なぁ、ミアン」
「どうしたのにゃ? ソラにゃん」
カスミのうでにだっこされているミアンに、念のため、聞いてみた。
「ほら、ほこらに行った時さ。お前のじゅうたんに乗せてもらってネイルのところまでおりたことがあったろう。 今回はできないのか?」
そうすれば一気にたどりつける。おそまきながらそのことに気がついた。
「あの時ぐらいの霊圧にゃら大丈夫だと思うのにゃけれども。試してみるのにゃん?」
「まぁ、できるなら」
「落ちてもうらみっこなしにゃよ。いいにゃ?」
「落ちたら責任は全てソラさんってことになるわん。本当にそれでいいの?」
「落ちたらあたしと、そく、結婚よ。いいわね」
「お前ら……。飛ぶのはミアンなのに、何故、オレっちが」
オレっちは三体につめよられながらも、ふんばってみる。
「ソラにゃん。いいだしっぺが責任を負うのは宇宙の常識にゃん」
「そうだわん」
「だから、とにかく結婚なのよ」
結婚はともかく、できるだけ早くネイルの元へたどりつきたい。オレっちは顔の前に両手をあわせた。
「ミアン。たのむ」
みんなも同じ気持ちなのだろう。この一言がオレっちらを空へと飛ばせた。
「ミアン。前とちがって速くなっているが大丈夫か?」
「それがにゃ。ふしぎにゃことに霊山からの霊圧をまるで感じないのにゃん」
顔の部分だけをじゅうたんの上に出しているミアンが首をかしげている。
ミーナも翅をばたばたさせながらうなずいている。
「確かにおかしいわん。今までなら、多少なりともおさえつけられるような感覚があったのに」
「へぇ。だが、この分でいくと、あとわずかでつくんじゃないか?」
「そのとおりにゃ。やっとネイルにゃんを自由にしてあげられるのにゃん」
ミアンは、にこにこ顔。それにつられてか、ミーナやカスミの顔にも笑みがうかんでいる。自分では見えないが、オレっちもそうだと思う。
「ソラにゃん!」
ミアンが声を張りあげる。
「五角光芒の光にゃ!」
オレっちも進行方向へと目をこらしてみる。いくつもの光の柱が立ちのぼるさまを、まのあたりにした。
「ついた……。ついたぞぉ!」
声を合図に、うわぁい、と歓声があがる。と、その時。
ぎりぎりぎり。ぎりぎりぎり。
聞いたことのある羽音をひびかせながらなにかが飛んできた。
「あれは……カマギラ!」
ぎゅうぅん!
気がつくのがおそすぎた。やつは今までに見たことがないほどのすばやさでオレっちらに近づくと、最大の武器、前足の鎌をミアンのじゅうたんへとふりおろす。
「こんなことでやられるウチではないのにゃよぉ!」
ひらり。
ぎりぎりのところでミアンはかわす。だが、オレっちとカスミはじゅうたんに固定されているわけじゃない。ミーナのように翅があるわけでもない。
「うわぁっ!」「きゃああ!」
じゅうたんからすべるように落ちていく。
どさっ。どさっ。
地面へとたたきつけられた。頭がくらくらするも、身体自体には思ったほどの痛みはない。うつぶせになった身体の、頭部分だけを、ひょこ、とあげてみる。目の前に同じ格好をした幼なじみがいた。
(こいつもおりたんじゃなくて落ちたのか。やっぱり、オレっちらは同類だな。安心安心)
オレっちだけだったら、おそらく物笑いの種にされていたろう。ほっとした。
「カスミぃ。大丈夫かぁ!」
「な、なんとか……。ごめんなさい。ドラスになることができなくて」
「いや、それはオレっちも同じだ。あんな、いきなり、じゃなぁ」
オレっちとカスミは立ちあがる。草原の広場にいた。地面をおおう草が落ちた時のしょうげきをやわらげてくれたようだ。
「あれっ。護符をつめこんだふくろがないぞ」
「ソラ。まさか、バニヤの護符もあの中に?」
「いいや」
オレっちはふところから取りだすと、おうぎを開くような感じで一枚一枚を見せた。
「すぐに使うからな。持っていたんだ」
「確か五枚のはずよね。だけど、十枚もあるわ」
「わんさかとある護符の中で、バニヤに次いで力のある護符を五枚、いっしょにしまっておいたんだ。いざとなれば、こういうのも役に立つんじゃないかと思ってさ」
「そうね。だけど、残りはどうなったのかしら」
「この付近に落ちているはず……とは思うけどな。ネイルを助けたあとで時間によゆうがあれば探してみるか」
「うん。それがいいかもね」
二人で話しあっていると、なにやら聞きなれた声が耳に届く。
「カスミにゃあん!」「カスミさぁぁん!」
ぴょん。ぴょん。ばたばたばた。ばたばたばた。
「ミアンちゃん! ミーナちゃん!」
両うでを拡げたカスミは、飛びついた二体をだきしめた。
「大丈夫なのにゃん?」「けがはなぁい?」
「心配しなくてもいいわ。ミアンちゃん、ミーナちゃん」
カスミの言葉にミアンたちは、ほっとした様子。つづけてオレっちにも声をかけた。
「ソラにゃん。責任を感じなくてもいいのにゃよ」
「でも、結婚はカスミさんとよく相談した方がいいわん」
「……ありがとうな、ミアン。ミーナも」
カスミとはあきらかに別な意味で心配してくれた。
遠くへと目を向けた。はなれてはいるものの、五角光芒の光が見える。
「あっちだ。みんな、行こう」
「いよいよ、にゃん」「なんか、どきどきするわん」
「今ごろ、どうなっているのかしら」
オレっちらは歩きだす。ところが。
「ふふふっ。ここから先へは行かせないわ」
女の人の声が聞こえる。周りに視線を走らせると、どこからか黄色いけむりのようなものがただよってきた。
「うっ!」
ばたっ!
カスミがたおれた。
「カスミ……。おい、どうしたんだ。しっかり」
ひざをついてゆり動かすも、目を開ける様子はない。
「ふにゃああ!」「うわぁん!」
ミーナとミアンもたおれた。
「お前たちまで。一体だれが」
ごぉぉっ! ごぉぉっ!
とつぜん、強い風がふきあれる。顔へ、身体へとぶつかってくる。思わず目をつむった。足を前に出そうとするも風に圧されて一歩も進めず。むしろあとずさりしてしまう始末。
「どうしたってぇんだ? いきなり」
しばらくじっとしていた。身体にあたる風の力は次第に弱まり、……そして感じなくなった。
オレっちは目を開けた。
「ふぅ。『とっぷう』みたいだったが、やんだようだ」
ほかのみんなは、と周りを見まわす。だが。
「……だれもいない。一体、どこに?」
どうしていいか判らず立ちつくすオレっちに、またあの声が。
「ようこそ。悪人さん」
奥の森の中から人がゆっくりと歩いてきた。紙の青いかぶとを頭にかぶっている。
(じいさんのいっていた『おかしな者』にちがいねぇ)
てっきり、男だとばかり思っていたが、目の前にいるのはどう見ても女の子。かぶとの下にかみの毛が見えないのは、短めに切っているからか。着ている作務衣が砂色ということは、ネイルのような呪医ではないが、呪術関連のお務めとみてまちがいない。
「あんたか。さっきから声をかけているのは」
「そうよ」
「カスミたちはどうした? 一体オレっちらになんの用が」
「そう熱くならずとも、すぐに返してあげるわ。あなたがわたしの願いをかなえてくれたら、だけどね」
「願いを? えらそうにいいやがって。お前、一体何者だ」
「わたしは『おかしな者』よ」
そういってオレっちの目の前に立つ。
「本当にいい顔立ちをしているわ」
やつは自分の右手のひらを使ってオレっちのほおやあごをなでまわしている。
(なにやってんだ、こいつ。くすぐったい、ったら、ありゃしねぇ)
気がすんだのか、やつの手はオレっちの顔からはなれた。ふしぎなことに、さわられている間中、しびれたような感覚に見まわれ、手足が動かせなかった。
「どう? わたしと組む気はない?」
思いがけない言葉を口にすると、再びやつは右うでをオレっちの顔へとのばしてくる。
「よさねぇか。お前の仲間になる気なんぞ、これっぽっちもねぇ」
もちろん、今度はすかさず払いのけた。
「そう」
特に気分を害した様子はない。むしろ、うっすらと笑みを浮かべてオレっちを見つめている。
「あと、『おかしな者』、なんてふざけるのもたいがいにしやがれ。オレっちと話をしたいなら、ちゃんと自分の名前をいいな」
「あら。話をしたいのは、むしろあなたの方じゃなくて? 条件をいえる立場ではないと思うのだけれど」
「うっ!」
オレっちは思わず口ごもる。
(人質をとられているみたいなもんだな。ここはひとつ、下手に出るとするか)
「まぁ、お前のことはどうでもいいや。それより、早くオレっちの仲間を返してくれねぇかな」
「返してあげてもいいわ。話を最後まで聞いてくれたらね」
やつはのんびりとした口調で話している。だんだんいらいらしてきた。
「なぁ、『おかしな者』さんよ。オレっちらは急いでいるんだよ。どんな話か知らねぇが、聞いてもらいたいだけなら別なやつでもいいだろう? こちとら、そんなことにつきあっていられるほどひまじゃねぇんだ」
「知っているわ。あなた方が急いでいるのはね。ふふっ」
やつは意味ありげな笑いをうかべる。
「死神の鎌にとりつかれたネイルを助けるため。そうよね」
「お前、どうしてそのことを」
「ふふっ。だって、死神の鎌を動かしているのはわたしだもの」
「な、なにぃ!」
オレっちは思わず大きな声を張りあげた。
「おどろいたみたいね。この服を見ても判るとおり、わたしは呪術の研究を務めとしている身。もちろん、霊体操作も対象のひとつよ」




