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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第七話『黒魔女・霊魔カァネス』

 第七話『黒魔女・霊魔カァネス』


 『薬源』の山にてバニヤの子孫から護符をもらう。飛びたつ前は、護符はおろか、子孫が果たして見つかるのかどうか、それすら確信を持てないありさまだった。

 ちなみにオレっちとしては、ひとりでも行くはずだったのだが……、何故かカスミが勝手についてきた。さらにいえば、おまけもいっしょに。おなじみの霊体どもだ。ミーナはカスミのかたの上に乗っているし、ミアンはカスミにだっこされている。

 来る者はこばまず。以上の二人と二匹で、薬源へ向かうことにした。


 山といえば、てくてくとただひたすら歩く。そんな印象がつきまとう。だが、今回はそんなにのんびりとしてもいられない。ネイルのこともそうだが、オレっちとカスミも一応は勤め人。アーガの使い手であるラミアの姉ごが選んだ筆頭及び第二補佐。姉ごの許しをもらっちゃあいるが、いつまでもあまえてはいられない。すばやくことをすませられるのあれば、それにこしたことはない。

 ぎゅぅん!

 カスミとミーナ、それにミアンをせなかに乗せて、薬源の上空から探し始めた。低空飛行をしたかったが、『きり』のせいで視界や霊覚が利かなくなるのはさけたい。自然と、ある程度の高度を保ちながら飛行をつづけている。

(でもこれが見えねぇんだよなぁ、本当)

 今日の朝早くから探し始めた。だが、実際にやっているのは『きり』がかかった樹海をたんねんに見てまわるという、地味をきわめる作業。時間が経つにつれて、だんだんとあきてくるやら、ねむけにつきまとわれるやらで、飛ぶことさえつらくなってきた。

(……にしても、せなかがずいぶんと静かだなぁ。いつもなら、なんやかんやで大さわぎをしているはずなのに。……どれ、ちょっと様子でも見てみるか)

 霊覚を使って脳裏に映しだしてみる。ミーナとミアンなんぞ、とっくにねむりこんでいた。カスミもうつらうつらし始めている。

(やれやれ。平和だなぁ。あぁぁあっ)

 とがった口を大きく開けてあくびをした。このままだと、ねむりこけて、ついらくしないともかぎらない。

(ちょっと休むとするかぁ)

 山のふもとにでもおりようと降下の姿勢に入った。おりていくさなか、ふと妙なものを見た気がして、木々が群がる山の表面に顔を向けてみる。すると、思いがけないものが目に飛びこんできた。

(あれは……なんだ?)

 眼下に拡がる樹海。その一角にぽっかりと切りとられたような感じのする場所があった。地面がむきだし、かと思えば、なにか青々としたもので埋められている。

(ひょっとして畑か? もし、そうなら……、人がいるはず!)

 おりてみようとした。ところがその時、オレっちの耳に、女性らしきものの笑い声が聞こえてきた。

「ふっふっふっふっふっ」

 ぼぉぉっ。

 目の前の空に、幻覚のような姿がうかびあがる。

(ひょっとして、ハイネのいっていた……)

 黒衣の魔女。ハイネは片腕を引きちぎった、とかいっていた。見れば、本来なら左うでがあるはず、と思われる布地の部分が、ひらひらと風にあおられている。

(こいつだ。まちがいねぇ)

 白いかみに茶かっ色のはだ。するどい眼光を帯びた、魔女らしき者がゆっくりと話しかけてきた。

「わらわの名はカァネス。天外魔境よりやってきた霊魔」

 霊覚交信を使っている。オレっちも鳴き声を出すことなく交信を始めた。

「霊魔? 霊魔がオレっちらになんのようだ」

「お前たちこの村の人間は、わらわの敵。ひとり残らず消えてもらう」

「敵だと? 一体オレっちらがなにをしたっていうんだ」

「お前たちのひとりによって、わらわは『よりしろ』としていた『ぎたい』のうでをもがれ、霊魔力を引きだすことのできる『つえ』をこわされた」

(やっぱり、こいつか。ハイネを苦しめているのは)

「そりゃあ逆うらみってやつじゃねぇのか? そもそもことの起こりはお前が、霊山『亜矢華』にちょっかいをかけたせいだと思うがな」

「ほぉ。よく知っている。……そうか。お前はあの者の仲間か」

「だとしたらどうする?」

「聞くまでもない。わらわのじゃまをするやからなど、生かしておいてなるものか」

 魔女は残った右うでを天上へとのばす。

「お前たちはわらわの力を使えさせなくさせた。おかげで天外魔境をとおって霊魔界にもどることすらできなくなってしまった。そしてさらに今、新たにえた力までをも失わそうとしている。絶対に許さない」

「新たな力だと。なんのことだ?」

「これよ」

 ぴきん!

 魔女は指を鳴らした。

 ひゅるひゅるひゅる。ひゅるひゅるひゅる。

 風切る音がした。そちらをふり向いてみる。霊山『亜矢華』からなにかが飛んでくるのをまのあたりにした。

(まさか……。いや、まちがいない。あれは死神の鎌だ!)

 くるくるとまわりながら、青い刃の鎌がこちらへ近づいてくる。思わず警戒の姿勢をとった。

(死神の鎌はこいつに操られていたのか。やべぇ。オレっちのせなかにはカスミたちがいる。ここはひとまずにげなくっちゃ)

 ぐわっ!

 オレっちは口を開いて霊火弾を一発放つ。

 ぼがっ!

(真正面からの攻撃だと、真っ二つに斬られちまうのが関の山だな)

 この前の二の舞いを演じるのはもうこりごり。できるだけ側面からぶつけられるように操ってみた。

(少しでも動きがとまれば、にげられる可能性が一段と高まる)

 そう期待したのだが、いやはや、こちらの思うようには、なかなかいかない。

 ぎゅぃぃん。

 すばやく死神の鎌は刃の向きを変えた。

(ま、まずい! また正面になっちまった)

 操ろうにも、もう間にあわない。

 ばがぁぁん!

(もうだめ……、えっ!)

 目の前で起きていることが信じられなかった。この前は真っ二つにされたはずの霊火弾が、今回はもののみごとに命中。死神の鎌は霊火の炎に包まれ、落ちていく。

 おどろいたのはオレっちばかりじゃない。魔女カァネスもまた、あ然としたような表情を浮かべている。

「こんなはずでは……。おのれぇ。次こそは必ずぅ」

 そう捨て台詞を残すと、魔女はさらにぼぉぉっ、とした姿になり、そして……消えてしまった。

(霊魔とかいっていたが、今の消えかたから察するに霊体本体じゃないな。さしずめ、思念、つまり、影ってところか)

 前にネイルから聞いたことがある。霊魔は自分の思念を使っていくつもの影を放つことができることを。本体及び思念をほかの生きものにとりつかせることができることを。

(知らぬ間に近くにしのびよっている可能性もある。ぶっそうな世の中になってきたな)


 もっとも、ぶっそうじゃなくて、めんどうなやつはすぐそばにいくらでもいるが。

「ねぇ、なに今の? ひょっとしてソラの知りあい?」

「カスミ。今の会話、聞いていなかったのか?」

「……いや、あのね」

 なんかいつになくえんりょした口調になっている。

「どうした?」

「ひょっとしたら、あの人が、とか思って」

「うん? なんのことだ?」

「ほら、前にいっていたじゃない。告白するのがあたしとはかぎらないって。全然覚えがないから、だれなのかなぁ、って実は気にしていたのよ。そしたら、あの人が現われたでしょう? もうきんちょうしちゃって。霊覚交信を使っていたのは判っていたけど、聞いちゃまずいかなぁって霊覚を閉じていたの」

「お前なぁ」

(よけいな気ぃ使いやがって)

「やつはハイネがいっていた黒魔女だ。霊魔らしい。名前はカァネスとかいっていた」

 オレっちの言葉に、まぁ、とカスミは目を丸くして口元に手をあてた。

「そうなの? ソラが好きな人って霊魔だったの?」

(なんかややこしくなってきやがった)

「ソラにゃん。悪いことはいわないにゃ。もうちょっと相手を考えた方がいいと思うのにゃん」

「そうよ。大体、霊魔って人じゃないわん。告白するなら身近にいるじゃない。ねぇ、カスミさん」

「ええっ。そんなぁ!」

 顔を真っ赤に染めるカスミ。

(こっちまで真っ赤になりそうだ。ここらへんでやめさせよう)

「お前ら、いい加減にしやがれ。さもないと、まちがってふりおとすかもしれねぇぞ」

「……」「……」「……」

 オレっちの真剣さがつうじたのだろう。おとなしくなってくれた。


 告白うんぬんの代わりに、別な話題が持ちあがった。

「だけど、すごいじゃない、ソラ。一体どうやって霊火弾をあんなに強くしたの?」

 せなかにいるカスミが霊覚交信で声をかけてくる。

(といわれもなぁ。返す言葉がねぇ。まぁ、ここはひとつ、正直にいうか)

「判らねぇ。いつもと同じようにやっているだけなんだが」

「けんそん? らしくないわよ」

「おい、カスミ。オレっちがそんなことをする人間だと本気で思っているのか?」

 ぶんぶんと頭を横にふる幼なじみ。

「しないわね。でもそうすると……。あっ、判ったわ!」

 何故か、カスミの目がきらきらし始めた。よくないことの前兆だ。

「な、なにが?」

 こわごわ、たずねてみる。

「だから霊火弾が強くなった理由よ」

「ほぉ」

 なんかよからぬ気配がひしひしと伝わってくる。聞くのをやめようと思った。だが、カスミの方から、『聞いて聞いて信号』がさかんにあびせられる。これを無視すると、あとあとよくない事態が引きおこされるのは長いつきあいの中、よく知っている。

 はぁぅ。

 深いため息をついたあと、不本意ながら聞いてみることにした。

「それで? どうしてだ?」

「『愛』よ。あたしを守りたいっていう必死の願いが、奇跡の力を、いえ、愛の力を霊火弾に与えたんだわ」

「カスミ……」

(かわいそうに。ついに、こいつもネイルの信者になったか)

「けっこん力といってもいいわ。やっぱり、あなたとあたしは結ばれる運命にあったのよ」

(けっこん力って……、一体どこからそんな言葉を……)

「カスミ。まだ式もあげてねぇんだが」

(もちろん、今はあげる気なんぞこれっぽっちもねぇが)

「そうなのよね。すると……、こんやく力かしら」

(オレっちに顔を向けて、『かしら』てたずねられてもなぁ。大体、こくってもいねぇ。

 ……ふぅ。本当、ますますおかしくなってきやがった)

 力説するカスミにつられたらしく、ミーナたちも話を始める。おかしくなったのはカスミばかりじゃないことを知った。

「ミーにゃん。ウチは確信したのにゃ」

「なにを? ミアン」

「ネイルにゃんは必ず助かる、ってにゃ」

「そりゃあ、ミアンのいうとおり助かっては、ほしいわん。でもどうしてそう思うの?」

「にゃって『愛』を信じそうもないソラにゃんでさえ、愛の力を使って勝てたじゃにゃいか。となればにゃ」

「なるほどね。つね日ごろから愛をうったえているネイルさんなら、当然、助かってもふしぎじゃないと」

「そういうことにゃん。にゃあんか安心してしまったにゃあ。……ほっ」

「ミアンが安心するならアタシも安心するわん。……ほっ」

(お前ら……異常だ)


 なにはともあれ、死神の鎌をひとつ、うちおとすことができたのはまちがいない。こうしてなんの被害もなく、オレっちらは人が住んでいると思われる場所へとおりることができた。


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