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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第四話『とりつかれたネイル』‐②


 こんな姿の親友に、聞いてもらえませんか、といわれて聞かないやつもいないだろう。

「なんだ? ネイル」

「手を出してください」

「手を? ……こうでいいのか」

「ええ」

 ネイルはふところにから革の袋を取りだした。袋口を拡げてオレっちが差しだした手のひらの上でかたむける。袋の中からはあの五つの玉がすべりおちてきた。

「護玉か」

 ネイルは、『そうです』とうなずく。

「……ソラ。……たのみます。これで……結界を造ってください」

 しゃべりづらくなったみたいだ。つばを飲みこみながら、とぎれとぎれに言葉をつむぎだしている。

「結界を? でも、どうやって?」

「……ミアンさんに……聞けば、……判ります」

「ミアンに?」

 オレっちはネイルの同居相手である化け猫の顔に目を向けた。

「ネイルにゃん。ウチに任せるのにゃよ」

 ミアンはそういうと、オレっちをふり向いた。

「ソラにゃん。五角形のふうじんを造るのにゃ。五つの各頂点となる切り株の上に、この護玉を一つずつ置けばいいのにゃよ」

「これを、か? 判った」

 オレっちは自分のほか、カスミ、エリカ、ハイネ、そしてミアンの順に、護玉を一つずつ与えた。


「ミアン、それ、わたしが置いてあげるわん」

「ミーにゃん。重くないのにゃん?」

「なんとかなるわん」

「なら、たのむにゃ」


「じゃあ、みんな。始めるぞ」

 オレっちがそういうと、『判ったよ』、『任せて』などの言葉を返しながら、全員が五角形を形造るように護玉を配置した。

「これでよしと。ネイル。次はどうする?」

 ネイルの声が小さくなっていく。だが、まだはっきりと聞きとれる。

「……ふうじんから……外へ出てください。呪を……発動します」

「判ったよ、ネイル」

 急いで護玉の周りからはなれた。ネイルはそれを見届けたのだろう。目をつむると、なにやら口を動かし始めた。

 ぴきぃん!

 たちまち護玉から光が放たれた。それぞれの護玉同士が結びあい、五角柱の形をなす。

「それで? これからどうするんだ?」

「もう……なにも……」

 そういいながら首をふるネイル。口からはまだ言葉がもれている。

「ソラ……。それに……みんな。これから……どうなるか……判りま……せん。だから……いっておきたい。こんな僕と……今まで……つきあってくれて……ありがとう」

「ネイル……」「ネイル君……」「ネイルっち……」…………。

 ネイルの言葉に、だれもが、やつの名を口にするだけで精いっぱいだったようだ。オレっちの目がしらが、じわぁっと熱くなる。

(ちくしょう。目に変なものがうかんできやがる)

「……ソラ」

 やつの、白くなった左目と、普段と変わらない右目の両方が、オレっちにそそがれている。

「結界をとめる……のは、『停止』。再開……するのは、『始動』。終わらせる……のは、『解除』。それぞれの……言葉をいうだけで……実行されます。そして……発動させる最初の言葉は……」

 目と口が閉じられた。つかの間、静けさが訪れる。そして次に目を開いた時、発動の言葉を口にした。

「……結界……起動!」

 ネイルの声に応じるがごとく、天へ向かって光の柱が伸びていく。周りにある木々よりもさらにさらに高くまで。

「やったにゃあ、五角光芒ごかくこうぼうの完成にゃよ」

「ネイル。できたぞ」

 ふうじんの外からオレっちが声をかけたその時。

「しゃあ!」

 こちらをふり向いたネイル。白くなってしまった両目から、あやしげな光が放たれている。

「しゃあ!」

「ネイル……」

(こいつ、完全にとりつかれちまいやがった)

 ネイルは、『しゃあ! しゃあ!』と言葉にならない声をあげながら、鎌をふりあげたまま向かってくる。だが、結界にはばまれ、身体ごとはじき返されてしまう。

(助けてやりてぇ。だが)

 どうひねくりまわしても、オレっちの頭じゃあ、答えなど出るはずもなかった。


「ミアン。これからどうしたらいい?」

 オレっちは何百年もの長きにわたり、村に生きつづけている化け猫に言葉をかける。

「とりあえず、セレンにゃんのところへ行ってみた方がいいと思うのにゃけれども」

「アタシもそれがいいと思うわん」

(ミーナも、か。やっぱりな。セレンの姉ごに、たのむしかねぇか)

「セレン先輩なら、きっといい案を出してくれるわ」

「そうね。セレンお姉さまに会いにいきましょうよ」

 エリカとカスミもミアンの意見に賛成のようだ。

「ハイネ。ハイネもそれでいいか?」

 てっきり、『ああ、いいよ』っていうと思っていた。ところが、意外な言葉が返ってきた。

「ソラ。考えていることが一つあるんだ。そっちをはあたってみるよ」

「考えていることって?」

「死神の鎌について調べたところによるとね。鎌の力はほかの鎌でおさえられるんだって。村に落ちてきた鎌は全部で四つ。残り三つがまだこの霊山にはある。だから、そのどれか一つをとってこようと思うんだ」

「おい、大丈夫なのかぁ。へたすりゃあ、ネイルの二の舞い、ってことになっちまうぞ」

「鎌自体に巻きつけてある護符をはがさなければ大丈夫だと思うよ」

「だといいが」

「心配性だね、ソラは。まぁ、ぼくに任せてくれないかな」

「まぁ、お前がそういうなら。……にしても、場所は判っているのか?」

「ううん。手元にある地図でたどりつけるのは、このほこらだけなんだ。だからさ。とりあえずは、ここら一帯を探してみるよ。見つからないようなら、山をおりて新たに地図を手に入れなきゃならないけどね。

 それじゃあ、ソラ。ぼくは行くよ」

 ハイネはその場を立ちさろうとしている。

「あっ、ハイネっち。行くなら、自分も連れてって」

「エリカ君も? またどうしてさ?」

「ソラっちたちは多分、帰るつもりだから。自分としてはもう少し霊山を探検したいの」

「ふぅん。ものずきだねぇ」

「ものずきっていうか、たのまれているのよ。できるだけ多くの場所を見てきてほしいって」

 エリカをはそういいながら、人さし指の先を自分の目に向けている。

「そうかぁ、レイコ君だね。まぁ、ついてきたいっていうなら、かまわないよ」

「よかったわぁ。あっ、そうそう。

 ソラっち。確かあんた、はがした護符をもっていたでしょ?」

「えっ。……ああ、これか?」

 オレっちは、ふところの内袋から、折りたたんだ二枚の護符をとりだして、ひらひらさせた。

「それそれ。さぁ、早くわたして」

 エリカは手を差しだしている。

「お前に? 一体なんに使うんだ?」

「あのね、ソラっち」

 両手をこしにあて、あきれたような表情を浮かべるエリカ。こども相手に、お説教をしているような口調でしゃべりだす。

「死神の鎌と、ふういんしてある四つのほこらはね。そのどれもが、所有しているのは村役場で、管理しているのは警護隊なのよ。で、自分は警護隊の一人。今回、護符が破れたことで鎌がほこらの外へ飛びだしちゃったじゃない。当然、この事件を目撃した自分が、報告書なり、始末書をかかなきゃならない。手に入れられる証拠も、ひとつ残らず回収しなけりゃならないってわけ。どう? 判ったぁ? 判ったなら、さっさとわたしなさい」

 エリカは再び手を指しだす。

(こいつの話って長いんだよなぁ)

 それでも必要だってことは伝わった。オレっちはすなおに護符を手わたした。

「これで……よし、と」

 せおい袋にしまうエリカ。

「それじゃあ、ソラっち、カスミっち。あと、ミーナっちにミアンっち。ここで失礼するわね」

「ああ、判った」「気をつけてね」「じゃあね」「また会おうにゃん」


「エリカ、行くよ」

 何歩か先を進んだハイネがふり返って声をかけた。エリカも、

「あっ、待ってぇ」と、そのあとにつづく。

 見送っていたオレっちの視界から二人の姿が次第に遠ざかっていった。

「本当に大丈夫かなぁ。あいつら」

 オレっちの言葉にカスミが応じた。

「なんともいえないけど……、護符の力が有効なら問題ないんじゃない? ほかにはこれといって手があるわけじゃないし、とりあえず、取ってきてもらいましょうよ」

「まぁ、ほかに手がないってのは確かだが」

「それに、ね。ぞろぞろと四人でセレンお姉さまのところへ行っても、ご迷惑なだけじゃない。ここは手分けして、ネイルを助ける手段を模索するのも一つの手よ」

「お前のいうとおりにかもな」

 ふと気がついたことを口にしてみた。

「なぁ、カスミ。ひょっとしたらエリカのやつ」

「エリカがどうしたの?」

「いや……、なんでもない」

(ハイネが好きなんじゃねぇか)

 そういおうとしたが……、なんか野暮くさくていう気にはなれなかった。


 オレっちは五角光芒の中で、鎌をふりまわしている親友に声をかける。

「ネイル……。必ず、必ず戻ってくるからな」

 オレっちとカスミは、その場をはなれようとした。

「ネイルにゃん……」「ネイルさん……」

 二匹の霊体がその場に立ちつくしている。

「なぁ、お前ら」

 オレっちはしゃがんで声をかける。

「気持ちは判るが、ここにいてもしょうがねぇだろう? ネイルを元にもどそうと思うなら、オレっちらが動かなくっちゃならねぇんだ。そうじゃねぇのか?」

「ソラにゃん」「ソラさん」

「ほら、行くぞ」

 オレっちの言葉にうなずくミアンとミーナ。

(さてと。やっぱり、やらなきゃならねぇな)

 ネイルを一刻も早く助けてやりたい。そう願うオレっちが下山に時間をとられたくないのは当然といっていいだろう。幸いなことに体力も霊力も戻っている。となれば、だ。

(ドラスになって霊山を強行突破する。それしかねぇ)

 オレっちはガン・ドラスへと変化。仲間全員をせなかにに乗せると、霊山の上空へと羽ばたいた。


 ぐぐぐっ! ぐぐぐっ!

 すさまじい霊圧が行く手をさえぎろうとする。あらがう霊力を最大にするため、せなかに乗っている仲間たちを守るため、全身に霊波をまとう。

 ぐぐぐっ! ぐぐぐっ!

(負けねぇ! 負けるもんかぁ!)

 思いの強さが霊力を高める。霊波の光が強くなる。オレっちはあがく。力のかぎり、あがく。

 そして……『霊波』をはるかにしのぐ力とされる『光波』へと変わった。

 ばしゅぅっ!

(やったぁ!)

 オレっちは……霊山を突破した。

「光波を造りだすなんて……、こんなこと、あたしだってできるかどうか……。

 さすがは未来の夫。鼻が高いわ」

「かっこいいわん!」

「ウチも感動したにゃん」

 仲間たちが口にする賞賛の声。くたくたに疲れながらも気分がよかった。


「おおい!」

 よく知っている声が後ろから聞こえてくる。ふり向くと、そこにはアーガのミレイに乗った姉ごの姿が。

「あっ、ラミアさんだ」

 ぱたぱたぱた。

 ミーナは姉ごの肩に飛びのる。

「なんだ、ミーナもいたのか」

「ぐぉぉっ……(ラミアの姉ご……)」

「どうしたぁ? ソラ。困っているみたいな感じだけど」

「ラミアさん、大変なのよ」

「ぐぉぉっ(そうなんだ。実は)」

 ミーナとオレっちは、ネイルが死神の鎌にとりつかれたことを話した。

「ぐぉぉっ……(それでセレンの姉ごのところへ向かう、とちゅうなんだが……)」

 本当をいうと、できることならあの人のそばには近づきたくない。どうして、って聞かれても答えにくいが、なんとなく苦手な感じがするからだ。それでも今まではネイルがそばにいたから、なんとかなった。だが今日は……。

 とはいっても、自分たちで解決策を見つけられない以上、会わないわけにはいかない。

 そんなオレっちに、救いの手を差しのべるような言葉が姉ごの口から。

「ネイルがそんなことに……。判った。あたいについてきな」

(なんてたのもしい。さすがだ)

「ぐぉぉっ!(ありがとう、姉ごぉ!)」

「ラミアお姉さまぁ! 感謝しまぁすっ!」

 カスミはオレっちのせなかをはなれ、姉ごに飛びついた。

「こら、カスミ。首に巻きつくな」

「ラミアさん。やっぱり、たよりになるわん!」

「早く、セレンにゃんのところに行こうにゃん!」

「お前たちまでしがみつくな! 飛びにくくなるじゃないか!」

「くぉーっ!(ラミアさん。飛ぶのはワタクシにお任せなさいませ。ちゃんと病院まで送り届けいたしますから)」

「ほら。お姉さまぁ、大丈夫ですよ。ミレイも、ああいってくれているじゃないですか」

「カスミぃ! ミアンも早くはなれろぉ! このままじゃあ、引っくりかえって落ち……、

 うわぁっ!」

(やれやれ。姉ごが加わると、相変わらずにぎやかになるな)

 重い気分がふっ切れる。この人にはそんなふしぎな力がある。

 こうしてオレっちらは、使い手の姉ごとともに中央病院へと急いだ。


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