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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第三話『ほこらにて』‐④


 目の前のできごとがにわかには信じられなかった。

「えっ! な、なんだ! 急に鎌が動きだしやがった」

 がたがたがた。がたがたがた。がたがたがた。……。

「どうなっているんだ? ネイル!」

「ありえない……。こんなことが起きるなんて」

 ネイルが呆然とした様子で立ちつくしている中、

 ばしっ! ばしっ!

 死神の鎌は護符を破ると、宙に浮かぶ。刃を頭にして柄の部分がだらりとさがった格好。刃先がこちらを向いた。

「一体どうして……、あっ、危ない!」

 声をあげるネイルの視線の先。鎌がゆっくりと動き始めた。

「あわわわ!」

 あわてた声がオレっちも含めてあちらこちらで起きる。申しあわせたかのごとく、全員がほぼ同時に頭に両手をあててしゃがみこんだ。オレっちらの頭上、わずかすれすれををとおって鎌は後方へ。

 ほっとして立ちあがる、と。

「ソラ君、このままじゃあ」

「うん?」

 ハイネの言葉にうながされ、後ろをふり返った。

「……やばいなぁ」

 死神の鎌がほこらの中をうろうろしている。移動の速さ自体は、まだまだゆっくり。飛んでいるというよりは浮かんでいるといった方が正しい。まるで自分がどこにいるのか確かめているみたいだ。それでも、次第に開いた入口へと近づいている。

「大変なことになったわね」「どうしたらいいのかしら」

「やっかいなことになりそうですね」「うん。困ったもんだね」「ああ」

 エリカ、カスミ、ネイル、ハイネ、そしてオレっちと、言葉がつづく。

「外に出たら、大変だわん」「ソラにゃん。なんとかしにゃいと」

「なんとかできればな!」

 いつの間にかミーナとミアンがオレっちの頭から肩へと移動していた。だが、そんなことはどうでもいい。遅ればせながら、全員そろって追いかけてみる。だが、間にあうはずもない。鎌はほこらの外へ。ネイルが、いの一番に飛びだす。

「逃がすわけにはいきません!」

 ネイルは手にした護玉を真上に放りなげた。拡げた両手を鎌へと向けた。放りなげられた護玉は当然落ちてくる。落ちてきた護玉が両手の間をとおりぬけようとする直前、呪を発動するきっかけの言葉とやらが聞こえてきた。

「『鎖の舞い』!」

 ぱりぃん!

 護玉が割れると、ネイルの両手が銀色に染めあげられた。

 ばばばばば! ばばばばば! ばばばばば! …………。

 鎖状の霊波が何本もネイルの手から飛びだす。死神の鎌にからみつく。鎌は宙に浮いたまま動きをとめた。

「やったか!」

 そう思ったのもつかの間。

 ぐっぐっ! ぐっぐっ!

(こいつ、抵抗してやがる)

 思いがけないことになった。死神の鎌とネイル。双方が引っぱりあいを始めたのだ。

「うわぁっ!」

 ネイルはずるずると鎌の方に引きこまれていく。

「あ、足が……、ふ、ふん張れない!」

(まずいなぁ。ネイルのやつ、足元がふらふらだよ。まぁ、無理もねぇか。さんざん歩いたんだ。ちょっとやそっと休んだぐらいじゃあ、疲れはぬけないわな)

 同情の念にひたっていると、かたわらにいるハイネの声が聞こえてきた。

「ネイル君。『捕縛』を解除するんだ!」

 だが、ネイルは引きずられながらも、だめです、と即座に断わる。

「解除してしまったら、鎌の動きを封じるのは亜矢華の霊圧だけになってしまいます。ここを突破すれば、村に災いをもたらす元凶となるのは火を見るよりもあきらか。それだけはなんとしてもさけなければ」

「だけど、そのままでも」

「いいえ。僕の想像が正しければ、この『捕縛』と亜矢華の霊圧が、まもなく死神の鎌の力をおさえこむはず。それまでは……うわっ!」

「ネイル君!」「ネイルぅ!」

 オレっちらが叫ぶ中、死神の鎌は身体に捕縛の霊波をからめたまま、ネイルとともに亜矢華の外へ飛びだそうとした。ところが。

 ががっ! ががっ!

 まるで見えない壁にでもぶつかったかのように、死神の鎌は行く手をはばまれる。宙に張りついたまま、ばたばたと、もがいている。そのたびに、鎌のまわりには……しょうげき波だろうか……光がまきちらされる。

「ネイル君。今、助ける!」

 ばふっ!

 小爆発のあと、ハイネの右手がディルドの前足となる。びゅぅん、と伸びて死神の鎌へと向かう。

(そうか。前足を使ってネイルごと、死神の鎌をつかむつもりだな。ネイルの予想どおりなら、しばらくそのままにしておけば鎌は動けなくなる)

 だが……思うようにはいかない。

 ががっ!

「し、しまったぁ!」

 ハイネがくやしそうな声を口にする。ハイネの前足も亜矢華の力によってそれ以上、伸ばすことができない。

「こんな輪っかがなければぁ! ディルドに変化できていればぁ!、こんな力ぐらいでぇ!」

 いらだちをあらわにしている。激した感情などとは無縁の存在、と思われていた親友だが、拘束具をはめられてからというものは、よく目にする姿となってしまった。なにもしてやれず、気の毒、というほかはない。

「ハイネ……」

 だが、今、気にしなければならないのは、もう一人の親友の方。

(どうすればいいんだ)

 途方に暮れるオレっちの目の前で異変が起きた。死神の鎌の周りに発生していた光が消えた、と思ったら、鎌が真っさかさまに墜ちていく。

「ネイルさぁぁん!」「ネイルにゃああん!」

 オレっちはミーナとミアンとともに崖っぷちまでたどりつく。死神の鎌が上空にとまっていられたのは、亜矢華の霊圧と外へ跳びだそうとする鎌の力がぶつかりあっていたからだ。後者が弱まれば、落下するのは当然。見れば、死神の鎌の姿がどんどん遠ざかっていく。

(追いかけねぇと)

「とぉっ!」

 オレっちは飛びおりた。四肢を拡げた姿で落下する。

「竜身変化!」

 オレっちはガン・ドラスへと変化した。ところが。

(あっ、あっ、あぁぁあっ!)

 まともに亜矢華の霊圧を浴びる。

(ネイルのいうとおりだ。亜矢華の中で飛ぶことはほとんど困難といっていい)

 身体がぐらぐらと動く。飛んでいる、といいたいが、実は降下するのがやっと。それでも死神の鎌が、ネイルが、はっきりと見えてきた。

(死神の鎌め。ふらふらになりながらもまだ亜矢華の霊圧に抵抗してやがる)

「ぐぉぉっ!(待ちやがれ!)」

 死神の鎌にからみついている捕縛の霊波。それはまだネイルの手とつながっている。見た目には、光を放つ鎖が鎌からだらりとさがっていて、その終わりにネイルがぶらさがっているといった感じ。

(捕縛とか結界とか、まどろっこしいことをやる必要なんかねぇ。撃ちおとしてやる!)

 ぼわっ!

 オレっちは口から霊火弾をぶっ放す。死神の鎌にぶつかっても、間が空いているため、ぶらさがっているネイルにかすり傷一つ負わせなくてすむ。もちろん、ネイルが地面にたたきつけられる前にひろってやらなきゃならないが、これだけ高いところなら余裕で助けられる。

(これを食らえば、死神の鎌も終わりだ)

 そう思って安心していた。ところが、

 きぃぃん!

 近づいてくる霊火弾に気がついたのだろう。鳴き声のような音をひびかせながら、鎌の刃がふるわれた。

 すぱっ!

 ばがぁん!

 霊火弾はあっけなく爆砕した。

「亜矢華の中とはいえ、威力自体はそれほど落ちているとは思えねぇのに……」

 目の前で起こったできごとにもかかわらず信じられない。

「たったひとふりでこうも簡単に。あれが……鎌の力なのか!」

 死神の鎌。その正体をかいま見た気がした。恐怖などは一切感じない。むしろ好奇心をそそられる。

(おもしれぇ。こいつは本当におもしれぇや)

 ドラスの血がたぎってくる。戦いたい気分にかられた。だがこの直後、霊火弾を吐きだしたこともあって霊力が一気に低下。それが理由か霊山の霊圧がいまさらのように重くのしかかる。

「残念だがこれ以上、耐えられそうもねぇ」

 オレっちはあとに心を残しつつ、カスミたちの元へと引きかえす。


 霊圧に耐えながら飛ぶうちに、熱くなっていた気持ちが落ちつきを取りもどしていく。それと同時に後ろめたさを感じ始めた。

 正直にいう。霊火弾を放ったあと、オレっちは、ネイルのことを失念していた。死神の鎌にしか眼中になかった。親友を助けるために苦労して飛んできた、そのはずなのに、だ。

(ドラスの細胞と血を持つ人間として生まれたオレっちのごうなのだろうか)

 上昇は降下より何倍も負担がかかっている。おまけに負の念まで抱えてしまった。ともすれば、『もう戻れないんじゃないか』と悲観的な考えにおちいりそうになるオレっちを支えたのは……脳裏に浮かんだカスミの笑顔。

(でも……、これはずっと内緒にしておきたい)


 ようようの思いでオレっちは戻ってきた。待っていたハイネたちが、ごくろうさまぁ、とねぎらいの言葉を口にしながら駆けよってくる。

「どうだったの? ネイルは見つかった?」

 ハイネをおしのけてオレっちの前に立ったカスミの目には期待がこめられていた。

「いや、実はな」

 いいにくいながらも真実は真実。飛びたってからのできごとを手短に話して聞かせた。

「……そう。逃げられちゃったの」

 オレっちの報告に、さぞや肩を落とすだろうな、と思っていた。ところが意外に冷静。つづけてカスミの口から出た言葉でその理由が判った。

「となると、あとは……ミーナちゃんが頼みの綱ってわけね」

 意外な言葉を聞かされた。

「ミーナが? カスミ、それってどういう意味だ?」

「実はにゃ」

 言葉を返してきたのはミアンだった。

「ミーにゃんが今、落下しているネイルにゃんを追いかけてくれているのにゃよ」

「あっ、そうか」

 オレっちは想いだした。

「ミーナって亜矢華の中でも飛べたんだったな。確か霊力が低いからとかで」

「そうにゃよ。必ずネイルにゃんの行方をつきとめてくれる。にゃから、それまでウチらはここで待機していようにゃん」

「……そうだな」

 オレっちは、半ばほっとしたような気分になった。


 ばたばたばた。ばたばたばた。

 しばらくして待ち人来たる、じゃない。花の妖精が戻ってきた。

「ねぇ、大変だわぁん!」

 ミーナが返ってきた。すたっ、とミアンの前におりたつ。

「どうしたのにゃ? ミーにゃん。ネイルにゃんになにかあったのにゃん?」

「うん。それがね。見失っちゃったの」

 ミーナはオレっちに顔を向けた。あわてている風にも見える。

「ソラさん。さっき、霊火弾を放ったじゃない」

「えっ。……ああ」

(やっぱり、見ていたのか)

「そのせいかな。ソラさんが帰ったあとね。死神の鎌は力を失ったみたいに落下し始めたわん。で、森の中につっこんだところまでは見ているんだけどね。それからどうなったのか、さっぱりなの。もうどうしたらいいか判らなくて、それで戻ってきちゃったの」

「ミーにゃん。まぁ、落ちつきにゃさい」

 急ぎ口調でしゃべる親友をなだめるミアン。その声にうながされたかのようにミーナの視線はミアンへと戻る。

「それで? 森の中は調べてみたのにゃん?」

「うん。だけどね。全然、見つからなくって」

「森から出たってことはないのにゃろうか」

「間違いなくいるわん。気配を感じるもの。でもね。亜矢華の霊波が邪魔をしてそれがどこからきているのか、全然判らないの」

「すると、森のどこかに引っかかっているってことも考えられるのにゃ」

「ミーナ。それなら」

 オレっちはおそらくこの場にいる全員が思っている言葉を口にする。

「ほかにあてはない。頼む、オレっちらをそこまで連れていってくれ」

「判ったわん。でも、どうやっていくつもりなの? 歩いていくには遠すぎるわん」

「それは……」

 本来であれば、オレっちがガン・ドラスになって連れていきたいところ。だが……実は先ほど飛びまわったばかりで体力が消耗している。

「大丈夫。ウチに任せるのにゃん」

 オレっちのためらいを察したのだろう。ミアンはそういうと、ぴょぉん、と跳びあがる。

 ぱかっ!

 ひらひらひら。ひらひらひら。

 なんか……平べったいものに変化した。

「じゅうたんみたいね」

「じゅうたん……かしら」

「じゅうたんじゃねぇか」

「じゅうたんだよ」

「じゅうたんだわん」

 エリカを始めとして、カスミ、オレっち、ハイネ、そしてミーナが思ったことをそのまま口にしている。

「ここにいる全員が乗っても平気なのか?」

 念のために聞いてみる。

「多分、なんとかなるにゃろう」

「多分、って」

「にゃってこれだけの数を乗せたことも、亜矢華のまわりを飛んだこともにゃいもの」

(さっき、大丈夫、とか、任せろ、みたいなことをいっていた気が。……まぁ、いいや)

「そうかぁ……。なぁ、どうする? みんな」

 だめだろうな、と思いきや……、慎重派のネイルとレイコがいないこともあってか、実にあっさりと決まった。みんながみんな、ミアンと同じく、『なんとかなる』、で賛成したのだ。

(結局、似た者同士の集まりってわけか)

 こいつらがなんでオレっちの周りにいるのか、判ったような気がした。


 全員がそろってミアンのじゅうたんの上にこしをおろした。

「よぉし。それじゃあ行くぞぉ! ミアン、飛んでくれ!」

 むくっ。

 じゅうたんの前の方にミアンの顔だけが現われた。ぶきみといえばぶきみ。だがこの際だ。気にしないことにする。

「判ったにゃあ。出発にゃん!」

 ひらひらひら。ひらひらひら。

 ミアンのじゅうたんが浮かぶ。

 こうしてオレっちらは死神の鎌を、いや、ネイルを探しに向かった。


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