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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第二話『ある伝説の書』‐⑦


「だけどさぁ、ネイル君。どうやってその話をレミ姉から聞きだしたんだい?」

「あっ。違いますよ、ハイネ」

 ネイルは手をふって否定の意を現わしている。

「向こうから勝手に話してくれたんです。僕がマリアさんの持ってきた本を、『なにが書いてあるのかなぁ』と思ってぺらぺらとめくっていたら、いつの間にかレミナさんがわきからのぞきこんでいましてね。『これって亜矢華にあるやつだよ』っていいだしたんです。それで彼女が指さす話の内容に目を向けたら」

「『死神の鎌』にまつわる伝説だったってわけね。で、それがきっかけになって説明までしてくれた。そんなとこかしら」

「ええ。カスミさんのいうとおりです。もののついで、みたいな感じで、さらっと。レミナさん本人は興味がないみたいでした。実は僕もあまり関心がなかったんです。それよりも、もっと気になることがあったから」

「というと?」

 ハイネは話をうながす。

「その本がどうして村役場の書庫に納められていたか、についてです」

「どうしてって、村役場が書店から仕入れたんじゃねぇのか?」

 オレっちがそういうと、『いいえ』とネイルの頭が横にふられた。

「誰かが寄贈したそうなんです。『もう読まなくなったから』とかいって」

「まぁ、そういうこともあるだろうさ。折角買ったものの、読んだらつまらなかった。よくあるパターンじゃねぇか」

「ふふっ。よくあるパターンだけど、ソラには縁遠い話よね」

「カスミ。そりゃどういう意味だ」

「あたし、あなたと小さいころからのつきあいだけど、読書にいそしんでいる姿なんて一回も見たことがないもの。そもそも本自体、買わないでしょう?」

「ところがそうでもねぇのさ。つまらないって思ったことはねぇけど、期待はずれだったってぇことはたびたびある。どうしてもっと、みたいな感じでな」

「一体どんな本を買っているの? なにが、『もっと』なの?」

(ちぇっ。小うるさい幼なじみだ)

 カスミの言葉を無視することにした。

「だけど、ネイル。それのどこが気になるんだ?」

「マリアさんがいうには、寄贈の場合、本人の承諾書を書く決まりになっているのだとか。それが本人のものであること、同意をえてわたしたことへの証明として」

「ふぅん。なぁ、レイコ」

 彼女は書庫係。話をふってみることにした。

「ここらへんってレイコの方がくわしいんだろう?」

 レイコはネイル以外の男とは、あまりしゃべりたがらない。それでも聞かれればちゃんと答えてくれる。

「ネイルのいうとおり。あとでごたごたが起きるのを防ぐのが理由」

「ごたごたっていうのは?」

「盗難品だったとか」

「なるほどな」

 オレっちはネイルとの話に戻った。

「それで? お前が気になっているっていうのは?」

「今話した承諾書の署名の部分なんです」

「なにか変わったことでも?」

 ハイネが興味深々といった様子で尋ねている。

「マリアさんが『お困りごと相談室』の室長をやっていることはご存じですよね」

「ああ」「ぼくも知っている」

 オレっちとハイネはうなずく。ネイルはレイコを一べつしたのち、言葉をつづけた。

「これは書庫係からの相談らしいんですが……。

 署名の際には、いんをおしてもらうことになっているそうです。ところがこの本を持ってきた人は、忘れた、とかいって、そのまま帰ってしまった。今度来る時には持参する、みたいな話をしていたものの、いまだに来てはもらえない。で、困っていると」

「別にいいんじゃないか。印ぐらいなくたって」

 オレっちがそういうと、レイコは、『それはだめ』と激しく首を横にふる。つづけてネイルがその理由を説明した。

「寄贈された本自体は、ハイネの手元にあるように、既に誰でも借りられる状態にはなっています。ところが、手続き上は、印をおさないかぎり完了とはならないのだとか。お役所仕事なので書類の不備はあってはならないのでしょう。当然のことながら、いつまでもそのままにしておくわけにはいきません。ですから、来ればそれにこしたことはないが、もし来られないようであれば、こちらから出向くことも考えなければならない。そこでいずれにしても連絡がつくようあればつけておきたい。

 とまぁ、こんな内容だったようで」

 話を聴いているうちに、あることに気がついた。

「書庫係って確か一人だよな? ということは」

 レイコをふり向くと、すかさず言葉が返ってきた。

「そう。わたし」

(なんだ。目の前に当の本人がいたのか)

 ふと周りを見た。みんながみんな、『今頃判ったの?』、みたいな顔をしている。なにか気の利いた弁解をしようとしたが、レイコがそのまま言葉をつづけたので、結局、なにもいい出せずに終わった。

「だから寄贈した人に伝えてもらおうと、マリアさんにお願いした」

「ところが、です」

 ネイルがレイコの言葉をぐ。

「なにかあったのかい?」とハイネが尋ねた。

「伝えられなかったんです」

「そう……なの?」

(どうやら、レイコも知らなかったみたいだ)

「伝えられない? ネイル君。それはまたどうして?」

「オレっちも気になる。どうしてなんだ?」

「偽名だったんですよ。その署名に書かれてある名前が。村役場に登録されていませんでした」

「住所は? 承諾書ならそれも書くんじゃねぇか?」

 思いついて尋ねてみた。だが、ネイルからの返事は期待を泡と化した。

「住所そのものは存在するそうですよ。ところが行ってみたら、今は人が誰も住んでいない空き家だったそうです」

「住所も名前もでたらめか……。一体誰なんだぁ、この本を持ってきたのは。それになんのために寄贈したんだろう?」

「そう。誰でもソラみたいに思いますよね」

 ネイルは、ややじまんげに、

「どうです? ハイネ。本の内容より、ずっと気になるでしょう?」と話しかける。

「うぅん。ネイル君のいうとおり、気になることは気になるけど……」

 ハイネは遠慮がちに言葉をつむぐ。

「恐怖っていう点では、『死神の鎌』の方が上かな」

「まぁ、それはそうですね」

 にっこりとほほ笑むネイル。ハイネは言葉をつづけた。

「それにさ。『本の寄贈』は現実の事件だよ。一方、『死神の鎌』は昔からのいい伝えということもあって、神秘的なものすら感じるんだ。ぼくとしては後者の件を調べたいな」

「あたしは反対。どちらかといえば『本の寄贈』の方に興味があるわ」

 そういいだしたのはオレっちの幼なじみ。

「カスミ。どうしてだ?」

「ハイネとは逆の意味で。現実の事件だからよ。昔のいい伝えを検証するよりもはるかにやる気が起きるの」

「ハイネとカスミで意見が分かれたか……。

 エリカ。お前は?」

 オレっちの言葉に腕を組むエリカ。

「そうねぇ……。やっぱり、『死神の鎌』の方かなぁ」

 意外な言葉だった。警護隊員の彼女からすれば、現実の事件を重要視するのはあたりまえ。そんな先入観が頭にあったから。カスミもそう思っていたみたいで、

「どうして?」とすぐさま尋ねた。

「『本の寄贈』の件からいわせてもらうわね。ようするに、身元不明者が手続きの書類にでたらめを書いて本を寄贈した、っていうだけの話でしょ? 今のところ、警護隊に盗難報告なんて一件も入っていないから、本を持ってきたのが所有者本人である可能性はきわめて高い。となると、やることっていったら、せいぜい身元を確認することぐらいしかないじゃない。

 天空の村に住む村人は、およそ百人。レイコに一人一人、面とおしさせれば、それが誰なのか、住所はどこなのか、なんて簡単に判っちゃう。あとは書類を正しく書き直してもらって、本人の印を、ぽん、とおしてもらえば一件落着。ただそれだけのことよ。怪奇でも恐怖でもなんでもない。どうして書類にうそを書いたのか、どうしてそこまでして本を寄贈したかったのか、っていう謎はあるにはある。だけど、それって相手が教えてくれなければそれまでだし、教えてもらえたとしても、よ。自分が持っている本を寄贈するという、ただそれだけの行為に、一体どれほどの意味が隠されているっていうの? 調べるほどの価値があるとはとても思えないわ。

 それにね。大体、現実の事件に対応するのは警護隊のお仕事よ。でも今、自分がここにいるのは警護隊員としてじゃない。友だち同士の集まりだから、『怪奇特捜組』の一員だから、にすぎないわ。みんなだってそうでしょ? 村の怪奇を探すというのが本来の目的なら、『死神の鎌』しか選択の余地はないと思うんだけど」

「エリカ。説明、ながながとありがとう」

(すっかり忘れてたぜ。こいつは話しだすと演説みたいに長くなっちまうんだってことを。やれやれ……。

『はい』、か、『いいえ』、で答えろ、みたいなことを最初にいえばよかった)

「それじゃあ、エリカは『死神の鎌』に一票と。レイコはどっちだ?」

「ソラ。わたしは『本の寄贈』。当事者だから」

(そうそう。答えはこれぐらい簡単でなきゃあ)

「気持ちは判るな。あとは……」

「いやぁん。わたちを、わ・す・れ・な・い・で・と」

「マリエか……。それで? どっちなんだ?」

「レイコ、だいだいだいすきぃぃん。だから、『本の寄贈』。うぅぅん。決まったぁぁ」

「友情がらみか……。まぁ、どうでもいいが。それであとは」

「僕でしょう」

「ああ、お前を忘れていた。……それで? ネイル、どっちがいいか決めたか?」

「呪術師ですからね。『死神の鎌』を選びます」

「まぁ、そうだろうな。……ということでオレっちを除く全員の意見が出たわけだ。

 ええと……、『本の寄贈』が三人。『死神の鎌』も三人か」

 ばん!

 オレっちは両手でテーブルをたたくと、椅子から立ちあがった。

「みんな、聞いてくれ」

 その場にいる全員を見まわしたのち、言葉をつづけた。

「判っているとは思うが、この『怪奇特捜組』では、賛成が二人以上いる選択項目が複数あった場合は、多数決ではなく組長が裁断することになっている。

 今回は二つの選択項目にそれぞれ二人以上の賛成があった。となれば、組長であるオレっちが裁断することになるわけだが……異存はねぇか? あれば手をあげていってくれ」

 しぃぃん。

(誰一人あげねぇ……。なら決まりだ)

「みんなぁ。裁断をくだすぜ。これより、『死神の鎌』の探索を開始する。

 理由はエリカがいったように、このクラブは怪奇を探索するのが目的だからだ」

 オレっちがそういうと、全員がこくこくとうなずいた。

「よぉし。なら始めるぜ」

 オレっちは張りきって親友に話しかける。

「ネイル。今からでも行ってみねぇか? ほこらがある場所まで」

「行ってもかまいませんが……」

 なにかためらっているような口ぶり。その理由はすぐに判った。

「すみません。僕はそれがどこにあるかまでは知らないんですよ」

「そうなのか。となると……」

(出だしそうそうつまずいちまった。なんとかならねぇかな)

 考えてもどうにもならないと判っていながら、それでも考えるしかないオレっちに、ハイネから助け船が。

「ソラ君。方法は一つしかないよ。レミねぇに案内してもらおう」

 当然、オレっちが答えられる言葉は一つしかない。

「そうだな」

「ソラ。そうと決まれば、早くレミナお姉さまに会いにいきましょうよ」

 カスミはそういってオレっちの腕にしがみつく。

「じゃあ、ここを出ることを知らせないと」

 ネイルはそういって外に出た。調理場へ向かったようだ。しばらくして戻ってきたやつの首にはミアンが巻きついていた。

「まるでえり巻きね。それでミーナちゃんは?」

「ほら」

 ネイルが横を向く。ミアンの背中にべったりと張りついている妖精の姿が、そこにはあった。

 むにゃむにゃ。

「もう食べられないのにゃ……」

 すやすやすや。

「まだまだ食べられるわん」

「ずいぶんと静かだな、とは思ったが……、この状態でよく落ちずに眠っているな」

 オレっちが感心したようにいうと、ネイルは、

「前に聞いたことがあります。実体波どうしでからませているため、誰かが無理に離そうとでもしないかぎりは、このままでいられるそうですよ」

「なるほどな」

「ねぇ。そのえり巻き。あたしにも貸して」

 カスミがネイルの前に両手を差しだしている。

「だめです。なかなか気持ちがよいもので」

「ええっ。自分一人だけいい思いしてぇ。ずるぅい」

 なおも小さい子供のごとく、ぎゃあぎゃあ、とおねだりをつづけるカスミ。『いい子だから、あきらめましょうね』となだめるネイル。『なんとかしてやれば』、みたいな顔をこっちへ向けるハイネ。

 女子三人組も黙っちゃいない。

「カスミぃっち。負けちゃだめぇ。もっとねばりなさぁい」と応援するエリカ。

「子ども」と冷静な目で見るレイコ。

「いやぁん。わぁたぁちぃもまぁぜぇてぇぇん」となにいってんだか判らないマリエ。

(お前らなぁ……)

 時々思うことがある。どうしてこんな面倒なやつらをオレっちは、親友あるいは友だちに選んだのかと。だが、いくら考えてもその答えは見つからない。気がついていた時にはなっていた。それだけで納得するしかなかった。


(さてと。それじゃあ)

 このままじゃあ、らちがあかない。オレっちは考えてみることにした。

(ようするに、だ。カスミの興味を別な方に向ければ、ってことだよな。

 ええと、なにかそれらしきものは……)

 ふと部屋の周りを見まわす。

(そうだ。これにしよう)

 オレっちは、これがきっかけとなってくれれば、との期待を胸に話しかける。

「ハイネ。ここもだいぶ老朽化ろうきゅうかがすすんでいるな」

「そうだね。どこもかしくもいたんできているし、そろそろ修繕をしないと」

 ハイネがオレっちの顔を見ながらうなずいている。

(しめしめ。思ったとおりだ)

「ここって確か、歴代の使い手が寝泊まりしていた小屋ですよね」

 想いだしたように、ネイルが口をはさんできた。

(へぇ。ネイルのやつも知っていたのか)

「そうなんだけど……。もう十世代以上も前に使われなくなっているって話だから、最後に修繕が行われたのだってかなり昔と考えていいんじゃないかな。よく持ちこたえていると思うよ」

 修繕が施されたアーガの森にある小屋とくらべれば、使われている木材の古さは一目りょう然。屋根や壁には朽ちた木片がはずれてすきま風が入ってくる。それでも倒壊にいたることなく、けなげにふん張るさまを見せつけられると、なんとかしたい、という気分にさせられる。

「毎日来るわけじゃねぇが、このアジトで顔をあわせるのが楽しみになっているのも事実。オレっちらの手でできるところまで修繕してみねぇか?」

 この提案にカスミも言葉を添える。

「ねぇ。ハイネ。お祖父さんの知りあいに、長年、小屋の建築にたずさわっていた人がいるの。声をかけてみようか? ひょっとして、なにかいい知恵を貸してくれるかもよ」

 カスミの言葉に、ハイネの目がきらきらし始める。

「本当かい? だったら頼んじゃおうかな。修繕は、前からしたいとは思っていたんだけど、知識がとぼしくてさ。手を出せずじまいだったんだ」

「あたしに任せてよ。万事仕切ってあげるから」

 カスミは張りきっている。えり巻きのことは頭から消えたようだ。

(どうだ。オレっちの腕前は?)

 そういわんばかりの目をネイルとハイネに向けた。やつらはそろって、『お見事』とばかりに親指をおっ立て、にやりとほほ笑んでいる。もちろん、それを目にしたオレっちも。

「それでさぁ。具体的には」

 カスミが冗舌じょうぜつになっている。

(うまくいった。……にしても小屋の修繕か。自分の提案ながらそれも悪くないな)

 

 小屋のドアを開けた。ここはフーレの森。緑系の葉をつけた白っぽい樹木に囲まれている。目の前には小さな池と雑草だらけの地面。忘れられた大地といった感のある景色だ。

「小屋もそうだけど、雑草も歩くとこぐらいは、かり取っておこうかな」

 ハイネの言葉に、それがいい、とオレっちはうなずく。

「やる時は連絡してくれよ。みんなでやればそんなに時間はかからねぇと思うし」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」

「なぁ、お前たちもいいだろう」

 後ろでべちゃくちゃおしゃべりしている女子三人組に聞いてみる。

「当然よ、ソラっち。自分の手にかかれば、雑草の一つや二つ」

「エリカ。もっといっぱいあるはずだが」

「ソラ。野外はちょっと。室内なら」

「レイコ。お前にやらせたら、セレンの姉御かネイルにオレっちは殺される」

「いやぁん。虫にさされちゃうしぃ、陽ざしで肌にしみがついちゃうしぃ、かがんだらせぼねがゆがむしぃ」

「よかったな、マリエ。がんばれ」

(とりあえず、エリカとマリエはなんとかなりそうだ)

「カスミ、お前は?」

「もちろん、手伝うわ。それにしても、ソラ」

「なんだ?」

「この広場を見て。やることがどんどん増えていきそうよ」

「だな、カスミ。今のうちにさ。いっぺんにやる作業と、間をおいて少しずつやる作業とに分けておいたほうがいいんじゃないか」

「そうね。検討してみるわ。とりあえずは……」

 オレっちらは小屋の修繕や、小屋が建っている広場の手入れについて話しあいながら、レミナの姉御がすみかとする『フーレの小屋』へと向かった。


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