第八話 赤き情熱のレッドベリル
「ふっ……赤き情熱の生命力を司る宝石とは、やはり僕のことだ」
シキオンのとある公園にて、滝のような汗を流す宝石がゆっくりと立ち上がった。
自信に満ちあふれた赤い瞳、金色のやや長めの髪は本来動きがあるスタイルだったが、今は汗に濡れて光っている。
青年の名はレッドベリル。今しがた、凄まじい勢いで行っていた腕立て伏せを千回終わらせたところである。
「……赤い宝石など沢山いる。それにお前は物理的に脆い性質だろう。それを補おうとトレーニングするのは、いいことだと思うが」
不敵に微笑んでいたレッドにそんなことを告げるのは、すぐそばで高速のスクワットを続けている宝石だ。寡黙な緑色の瞳に黒い短めの髪をした、いわゆる翡翠(硬玉)のジェダイトである。こちらの彼もまた、大粒の汗を流していた。
「何? 割れにくさだけが取り柄の奴に言われたくはないな。お前はもっと別のところを鍛えたほうがいいんじゃないか」
「何だと……」
ジェダイトはスクワットを止め、まっすぐに立ってレッドを見据える。火花を散らす二人はどこから見ても、性格が噛み合っていない。しかし彼らは何故か、いつも一緒にトレーニングをしていた。
「これはこれは、お二人ともいい所にいらっしゃいました」
そこへゆったりとした魔王のような雰囲気の宝石が、薄茶色の長い髪を揺らしてやってくる。落ち着いた緑色の瞳を細める彼は、シリマナイトと言う。手には、唐草模様の風呂敷包みを持っていた。
「シリマか。全く、緑色の宝石というのは興をそぐ者ばかりだな」
「ふふふ、そう仰らず。それに私個人は緑色ですが、『シリマナイト』の色は緑だけではありませんしね」
「どうかしたのか、シリマ」
元々静かな性格のジェダイトは、最早レッドには突っ込まずシリマに尋ねる。
「自己研鑽のお供に、私の新作タオルを試して頂けないかと思いまして」
そう言ってシリマは、風呂敷から少し厚めのタオルを取り出した。彼は繊維に関係する魔力に秀でていて、各種の布製品を生成することを得意としている。
今回は吸水性もさることながら、触り心地に最も注力したそうだ。そんな説明を聞きつつ、レッドとジェダイトはタオルを受け取る。
「こ、これは……!」
「素晴らしい……」
そして究極の優しさに包まれた二人は、思わず呟いた。滴っていた汗が瞬く間に吸収され、余分な熱も吸い取られていく感覚は、これ以上ないほどに心地よい。
彼らの迸っていた感情がなだらかになったのを、シリマは研究対象の如く確認する。
「ところで、そろそろ休憩しては如何ですか? もし小腹が空いていたら、向こうの通りにあるパン工房『心星』のパンが美味しいですよ」
そう勧められたレッドとジェダイトは、何となく顔を見合わせた。
「まあ……休息も大事なトレーニングだからな」
「その通りだ。行ってみるか、レッド」
二人はいつものよく分からない距離感のまま、シリマにタオルの礼を伝えて歩き出す。それを微笑んで見送るシリマは、新作の出来は上々だと満足げに頷いたのだった。
レッドがパンを食べながら、他の赤い宝石には負けないとジェダイトに熱弁するのは、また別の話。




