第七話 心星のベニトアイト
街のとある落ち着いた通りに、美味しそうな香りが漂っている。
それはショーウィンドウと、こじんまりとした看板が見える建物からのもの。看板に書かれているのは『心星』。棚に並んでいるのは、焼き目の美しい様々なパンだ。
「おはようございまーす。あんぱん、ありますか?」
お店のようなその建物の扉を開け、中に入ってきたのはユークレース。最近シキオンで暮らし始めた、すっきりとした青い瞳が特徴の宝石である。
「おはよう、ユーク。あるけど、今日は二つだけなんだ。小豆を切らしちまってな」
申し訳なさそうに応えるのは、紫がかった青の瞳と短い黒髪の青年。名をベニトアイトという彼は、ファイアと呼ばれる虹色の光を放つことで有名な宝石だ。
「全然大丈夫ですよ。二つとも貰っていいですか?」
「勿論、いいぜ」
ベニトが笑って了承していると、奥から別の宝石がやってくる。
「ええとこに来たがね、おみゃあさん。ついでにそこの食パン、四枚切りと六枚切りにしてちょー」
ユークにそう頼むのは、マリアライト。柔らかい黄色をした瞳に、濃い茶色の短い髪をしている青年だ。彼もベニト同様、ここでパンを作っているメンバーの一人である。
「お安い御用です、マリアさん。私、分割するの好きなんで」
言うが早いか、ユークが自身の魔力でスパッと食パンを偶数切りにすると、最後のパン作りメンバーが顔を覗かせた。
「わあ、いつもながらユークは凄いねぇ。助かるよぉ」
のんびりとした声で微笑む彼の名は、ダンビュライト。
薄いピンク色の瞳と、やや長めの金髪を持つ宝石である。
「お役に立てて何よりです。でも皆さんのほうが、こんな美味しいパンが秒で作れて素晴らしいですよ」
ベニトからお礼の言葉とあんぱんを受け取るユークは、そう言って三人を見やった。
「流石に秒ではないけどな」
「ニュアンスは合っとるでよ」
「ふふ。ありがとぉ、ユーク」
実は彼らのパン作りは、個々の宝石としての魔力が合わさって、唯一無二のものとなっている。
どういうことかと言えば、まず、モノの状態を表す『色』の把握が可能なベニトアイトは、その『色』を留めたり変化させたりすることが得意だ。つまり一種の時間操作ができる為、パン作りにおける発酵と焼成を担当している。
そしてバランス感覚に優れ、整える魔力を有するマリアライトは、生地をこねたり、ガス抜き及び成形の工程を担当。どちらも得意分野の能力なので、時短も時短、あっという間に作業を終了できるのだ。
浄化と癒しの魔力に長けているダンビュライトは、最後の仕上げに、体力や魔力回復の力をパンに与えている。
そんなあらゆる面でエネルギー補給のできるパンが、彼ら『心星』の作るパンだった。ちなみにベニトの時間操作能力により、パンはいつでもできたてを味わえる。
「そういえば、惣菜パンは作らないんですか?」
早くもあんぱんを一つかじりながら、ユークがそんなことを尋ねた。
「惣菜系は、料理も得意じゃないといけないからねぇ」
「味を整えるのはええけどよ、レシピを覚えるのが大変だがや」
ダンビとマリアは、ユークの提案に首を捻る。
しかしベニトだけは、興味深そうに頷いた。
「素材そのものだけに頼らない味か。難しそうだが、やってみるのもいいと思うぜ」
「マジかや……」
「でも、美味しいのが作れたら嬉しいよねぇ」
「やった! 楽しみにしてますね」
そうして後日、心星のパンに新たなレパートリーが加わるのは、また別の話。




