第二十二話 オブシディアンとセレンディバイトの共通点
「ディア殿、本日はお願いがあって参ったでござる!」
暖かい日差しが降り注ぐ、穏やかな昼下がり。
静かな自分の工房でカステラを食べていたオブシディアンは、忍者らしからぬハツラツとした声に顔を上げた。視線の先には、黒髪で忍び装束のような衣装を纏った宝石、セレンディバイトがいる。
「……セレンさん、こんにちは。私でできることなら良いんですけど、何でしょうか?」
オブシディアンがちらりと鋭い犬歯を覗かせながら応えれば、セレンは威勢の良さとは裏腹に、丁寧な仕草で工房の扉を閉めた。その隙にオブシディアンはカステラの最後の一口を放り込み、いつものように白いマスクを身に着ける。
「忙しいところにかたじけないが、拙者に苦無を作って欲しいのでござる。ディア殿は忍びの聖地・日本国産であり、宝石『オブシディアン』としての魔力も、類稀なる優秀さでござるからな」
「忍びの聖地……」
己の能力を絶賛されたオブシディアンだが、自分の産地に与えられた称号のほうがインパクトが強い。思わずオウム返しをする彼女に、セレンは頷いて言葉を続けた。
「以前『忍者からくりパラダイス村』に行った時も、大変な感銘を受けたものでござるよ」
「忍者からくり……何か凄そうな所ですね」
深い青緑色の瞳を輝かせるセレンは、恍惚としている。対してオブシディアンはオウム返しという名の自己理解度アップを諦め、平坦な感想を述べた。彼女の艶やかな黒い瞳の虹彩に浮かぶ桜の模様は、心なしか疲れているように見える。
基本的にインドア派で一人が好きなタイプのオブシディアンは、テンションの高いオタク気質の友人が多いことに、胸中で首を傾げていた。勿論、彼女たちのことは好きだけれども。
「それにディア殿とは同じ、『一見して黒いが光にかざすと透明』な宝石同士でござるからな。是非、貴殿に頼みたいのでござる」
「苦無を作るのは良いですけど、『オブシディアン』は光を通さない個体も多いですよ」
「そこも『セレンディバイト』と同じでござる。これぞ共鳴……拙者が忍びに惹かれるのも、必然だった訳でござるよ!」
「そうなんですね」
後半の力説はスルーし、オブシディアンは宝石の話のほうにだけ返事をした。それが相手に伝わっているかは不明だが。
そもそもセレンディバイトという宝石は、超がつくレアストーンである。ぱっと見で黒くなく、透明なのが分かる個体などは、滅多なことではお目にかかれない。加えてオブシディアンは他者に興味が薄く、セレンディバイトと言えば目の前の彼女――一見して黒いが光にかざすと透明――しか知らなかった。
「ええと……どんな見た目がいいとか、そういうのあります?」
「おおっ、よくぞ聞いてくれたでござる! この秘伝書に載っているような……」
そう言ってセレンが取り出したのは、忍者からくりパラダイス村のパンフレットである。
オブシディアンがついでに手裏剣も作ってあげたのは、また別の話。




