第十九話 スピネルと占い
「タロット占いって、難しいですね……」
テーブル上に並べたタロットカードを前に、スピネルは自虐的に苦笑した。紺色の瞳の虹彩に桜の模様を持つ、引きこもりがちな性格の宝石である。
「可愛い絵柄ね。スピちゃんらしいわ」
そんなスピネルの向かいで優しく微笑むのは、この屋敷で何でも相談室を開いているアメジストだ。落ち着いた紫の瞳の虹彩に桜の模様を浮かべ、デフォルメされた猫で描かれたタロットカードを見やる。
「スピちゃんは優しいから、『期待に応えなきゃ』って焦っちゃうんだと思うけど、苦手に感じるものを無理にやらなくてもいいのよ。特にガーネットさんは、何かができないことを指差すような宝石じゃないもの」
「それは勿論、分かってます……!」
事の発端であるガーネットの名前が出て、スピネルは慌てて言葉を返した。
本日のスピネルの相談事はというと。
スピネルという宝石には『スピネル式双晶』と呼ばれる、三角形の板が少しズレて重なり合っているような見た目の結晶がある。これが六芒星に見えることから、ガーネットが占いを連想し、スピネルに占術ができるかを尋ねてきたのだ。
とはいえアメジストとスピネルの認識通り、ガーネットは単純に疑問を口にしただけである。
「絵が可愛かったので、これならと思ったんですけど……」
スピネルはそう言って、外界で見つけてきた猫イラストのタロットカードに触れた。
宝石は自身の性質や、関連する様々な事柄の影響を受けた能力を幾つも有している。しかし、その縁の全てを包括しているという訳でもない。よっていくら六芒星が占いを彷彿とさせるものであっても、スピネルに特別な占術能力はなかった。
「じゃあ、運試しのおみくじみたいに使うのはどうかしら? それなら魔力も知識も要らないし、誰でも遊べるカードになると思うわ」
「あっ、それいいですね……!」
占いというより猫が名残惜しかったスピネルは、パッと表情を明るくする。その様子に微笑むアメジストは、お茶を淹れ直そうと急須に手を伸ばした。
――その時。
「こんにちはー。ドナさんからローズティーのお届け物でーす」
不意に部屋の扉が叩かれ、ひょっこりとユークレースが顔を覗かせる。すっきりとした美しい青の瞳の彼女は、ロードナイトから預かった紙袋を手に提げていた。
「こんにちは、ユークちゃん。お遣いしてくれて、ありがとう」
「……こんにちは」
もうそんな時間だったかと立ち上がるアメジストに、人見知りで小声になるスピネル。そしてそんな雰囲気の機微を特に気にしないユークは、テーブルに置かれていたカードに目が惹かれている。
「わあ、カードゲームですか? 私もいま偶然、カルタ持ってるんですよ」
「えっ、何で?」
「まあ、そうなの?」
ユークの謎の持ち物に思わず突っ込むスピネルの横で、アメジストが穏やかな笑みを浮かべた。
「これ! 竹とか桜とか三毛猫とか、素敵じゃないですか?」
アメジストたちが興味を持ってくれたようなので、ユークは楽しげにカルタの絵を見せる。その『猫』に反応したスピネルは、先程の疑問を忘れて食いついた。
「可愛いですね……」
「ですよね! 良かったらお二人も、やりませんか?」
「うふふ、いいわね。日本らしいものが沢山描かれてて、心が落ち着くわ」
アメジストのそんな言葉に、ユークは一瞬だけ瞳が揺れる。
「……私も、そう思います」
ふわりと微笑んで応えるユークの姿は、純和風の屋敷にとてもよく馴染んでいた。瞳に桜の模様を持つ、アメジストとスピネルのエネルギーとも。
ユークが自分の好みの根源を何となく意識するのは、また別の話。




