表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/133

5-7「原初の器」

崩れた研究施設の外。


一行は森の中に少し開けた場所を見つけ、そこで足を止めた。


アルシェリアはまだ完全には回復していない。


フランソワーズが簡易の結界を張り、

アーニャが周囲の警戒に立つ。


フレイは腕を組んで、じっとアルシェリアを見ていた。


クレージュは少し離れた場所に立っている。


先ほどの言葉が、頭から離れなかった。


――原初の器。


沈黙を破ったのはフレイだった。


「で?」


低い声。


「さっきの話、説明してもらおうか」


アルシェリアは小さく息を吐いた。


「……そうね」


ゆっくりと視線を上げる。


その目はすでに、研究者のものに戻っていた。


「まず前提から話す」


「この世界の魔法は、六つの属性で構成されている」


フランソワーズが頷く。


「火、水、土、風、光、闇」


「基本だな」


アルシェリアも頷いた。


「でもそれは“完成形”じゃない」


クレージュが反応する。


「違うのか?」


アルシェリアは地面に指で円を描いた。


「本来の構造はこう」


円の中心に一点。


そこから六方向へ線が伸びる。


「中心があって、六つに分かれる」


「つまり」


「六属性の前に、もう一つある」


エイドが静かに言う。


「原初属性」


アルシェリアは少し驚いた顔をした。


「……知ってるの?」


「理論だけは」


エイドは答えた。


「実在は確認されていない」


アルシェリアはクレージュを見る。


「でも今、確認できた」


クレージュは眉をひそめる。


「それが俺ってことか?」


「そう」


即答だった。


「あなたの中には」


「六属性とは別の流れがある」


フレイが口を挟む。


「そんなもん、俺には感じねえぞ」


アルシェリアは首を振る。


「普通は感じない」


「六属性に隠れてるから」


「でも私は分かる」


一歩、クレージュに近づく。


「あなたの魔力は」


「六つで終わってない」


クレージュの胸の奥が、わずかに脈打った。


言われている意味は分からない。


だが。


何かが引っかかる。


フランソワーズが言う。


「仮にそれが本当だとして」


「なぜ灰色教団が関わる」


アルシェリアの表情が変わる。


わずかに影が落ちる。


「……灰色術式は」


「六属性を無理やり混ぜる技術」


「本来存在しないはずのものを作る」


フレイが言う。


「さっき見た通り、失敗だらけだ」


「ええ」


アルシェリアは頷く。


「不完全な模倣だから」


「本物じゃない」


「だから安定しない」


クレージュが聞く。


「じゃあ、本物は?」


アルシェリアはまっすぐ見た。


「原初」


静かな言葉だった。


「六つを無理やり混ぜるんじゃない」


「最初から一つのもの」


エイドが言う。


「つまり灰色教団は」


「原初を再現しようとしている」


「そう」


アルシェリアは答える。


「でも再現できない」


「だから――」


一瞬、言葉を止める。


それから続けた。


「器が必要になる」


フレイの視線が鋭くなる。


「……クレージュか」


アルシェリアは頷いた。


「あなたは“完成している”」


「六属性がすでに安定してる」


「その上で、原初の流れを持ってる」


クレージュは言葉を失った。


そんなこと、考えたこともない。


ただ魔法が使えただけだ。


ただ強かっただけだ。


だが。


それが理由だとしたら。


フランソワーズが一歩前に出る。


「待て」


「その理屈なら」


「こいつは“狙われる存在”になる」


アルシェリアは静かに答えた。


「もうなってる」


その一言で、空気が張り詰めた。


アーニャが言う。


「最初から、そうだったってことにゃ?」


エイドが低く言う。


「灰色教団は気づいている」


「クレージュの価値に」


クレージュは拳を握った。


「……ふざけるな」


思わず口に出た。


全員が彼を見る。


「器とか、実験とか」


「勝手に決めるな」


声は強くなかった。


だが、はっきりしていた。


「俺は俺だ」


アルシェリアは少しだけ目を細めた。


それから言う。


「そう」


「それが重要」


クレージュが顔を上げる。


「え?」


アルシェリアは静かに続けた。


「原初は不安定」


「意志がないと崩れる」


「だから」


一歩近づく。


「あなたが“あなた”であることが重要」


フレイが鼻で笑う。


「難しい言い方してるが」


「要するに」


「勝手に使われるなってことだな」


アルシェリアは少しだけ口元を緩めた。


「そういうこと」


フランソワーズが言う。


「なら結論は一つだ」


「守る」


短い言葉。


だが迷いはない。


アーニャも頷く。


「当然にゃ」


エイドは何も言わない。


だが視線はクレージュに向いている。


監視ではなく――確認。


クレージュはゆっくり息を吐いた。


まだ全部は分からない。


だが一つだけ、はっきりしている。


自分は狙われている。


そして。


守るものがある。


その時。


アルシェリアが小さく呟いた。


「……やっぱり」


クレージュが振り向く。


「何が?」


アルシェリアは少し迷ってから言った。


「近づくと」


「安定する」


エイドが反応する。


「何がだ」


アルシェリアはクレージュを見たまま言った。


「灰色の残滓」


「消えてる」


一同が周囲を見る。


確かに。


さっきまで感じていた違和感が、薄れている。


エイドが低く言う。


「……共鳴か」


フレイが眉を上げる。


「便利な体質だな」


アルシェリアは首を振った。


「便利じゃない」


「危険」


その言葉に、再び緊張が走る。


森の奥から風が吹いた。


灰色教団。


原初。


そして自分。


クレージュは剣を握った。


この力が何であれ。


使い方は、自分で決める。


その意思だけは、揺らがなかった。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ