5-6「原初の欠片」
崩れかけた研究施設の奥。
壁の向こうから聞こえた声に、
一行は一瞬だけ動きを止めた。
「……誰?」
かすかな声だった。
女の声。
しかも――若い。
フランソワーズが低く言う。
「警戒しろ」
剣を構えたまま、ゆっくりと奥へ進む。
扉は半ば壊れていた。
鉄の扉が内側から歪んでいる。
フレイが押すと、重い音を立てて開いた。
その先には、もう一つの部屋があった。
そこは明らかに、先ほどまでの実験室とは違う。
牢のような部屋。
壁には拘束用の魔法陣。
床には鎖。
そして――
部屋の中央に、ひとりの少女が座っていた。
銀色の髪。
長い耳。
淡い緑色の瞳。
エルフだった。
彼女は壁にもたれながら、ゆっくり顔を上げる。
目が合う。
その瞬間。
少女の表情が変わった。
驚き。
信じられないという顔。
それから――
小さく呟く。
「……生きてる」
クレージュは眉をひそめた。
「え?」
少女は立ち上がろうとして、ふらついた。
フランソワーズがすぐに近づく。
「動くな」
「怪我は」
少女は首を振る。
「平気……」
だが声は弱い。
魔力をかなり消耗しているのが分かる。
フレイが鎖を見た。
「魔力拘束か」
エイドが近づき、床の魔法陣を見る。
「灰色術式だ」
「かなり強力だな」
アーニャが眉をしかめる。
「こんなところに閉じ込めてたにゃ?」
少女はゆっくり言う。
「……研究材料」
その言葉に、空気が冷えた。
クレージュが聞く。
「研究?」
少女は頷く。
「灰色教団」
「私を捕まえて」
「原初理論を聞き出そうとしてた」
エイドが目を細める。
「原初理論……」
少女はようやくクレージュを見た。
その瞬間。
また、表情が変わる。
驚き。
混乱。
そして――確信。
彼女は一歩、近づいた。
「……信じられない」
フレイが言う。
「何がだ」
少女はクレージュを指さす。
「あなた」
クレージュが首をかしげる。
「俺?」
少女は小さく呟いた。
「あり得ない」
「そんなはずない」
フランソワーズが警戒する。
「どういう意味だ」
少女は静かに言った。
「原初の器が……」
一同が固まる。
「生きてる」
クレージュが聞き返す。
「……何?」
少女は一歩近づく。
クレージュをまっすぐ見た。
「あなた」
「六彩じゃない」
空気が止まる。
フレイが眉をひそめる。
「何だと」
少女は続けた。
「六属性の魔力は感じる」
「でもそれだけじゃない」
ゆっくり言う。
「その奥に」
「もう一つある」
クレージュの胸の奥が、微かにざわめいた。
エイドが少女を見る。
「君は誰だ」
少女は少しだけ姿勢を正した。
「アルシェリア」
「アルシェリア=シルヴァ」
フランソワーズが驚く。
「シルヴァ……?」
「エルフ王国の名だ」
アルシェリアは頷く。
「第二王女」
一瞬、沈黙が落ちた。
アーニャが言う。
「王女にゃ?」
フレイが頭を掻く。
「また王族か」
アルシェリアは気にせず続けた。
「私は魔導研究者」
「原初属性の研究をしていた」
エイドが静かに言う。
「それで灰色教団に捕まった」
「そう」
アルシェリアは答えた。
「私の研究を欲しがった」
クレージュは聞く。
「原初って……何なんだ」
アルシェリアはクレージュを見つめる。
「世界の根源」
「六属性の前にあるもの」
フレイが腕を組む。
「そんな話、聞いたことないぞ」
アルシェリアは静かに言った。
「だから」
「研究してた」
それから、もう一度クレージュを見る。
その瞳は研究者のものだった。
観察する目。
分析する目。
そして――
驚き。
「でも」
アルシェリアは言った。
「まさか」
「本当に存在するなんて」
クレージュが聞く。
「何が」
アルシェリアははっきり言った。
「原初の器」
「それが」
「あなた」
森の奥で、風が木々を揺らした。
研究施設の崩れた壁から、光が差し込む。
その光の中で、アルシェリアは呟く。
「……やっと見つけた」
クレージュの運命を変える存在が、
その時、現れた。
エルフの少女が現れたことで灰色の謎が解明され始める。
次回もお楽しみに。




