5-5「灰色の研究跡」
一行はある研究施設にたどり着く。
そこには1人の少女が…
ルーン村を後にした一行は、北西へ続く森へ入った。
森の奥は静かだった。
木々は高く、枝葉が空を覆い、昼間でも薄暗い。
鳥の声も少ない。
普通の森とは、どこか違う。
アーニャが低く言った。
「静かすぎるにゃ」
フレイも頷く。
「魔物の気配もない」
普通なら、森の奥に入れば小型の魔物くらいはいる。
だが今は――
何もいない。
エイドが言った。
「灰色術式の影響だ」
「周囲の魔力が乱れている」
「生き物は本能で避ける」
クレージュは足を止めた。
「つまり」
「この先にある?」
エイドは頷く。
「近い」
一行はさらに進んだ。
やがて木々の間に、人工物が見えた。
石の壁。
半ば崩れた建物。
森の中に隠れるように建っている。
フランソワーズが剣を抜いた。
「遺跡……?」
フレイが首を振る。
「違う」
「新しい」
壁にはまだ崩れきっていない跡がある。
そして――
焦げ跡。
爆発したような痕跡。
エイドが静かに言った。
「研究施設だ」
アーニャが耳を動かす。
「誰もいないにゃ」
「もう逃げてる」
フランソワーズは慎重に中へ入った。
建物の中は荒れていた。
机。
魔導装置。
割れた魔石。
そして――
壁一面に刻まれた魔法陣。
クレージュはそれを見て、息を止めた。
「これ……」
普通の魔法陣ではない。
六属性の配置ではない。
歪んだ円。
重なり合う線。
不自然な構造。
エイドが言う。
「灰色術式の実験だ」
フレイが周囲を見る。
「かなりの数だな」
床には壊れた装置が転がっていた。
魔石を無理やり接続したような構造。
そして――
中央の装置。
巨大な円形の魔法陣。
そこには、はっきりとした痕跡が残っていた。
フランソワーズが低く言う。
「これは……」
「召喚陣?」
エイドは首を横に振る。
「違う」
「融合術式だ」
クレージュが聞く。
「融合?」
エイドは床の線を指さした。
「火」
「水」
「土」
「風」
「光」
「闇」
六つの位置に、魔石を置く場所がある。
その中心に――
もう一つの円。
「六属性を強制的に混ぜる」
「それが灰色術式の基本」
フレイが低く言う。
「無茶だな」
「そんなことしたら暴走する」
エイドは淡々と答えた。
「実際に暴走している」
壁の焦げ跡。
壊れた装置。
そのすべてが証拠だった。
アーニャが奥の部屋から声を上げた。
「こっちにゃ!」
一行は駆け寄る。
そこにあったのは――
檻だった。
鉄の檻。
中は空。
だが床には魔法陣が刻まれている。
フランソワーズの顔が険しくなる。
「……生体実験か」
クレージュの拳が握られた。
「人間……?」
エイドは床を調べる。
「いや」
「魔物」
フレイが言う。
「それで灰色兵器を作るつもりか」
エイドは頷く。
「六属性を融合した魔物」
「人工魔物だ」
クレージュは部屋を見回した。
灰色教団は、ただの集団ではない。
研究している。
理論を作っている。
世界を壊す方法を。
フランソワーズが言う。
「ここは放棄されている」
「だが」
「つい最近まで使われていた」
エイドも同意する。
「逃げたばかりだ」
アーニャが鼻をひくひくさせた。
「匂いがするにゃ」
「まだ残ってる」
クレージュが聞く。
「追える?」
アーニャは頷く。
「森の奥」
「でも……」
耳がぴくりと動く。
「なんか変にゃ」
フレイが聞く。
「どう変なんだ」
アーニャは眉をひそめた。
「匂いが二つある」
クレージュが振り向く。
「二つ?」
エイドも気づいたようだった。
「……なるほど」
フランソワーズが聞く。
「何だ」
エイドは静かに言った。
「一つは教団」
「もう一つは」
わずかに間を置く。
「エルフだ」
クレージュが驚く。
「エルフ?」
エイドは壁の奥を見る。
「しかも――」
「かなり強い魔力」
フレイが剣を握る。
「捕まってるのか?」
その時。
奥の壁の向こうから――
微かに音がした。
金属の軋む音。
誰かが、動いた。
フランソワーズが低く言う。
「……まだいる」
クレージュは剣を抜いた。
灰色研究施設の奥。
そこにいるのは――
敵か。
それとも。
次の瞬間。
壁の奥から、かすかな声が聞こえた。
「……誰?」
エルフの少女の声だった。
次回、少女の正体が判明する。




