表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/130

5-4「灰色に触れた村」

北西へ続く街道を進み、半日。


一行は丘を越え、森の縁にある小さな村へと辿り着いた。


村の名は――ルーン。


王都からそれほど離れていない、

農民たちが静かに暮らす小さな集落だ。


遠くから見れば、平和そのものだった。


畑には麦が揺れ、

牛がゆっくりと草を食み、

村の煙突からは白い煙が上がっている。


だが。


村の入り口へ近づいた瞬間、

クレージュは眉をひそめた。


「……おかしい」


フレイも同じことを感じていたらしい。


「分かるか」


クレージュは頷く。


「空気が……」


言葉を探す。


「濁ってる」


エイドが静かに答えた。


「灰色術式の残滓だ」


フランソワーズは剣の柄に手を置く。


「まだ残っているのか」


「濃くはない」


エイドは周囲を見渡す。


「だが確実にここを通っている」


アーニャが鼻をひくひくさせた。


「嫌な匂いにゃ」


「魔物の匂いとも違う」


「なんか……気持ち悪いにゃ」


村へ入る。


数人の村人がこちらを見た。


旅人だと思ったのだろう。


警戒の色はあるが、恐怖はない。


少なくとも――今のところは。


フランソワーズが先に進み、声をかける。


「王国騎士団だ」


「少し話を聞きたい」


農夫の男が帽子を取った。


「騎士様?」


「何かあったんですか?」


フランソワーズは周囲を見回す。


「最近、この辺りで変わったことはなかったか」


農夫は考える。


「変わったこと……」


「いや……」


「特には」


クレージュは地面を見た。


草がところどころ枯れている。


不自然な色。


灰色に近い。


フレイが低く言う。


「畑を見せてもらえるか」


農夫は戸惑ったが、頷いた。


「こっちです」


案内された畑は、村の外れにあった。


そこを見た瞬間、

アーニャが声を上げる。


「これ……」


畑の一部だけ、色が違っていた。


麦が枯れている。


土が変色している。


そして――


地面に刻まれた跡。


魔法陣の痕跡だった。


フランソワーズが息を飲む。


「魔法陣……?」


エイドがしゃがみ込む。


指で地面をなぞる。


「消された跡だ」


「だが完全ではない」


クレージュも近づく。


刻まれていた形は、ほとんど消えている。


だが。


残っている線を見るだけで分かる。


普通の魔法陣ではない。


六属性の構造ではない。


「灰色術式……」


クレージュが言うと、

エイドが頷いた。


「実験だ」


「しかも小規模」


フレイが畑を見回す。


「村人を巻き込まない場所を選んだわけか」


「違う」


エイドが言う。


「ここは――失敗だ」


クレージュが顔を上げる。


「失敗?」


エイドは枯れた麦を指さした。


「灰色術式は不安定だ」


「制御できなければ、こうなる」


「周囲の魔力が壊れる」


「土地が死ぬ」


村人たちがざわついた。


「畑が……死ぬ?」


農夫の顔が青くなる。


「そんな……」


フランソワーズはすぐに言った。


「まだ完全ではない」


「王都へ報告する」


「魔導院に調査を依頼する」


村人は深く頭を下げた。


「ありがとうございます……」


クレージュは地面を見た。


この畑は、村人の生活だ。


収穫がなくなれば、

冬は越せない。


灰色教団は――


そんな場所で実験をしている。


フレイが静かに言う。


「人の生活なんて、眼中にない連中だな」


アーニャが拳を握る。


「最低にゃ」


エイドは立ち上がった。


「ここは通過地点だ」


「本拠ではない」


フランソワーズが聞く。


「追えるか」


エイドは目を閉じる。


空気を探る。


しばらくして言った。


「山へ向かっている」


「この村の北西」


クレージュも空を見た。


遠くに見える山。


森が深く続いている。


人が簡単に入る場所ではない。


フレイが言う。


「隠れるには都合がいい」


フランソワーズは頷く。


「ここで休むか」


エイドは首を振る。


「時間が経てば痕跡は消える」


「今ならまだ追える」


クレージュは村を振り返った。


子供たちが畑を見ている。


大人たちが心配そうに集まっている。


灰色教団は、

こうして世界を壊している。


小さく。


だが確実に。


クレージュは剣を握った。


「行きましょう」


フレイが笑う。


「そう来なくちゃな」


フランソワーズが馬へ向かう。


「北西だ」


「山へ入る」


アーニャが言う。


「敵の匂い、濃くなってるにゃ」


エイドが最後に言った。


「次は――」


「もっと近い」


村を離れ、

一行は森へ向かった。


灰色の痕跡は、

確実にその奥へ続いている。


そしてその先にあるものを、

まだ誰も知らなかった。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ