4-30「守りたい人」
夜の王都は静かだった。
昼間の騒ぎが嘘のように、街は落ち着きを取り戻している。
だが王城の一角。
小さな庭園には灯りが残っていた。
クレージュは石のベンチに座っている。
今日の出来事が頭を離れない。
灰色術式。
触媒。
そして――
「世界規模案件」
エイドの言葉。
自分が中心にいる。
それが、少し怖い。
「……ここにいたのね」
振り向く。
リシェル。
白いドレス姿。
王女としてではなく、一人の少女として。
クレージュは立ち上がる。
「すみません」
「急に呼び出して」
リシェルは首を振る。
「いいの」
「私も話したかった」
二人は庭園を歩く。
夜風が静かに吹く。
しばらく沈黙が続く。
先に口を開いたのはリシェルだった。
「怖かった」
クレージュが振り向く。
リシェルは空を見ている。
「今日の灰色」
「あなたが巻き込まれるのが」
声は小さい。
王女ではない。
ただの少女。
クレージュは少し驚く。
「俺は大丈夫です」
リシェルは首を振る。
「違う」
「あなたはいつもそう言う」
彼女の瞳が揺れる。
「でも」
「今日分かった」
「あなたは狙われている」
風が止まる。
クレージュは何も言えない。
リシェルは続ける。
「王女として」
「私は王国を守る」
「でも」
一歩近づく。
距離が縮まる。
「一人の人間として」
「あなたも守りたい」
クレージュの胸が少し熱くなる。
「……ありがとうございます」
だが言葉がそれしか出ない。
リシェルは少し笑う。
「真面目ね」
「でも」
「それがあなたらしい」
少し沈黙。
遠くで鐘が鳴る。
王都の夜の鐘。
リシェルは小さく息を吸う。
「もし」
「あなたが王国を離れることになったら」
クレージュは驚く。
「離れません」
「まだ分からない」
リシェルは言う。
「灰色教団」
「管理者」
「戦争」
「何が起きるか分からない」
彼女は真っ直ぐクレージュを見る。
「それでも」
「覚えていて」
「私はあなたの味方」
クレージュの心が揺れる。
今まで戦いばかりだった。
でも今、はっきり分かる。
守りたいものがある。
それは王国でも使命でもない。
目の前にいる少女。
「……リシェル」
名前を呼ぶ。
初めて。
リシェルの目が少し大きくなる。
クレージュは言う。
「俺」
「逃げません」
「灰色教団も」
「世界も」
「全部止めます」
リシェルは微笑む。
「知ってる」
「あなたはそういう人」
夜風が吹く。
二人の距離は少し近い。
まだ触れてはいない。
でも、確かに近づいている。
現実はここで終わらない。
灰色教団。
六彩触媒。
王都危機。
そして――
守りたい人。
むしろ…
これからが本当の戦いとなる。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回からは第五章となります。
お楽しみに。




