4-22「灰色の記憶」
第四章は、ここで完全に転換します。
政治でも管理でもない。
クレージュはどう対応していくのか。
夜は深く、静かだった。
だがクレージュの胸はざわついている。
エイドの言葉が、頭から離れない。
灰色の村は、管理側の過失だったとしたら。
(過失……?)
事故ではない。
暴走でもない。
だが“意図的”でもない可能性。
その間にあるもの。
翌朝。
クレージュは魔導院を訪れた。
正式な任務ではない。
個人的な確認だ。
「灰色の村の記録を見せてください」
受付の魔導士が戸惑う。
「それは……機密に近い」
「協力任務の一環です」
嘘ではない。
灰色と同系統の異変が起きた。
関連性はある。
やがて、魔導院長が姿を現す。
「……理由は」
「流れが似ていました」
クレージュは率直に言う。
「奪うのではなく、集める」
「回路を作る魔法」
魔導院長の表情がわずかに変わる。
「……地下で見たのか」
「はい」
沈黙の後、院長は言った。
「来なさい」
地下資料室。
埃を被った巻物と記録水晶。
魔力測定ログが、淡く光る。
「これが灰色の村当日の魔力推移だ」
クレージュは目を閉じ、感じる。
異常な吸引。
だが中心は一点ではない。
複数。
(……回路だ)
「単発暴走じゃない」
「流れが作られてる」
魔導院長が低く言う。
「当時は六彩暴走と判断した」
「だが、証拠はなかった」
「管理側の観測遅延があった」
クレージュの胸が締まる。
(遅れた……?)
「回路形成に気づけなかった」
「結果として、
暴走と誤認した」
「つまり」
クレージュの声が低くなる。
「六彩が原因じゃなかった可能性がある」
魔導院長は、はっきり言わない。
だが否定もしない。
「もう一つある」
院長は、別の記録水晶を取り出す。
「倉庫街の異変」
二つの波形を並べる。
灰色の村。
倉庫街。
酷似している。
違うのは規模だけ。
「……誰かが」
クレージュの喉が乾く。
「“流れ”を研究している」
沈黙。
魔導院長は、静かに言った。
「六彩の魔力量は、巨大だ」
「それは吸引の“核”として理想的だ」
クレージュの背筋が冷える。
(俺を核にするつもりだった……?)
灰色の村は失敗。
倉庫街は小規模実験。
流れは、完成していない。
だが確実に“設計されている”。
その時、背後で声がした。
「やはりそこまで辿り着くか」
振り向く。
エイドが立っている。
「管理者」
魔導院長が警戒する。
「敵ではない」
エイドは淡々と言う。
「少なくとも、
今は」
クレージュは一歩前に出る。
「知ってるんですか」
「灰色の村の真相を」
エイドは少しだけ視線を落とす。
「完全ではない」
「だが」
「流れを“外から”歪める技術がある」
「王国内部ではない」
「もっと古い系譜だ」
空気が凍る。
「……古い?」
「六彩以前の理論」
「大陸戦争期に失われたはずの術式」
魔導院長の顔色が変わる。
「それは……禁忌だ」
エイドはクレージュを見る。
「お前を管理するより、
先に潰すべきものがある」
「灰色は事故ではない」
「実験だ」
クレージュの拳が、無意識に握られる。
(灰色の村は……実験)
怒りが湧く。
だが暴れない。
(保つ)
エイドは静かに言う。
「お前は核になり得る」
「だから狙われる」
「枠の中にいる方が、まだ安全だ」
沈黙。
クレージュはゆっくり顔を上げる。
「……なら」
「探します」
「灰色を作った流れを」
エイドはわずかに口元を緩める。
「それが次の試験だ」
“灰色の村の真相”。
六彩は狙われる存在か。
それとも、阻止する鍵か。
均衡は、再び揺れ始めた。




