4-21「接触」
物語は
思想から“真相”へ移り始める。
そして、管理者が動いた。
夜は静かだった。
王都の喧騒が嘘のように消え、
灯りだけが石畳を照らしている。
クレージュは宿の屋根に腰を下ろしていた。
今日の戦闘は小規模だった。
だが心は、妙に落ち着かない。
(見られてる)
気配。
敵意ではない。
観測に近い感覚。
「……出てきてください」
風が、止まった。
屋根の向こう側から、足音もなく一人の男が現れる。
黒い外套。
落ち着いた佇まい。
魔力は抑えられている。
だが――
底が見えない。
「察知できるか」
低い声。
「合格だな」
クレージュは立ち上がる。
「……エイド」
男はわずかに目を細めた。
「知っているか」
「噂は早いですから」
沈黙。
二人の間に流れるのは、敵対ではない緊張。
「今日の戦闘」
エイドが言う。
「六彩を使わなかったな」
「必要なかったので」
「それとも、
使えば立場が悪くなるからか」
鋭い。
クレージュは正直に答える。
「両方です」
エイドは小さく笑った。
「悪くない」
「管理者としては?」
「評価は高い」
エイドは屋根の端に立つ。
「だが確認する」
「お前は、
枠の中で本当に自由か」
クレージュは即答しない。
「自由です」
「なぜ言い切れる」
「条件を出したからです」
エイドの視線が鋭くなる。
「枠は広がることもある」
「狭まることもある」
「その時は?」
風が強まる。
王都の灯りが揺れる。
「その時は、
話します」
「話しても通じなければ?」
「その時は」
クレージュの目がわずかに強くなる。
「選び直します」
沈黙。
エイドは、少年を観察する。
恐怖はある。
だが逃げない。
理想を語る。
だが現実も見ている。
「……灰色の村」
エイドが静かに言う。
空気が冷える。
「お前は、
何が起きたと思っている」
「事故じゃない」
「六彩暴走でもない」
クレージュは迷わない。
「意図的です」
エイドは目を細める。
「証拠は?」
「ないです」
「だが?」
「流れが不自然でした」
「今回の異変と似てる」
沈黙が長く続く。
エイドは空を見上げる。
「もし私が言ったらどうする」
「灰色の村は、
管理側の過失だったと」
クレージュの瞳が揺れる。
怒りではない。
重さ。
「……なら」
「どうする」
「同じことを、
繰り返させません」
静かな宣言。
エイドはゆっくり頷く。
「それが聞きたかった」
「試験ですか」
「そうだ」
「お前が“暴れる者”か、
“保つ者”かを」
風が、二人の間を抜ける。
「今のところ」
エイドは言う。
「合格だ」
クレージュは息を吐く。
「不合格なら?」
「管理する」
淡々とした答え。
嘘はない。
「……正直ですね」
「管理者は嘘をつかない」
エイドは振り向く。
「だが覚えておけ」
「枠は、お前を守る」
「同時に、お前を縛る」
「どちらに傾くかは」
一瞬、視線が合う。
「お前次第だ」
次の瞬間、
気配が消えた。
屋根の上には、夜風だけが残る。
クレージュはゆっくり座り直す。
(敵じゃない)
(でも味方でもない)
一番厄介な立場。
だが一つ、確信があった。
エイドは“世界を保とうとしている”。
自分と、目的は似ている。
方法が違うだけだ。
王都の灯りを見つめながら、
クレージュは静かに呟く。
「……次は何が来るのか」
次に揺らぐのは、
灰色の村の核心。
どうぞお楽しみに。




